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【書評】ルシア・ベルリン「掃除婦のための手引き書」ーいやいやすごい!なぜこの物語、この作者が生前は一部の人にしか知られることがなかったのだろう?

 

 話題の書の文庫化。やっと読めた。短編集なので最初の数編を読んでから、著者について書いてある文章を読んだ。

 

 で、気づいた。そうか、これはルシア・ベルリンが自分の人生の様々なことに材を得て書いた物語たちなのだと。ではこれは自伝的小説なのか?それとも、私小説?いや、それもなんだか違う。ううむ、なんと言ったらいいのだろう?ルシア・ベルリンという作家は、「人生が物語を紡いでいる人」なのだ。

 

 だからなのだろう、独特のテイストとユーモアで書かれたその物語は比類なきものになっている。読む者一人一人に強烈な印象を残す。そんな物語がなんでまた長年の間見向きもされずにいたのか、不思議でならない。

 

 掃除婦として働く主人公を描いた表題作はその日常のいろいろがおもしろいのだが、読み進めていくうちに主人公は死んでしまったターという男を忘れられず、自分も死にたがっていることが分かる。それにしても「サンパブロ通りに似ているからお前が好きだよ」とか「ターはバークレーのゴミ捨て場に似ていた」なんて表現いったいどこからやって来るのだろう?有名な男に従姉と共に少女が会いに行く「セックス・アピール」という話もおもしろいが、そこで従姉が言い放つ「セックス・アピールの鉄則はね」「とにかく一人で動くこと。相手の子が美人とかブスとかの問題じゃない。ただ作戦がややこしくなるし、まどろっこしいのよ。」というフレーズにもドキッとする。ルシア・ベルリンの物語にはこんな言葉たちが渦を巻くようにあって、比類なき物語をさらに比類なきものにしている。

 

 僕らはただその物語を堪能すればいい。そこにある喜怒哀楽、生と死、なんだか分からないぐちゃぐちゃしたもの。そのすべてを。
◆DATA  ルシア・ベルリン「掃除婦のための手引き書」(講談社文庫)900円(税別) 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)