「時を止める」能力者に会った時の話
あなたは、時を止めることができる人に会ったことはありますか?
私はある。
Aは以前の職場の後輩だ。
当時の私は20代後半、Aは20代半ば。
月に1~2回飲みに行くくらいの仲だった。
Aはなかなか大きな身体をしており、優に100kgを超えている。
BMI値でいうと35くらいか、端的に言えばデブ。
見た目も老けていて、30代と間違えられることが多々あった。
自分でもよくそのあたりをディスっている。
「自由に時間を止められたら、西山さんは何しますか?」
ある日の酒の席で、こんなありきたりな話題になった。
もう何十年も前から、幾人もが妄想したことだろう。
まぁ、それだけおもしろいテーマなのかもしれないが。
「エロは抜きで考えましょう、全部それになっちゃうんで」
時を止める場合だけでなく、例えば透明人間になる場合でも、その他大抵のテーマでエロは避けられない。
男は本当にバカな生き物だ。
「うーん、なんだろう。やっぱりお金関係? 例えばここで飲み食いした後に時間を止めて、支払いせず帰っちゃうとか」
「なるほどー、スーパーとかでも同じことできますね」
「あーでも監視カメラでバレるか…?」
「いや、店に入る前から時間を止めちゃえば…」
危ない危ない、犯罪に向かってしまっている。
でも何かしらの利益が欲しくなるのが当然のことではある。
「あとはまぁ、階段付近で時間を止めて、登っている人を担いで何段か下にして、『階段を登っていたと思ったらいつのまにか降りていた』ごっこね」
「間違いなくやりますね」
このあたりで尽きてきたので、ここからは違う話題になった。
でも、どうゆうわけか私の頭は「時を止める」ことでいっぱいだった。
真剣に考えたくて、Aの話を聞きながらもずっと思考していた。
何をするのが最も得か。
何をするにしてもバレたらどうなるのか。
メリットだけでデメリットはないのか。
実際に時を止める能力者が存在するのなら、どんな奴なのか。
酒が入っていても脳はしっかりしていた。(していない)
そういえば、伯母から貸してもらったドクタースランプにこんな話があった。
みどり先生のパンツを15cmの距離で見たいがために、センベエはタイムストップウォッチを発明した。
しかし、使用者の時間だけは止まらずに進んでいくため、使いすぎて自分だけが歳を取ってしまい、センベエがおじいさんになってしまうというオチ。(うろ覚え)
そうか、時を止める能力者が存在するのなら、見た目はかなり老けているはずだ。
そして、お金を払わず好きなものを好きなだけ好きな時に食べてぶくぶく太るはずだ。
え、ちょっと待てよ…?
私は何かごちゃごちゃ語っているAを遮って訊いた。
「お前、今までに何回止めた?」