「ようこそ金星に」
代表は笑顔で僕に握手を求めた。
「あなたのことは、カラミ調査官から聞いています」
「ここは火星と違って作業はほぼ終わっているので、
あなたには、装置の維持管理を担当してもらいます」」
「そんなに難しいことはありませんよ」
僕は、代表にすすめられるまま、
透明のソファーに腰を下ろした。
「実は、施設は完成していますが、まだ住人がいないのです」
「これから、地球からの移住計画を遂行する予定です」
「あなたのパートナーにはそちらを担当していただきます」
ここでの生活は火星とくらべると、
天国のようなものだと思った。
ただ、どうして僕がここに来ることになったのか。
そのことに一番不安を感じていた。
「気をつけて」
カラミはそう言って送り出してくれた。
彼女はどのくらい正確な情報を得ていたのだろう。
「金星もまだ、火星と同じで発展途上ですから」
月はもう中継地の役割しか果たせない。
これについては、ほとんどの人の共通認識だ。
それに対して、金星も火星もその状況に追いついていない。
「まだまだ、危機感を持っているわけではないのですよ」
カラミはそう言って笑っていた。
「君は少し、一般作業員から離れた立場になってしまった」
太った体を揺らせて調査統括官は僕にそう言った。
「このまま、ここに居るとトラブルが起きかねないのでね」
統括官はそう言いながら、茶色い棒状のものをかじっている。
精神を落ち着かせているのだと、
部屋を出たあとカラミが言っていた。
「クスリみたいなものよ」
「病気なのですか」
「そういうわけじゃないの」
カラミはそう言っていたけれど、
あの太った体もその影響かもしれない。
「僕はペナルティで金星に行くんですね」
「そうは考えないで、責任は私にもあるの」
そうなんだ、僕はペナルティで金星に来たはずなのに。
僕は時計を確認し、交替のために部屋を出た。
外に出て、管理棟までしばらく歩く。
適度な運動が必要だったし、
外で運動をした方が気分が良かった。
僕にとって金星の空気は素晴らしかった。