①マクロ計量モデルの信用は地に落ちた

 

 マクロ計量モデルは、政府の財政政策や金融政策の実施によって起こる企業投資、個人消費、GDP、雇用、税収、物価などの変化をシミュレーションするものです。

 消費税増税が景気に与える影響などもマクロ計量モデルでシミュレーションされています。

 必要なデータを入力すると答えが出て来る自動式計算ソフトのようなものと思えば良いと思います。ただし、その中身はどうなっているか解らないブラックボックスなのです。

 内閣府でマクロ計量モデルが作られ、政府答弁などでは、その内閣府モデルが、消費税を増税しても経済に悪い影響は無いとか、公共投資の景気回復効果は低いとかの根拠として持ち出されています。

 特に、マクロ計量モデルは無知な国会議員に対する煙幕として使われています。

 現場を見たわけではありませんが、内閣府や財務省の官僚から内閣府の短期日本マクロ計量モデルではこうなっていますとか言われると、無知な国会議員は「よく解らないんですが、へへへっ」とか言って、事実上退却してしまうのです。

 つまり、「マクロ計量モデル」は、内閣府や財務省にとって害虫撃退用殺虫剤という武器になっているということです。

 だから、私たち害虫(政府の政策に疑問を持つ国民)としては、「内閣府マクロ計量モデル」を論破しなければ、内閣府や財務省に文句を言えないということです。しかし、それは簡単に論破出来ます。

 ここで、ごく簡単な論破の方法をお話しします。

 マクロ計量モデルは、政府政策が民間経済に及ぼす影響の予測手段として、政府機関のみならず民間のシンクタンクで数多く作られているものです。様々な団体が様々な理論や経済統計からデータを持ってきて、様々なものを作っています。

 しかし、各々のマクロ計量モデルから出てくる数字はまちまちであり、ほとんど信頼に足りるものが無いという状況ですから論破は簡単です。

 すなわち、「他のマクロ計量モデルでは違う数字が出ているじゃないか、それを無視するのか」と言えば、とりあえずの論破になります。しかも、様々な団体の中で、最も信用できないモデルが内閣府であるらしいのです。

 「マクロ計量モデル」の理解は、なかなかシロートには手が届かないもののように思われているのですが、専門家でも他人の作ったマクロモデルを解析することには苦労しています。まさに好き勝手に作られたブラックボックスなのです。

 マクロ計量モデルにおいて、一つ一つの方程式や組み合わせ方、統計数値の取り方において普遍的な法則はありません。まったく自由に作ることが出来ます。

 そして、その中には、あろうことか、ケインズの乗数効果の計算式すら組み込まれていない場合が多いのです。乗数効果とは一単位の政府投資に対して何単位の総所得(GDP)が増えるかという意味ですから、必ずしもケインズの乗数効果の計算式を使わなくても、経験値が反映されてさえいれば良いという考え方です。

 ケインズの乗数効果の計算式を論破することもなく、こっそりケインズ理論を骨抜きにしているのです。そのくせ、公共投資をケインズ政策と呼んでいたりしますから、性質が悪く、ケインズの暗殺とも言うべき所業が行われているのです。

 マクロ計量モデルの作成に当たっては、作成者の意思で経済理論や方程式を自由に組み合わせることが出来ますから、経済理論や方程式の数が増えれば増えるほど、それぞれのズレが相乗的に拡大し、あるモデルとあるモデルでひどい乖離が生じることになります。

 しかも、経済学における方程式は何百通りもあり、入力する数値も採用する統計資料に応じて変わります。だから、マクロ計量モデルには情緒的または文学的とも言うべき多様性が出て来ます。理数系の研究とは違うのです。

 実際に、マクロ計量モデルは、内閣府、民間の証券会社などのシンクタンク、大学の研究室などのあらゆる部署で作成され、多数のモデルが存在しますが、それぞれの数値が一致することはありません。とんでもなく離れた数値が出ていたりもするのです。

 そうすると、私たち国民はどのモデルを信用すれば良いのか途方に暮れることになります。そもそも、マクロ計量モデルなるものが信用できるのかさえ判らなくなります。

 しかし、まだ期待は持てます。

 いくつかのグループで近似の値が出ていれば、確率として、信頼は増すと思われるからです。もちろん、それすらもいくつかのグループが組んで多数派を演出することが出来ますから、完全に信頼出来るということではありません。

 他のモデルと一番かけ離れた数値を出しているものが、小泉内閣当時、竹中平蔵氏が内閣に作らせた内閣府モデルです。

 国会の政府答弁などで、「内閣府モデルでは、公共投資を増やしても、乗数効果は1.1にすぎません」とか言うのですが、これは、公共投資を1兆円増やしても、GDPは1.1兆円しか増えないという意味ですから、何も知らなければ、公共投資を増やしても、GDPの拡大や景気回復の役に立たないというイメージを持つことになります。

 すると、「内閣府モデル」を信じてしまった人たちは、公共投資は経済成長をもたらさないと言っている財政均衡派に論破されてしまうのです。これは、大きく政策を間違う元になります。

 確かに、論破したところで政府が反省しないのであれば何も変わらないでしょうが、論破できなければ話にもなりません。

 政策を批判するためには、まず論破しなければならないのです。

 今日の日本人が財政均衡派を支持している理由は、ひとえに、内閣府や財務省のマクロ計量モデルの洗脳により、減税や公共投資を中心とする財政政策が役に立たないと信じ込まされていることにあります。

 実際、内閣府モデルというものは、竹中平蔵氏が小泉構造改革を推し進めるために財務省に作らせたもので、数あるモデルの中でも、最も愚劣なものの一つです。

 そこには、「公共投資は何の経済成長ももたらさない」とか、「消費税増税は国民生活にほとんど悪い影響を与えない」とかと書かれています。

 驚くべきことに、この小泉政権で作られた内閣府モデルは、民主党政権時代にも平然と使われていました。

 安倍政権、菅政権、岸田政権はと言えば、どれも同じように竹中平蔵氏の弟子ですから、当然ながら、竹中平蔵氏の作らせた内閣府モデルを使い続けています。

 しかし、多数のマクロ計量モデルがあり、内閣府モデルはその一つにすぎないと解れば、多数のマクロ計量モデルの中で他のモデルも検討して見なければならないという程度の見識を持つことができます。

 むしろ、民間シンクタンクに信頼性の高い優れたモデルが多いようです。内閣府モデルが「公共投資の乗数効果は大変低い(1.1くらい)」という結論をはじき出しているのに対して、民間シンクタンクのマクロ計量モデルでは、「公共投資の乗数効果は実は高い(3.0~4.0)」という結論をはじき出しています。

 マクロ計量モデルを作っている団体は、自分たちのモデルこそ最も正確であるという自負心を持ち、切磋琢磨しているものと思われます。それはそれで感心する次第ですが、しかし、あまりに複雑なモデルは、複雑さのゆえに間違いも多いのではないかと心配されます。

 私が信じるに、マクロ計量モデルでどのような結果が出ているかは、あえて、重要度の低い参考資料に留めるべきではないかと考えます。

 なぜなら、内閣府が、悪意を潜り込ませればマクロ計量モデルも思うままに操れるということを証明し、マクロ計量モデルの信用は地に落ちてしまったからです。

 


発信力強化の為、↓クリックお願い致します!

人気ブログランキング