屋敷の中庭。
夜風が止んで、いつの間にか漆黒の闇が広がっている。
その中でもかすかに二人を照らすのは、高く昇った満月の月明かりだけ。
叫んだ後、菜月は我に返り、和雄に背を向ける。
「(……私は、私は勢いでつい、和雄さんに告白を……。)」
菜月は赤面し、一人混乱する。
「……大丈夫か? また熱か……?」
菜月の背後から、和雄の声がかかる。
「いや、あの、熱ではなくてですね、と、いうかそもそも、前のあの時も、熱はなかったんですけれども……。」
「……?」
和雄は無表情のまま、菜月の後ろ姿を注視する。
菜月は相変わらずの和雄の様子に、調子を狂わされる。
「……も、もう、和雄さん、あなたは本当にいっつも……。」
「……俺がいつも、何だ……?」
和雄と自分のあまりの熱量の差に、菜月は思わず笑いがこみ上げてきてしまう。
「……あはははは!」
「……何がおかしい……?」
終始無表情な和雄に対して、菜月はまだ少し笑いながら振り返る。
「いえ、あの、和雄さんがおかしいんじゃなくて、私がおかしいんですよ。」
「……?」
ひとしきり笑った菜月は、ふいに真剣な面持ちで目の前の和雄の名前を呼んだ。
「……和雄さん。」
「何だ?」
「しがないメイドである私が、このお屋敷の御曹司であるあなた様にお願いなんて、大変無礼な振る舞いなのでしょうが……、一つお願いがございます。」
「……願いとは?」
「私が和雄さんを好きなこと、他の誰にも言わないでください。」
「……ああ、分かった。」
「和雄さん……。」
和雄の返答に、菜月は胸が熱くなる。
彼女はほほえんで、和雄を見つめる。
「……和雄さん、ありがとうございます。」
「……。」
和雄はおもむろにベンチに座り、手持ちの本を開く。
和雄に続いて、菜月は空いているベンチの、和雄の隣へ腰掛ける。
この上ないほどの幸せを、その胸に抱えながら。
それは和雄の、自分への無反応さに気づいていても、である。
「(……もし、和雄さんが一生私を愛さなくても……、)」
菜月はただ、本に目を落とす和雄の横顔を見つめている。
「(……私は一生、和雄さんを愛し続けます。)」
およそ常人には理解しがたいほどの、究極の愛がそこにはあった。
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あくる日、昼下がりの屋敷内・社長室。
屋敷の主人であり、和雄の父親である元治(もとはる)が一人、電話で話をしている。
「……ええ、こちらとしましても、大変光栄なお話です。 ぜひ今度、ご都合がよろしい時に、うちの息子ともお会いになって頂ければと思います。 ……はい、ではまた……。」
話が終わり、黒電話の受話器を置く元治。
「……さて、和雄はどういう反応をするだろうか……?」
元治は少し憂えるような顔をして、そう呟いた。
To be continued
~追伸~
TATSUさん、メッセージありがとうございます
本当に毎回、仕事帰りに映画館の前で思わず立ち止まってしまうほど面白そうな作品がたくさんあるんです
今一番気になっているのは磯村勇斗さんが出演されている映画ですね
(複数あります)
rurika