びわ湖ホールプロデュースオペラ 京都市交響楽団 沼尻竜典 ヴァーグナー 「ローエングリン」 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

びわ湖ホールプロデュースオペラ

ワーグナー作曲 『ローエングリン』(ドイツ語上演・日本語字幕付・演奏会形式)

 

【日時】

2021年3月6日(土) 開演 14:00

 

【会場】

びわ湖ホール 大ホール (滋賀県)

 

【スタッフ&キャスト】

指揮:沼尻竜典 (びわ湖ホール芸術監督)

ステージング:粟國淳

照明:原中治美

美術構成:横田あつみ

音響:小野隆浩 (びわ湖ホール)

舞台監督:菅原多敢弘

 

ハインリヒ国王:妻屋秀和

ローエングリン:福井敬

エルザ・フォン・ブラバント:森谷真理

フリードリヒ・フォン・テルラムント:小森輝彦

オルトルート:谷口睦美

王の伝令:大西宇宙

ブラバントの貴族Ⅰ:谷口耕平

ブラバントの貴族Ⅱ:蔦谷明夫

ブラバントの貴族Ⅲ:市川敏雅

ブラバントの貴族Ⅳ:平欣史

小姓:熊谷綾乃、脇阪法子、上木愛李、船越亜弥

 

管弦楽:京都市交響楽団

(コンサートマスター:石田泰尚)

合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル

 

【プログラム】

ヴァーグナー:「ローエングリン」

 

 

 

 

 

びわ湖ホールで毎年3月に行われている、沼尻竜典の指揮、京都市交響楽団によるヴァーグナーシリーズ。

ただし昨年(2020年)はコロナ禍のため、下記リブログ元の記事に書いたように、無観客公演のオンライン配信およびBlu-ray販売のみとなってしまった。

今年(2021年)は無事公演開催されたことについて、関係者各位の尽力に深く感謝したい。

 

 

今回の演目は「ローエングリン」。

白鳥の曳く小舟に乗って聖騎士が現れるこの物語ほど、琵琶湖のほとりのこのホールにふさわしい演目もないだろう。

琵琶湖にはさすがに白鳥はいないけれど、以前訪れたヴァーグナーゆかりのルツェルンの湖を思い出させてくれる(その記事はこちら)。

 

 

 

 

 

ヴァーグナーの「ローエングリン」の録音では

 

●ナガノ指揮 ベルリン・ドイツ響 2006年6月1,3,5日バーデン=バーデンライヴ盤(Blu-ray

 

が圧倒的に優れていると思う。

ナガノ自身、再録でこれを超えることがかなわなかったほど。

 

 

そして今回の沼尻竜典&京響は、この名盤にかなり迫る演奏だった。

ナガノと同じく、濃厚なヴィブラートや細かなニュアンス付けを避け、できる限りまっすぐに、透明に、清潔に奏される。

有名な第1幕への前奏曲など得も言われぬ美しさで、さざ波一つない鏡のような澄んだ湖面を思わせる。

やっぱり、「ローエングリン」はこうでなくては。

 

 

このような、濃厚な19世紀的表現を洗い落とした透明な解釈は、おそらく巨匠オットー・クレンペラーに端を発するものであろう。

1910年、25歳の若きクレンペラーがハンブルク歌劇場でデビューした際の演目は「ローエングリン」で、その名演は一大センセーションを巻き起こしたという。

その演奏の美しさは、1948年のハンガリー国立歌劇場での彼の録音から偲ぶことができる。

 

 

透明な音の響きを重視したクレンペラーの解釈は、現代では上記のナガノや、アルミンク(前奏曲や間奏曲の録音がある)らに引き継がれ、そして我らが日本においては沼尻竜典に引き継がれた。

神聖なる騎士の物語にまことにふさわしい彼らの解釈を知ってしまってからは、私は有名なカラヤン盤にもネルソン盤にも、ネルソンス盤にもティーレマン盤にも満足できなくなってしまった。

 

 

とにかく、今回の名演の一番の功労者は沼尻竜典であろう。

彼が振ると、弦や管はもちろんのこと、合唱も、ソロ歌手たちの重唱でさえ、濁りなくクリアに響く。

これ以上に美しい「ローエングリン」を生で聴きたいならば、それこそナガノの指揮を聴きに行くよりほかないのではないか。

 

 

 

 

 

なお、歌手の中では、オルトルート役の谷口睦美と、ローエングリン役の福井敬が特に印象に残った。

谷口睦美はしっかりした声量、ヴァーグナーにふさわしい貫禄がある。

それでいて、叫びすぎて声が荒れるようなこともあまりない。

立ち居振る舞いも含め、堂々たる悪役っぷり。

やりようによってはブリュンヒルデが歌える人かもしれないと感じた。

 

 

福井敬も、私の好きな三大ローエングリン歌手(ボダンツキー盤のメルヒオール、カラヤン盤のコロ、そして上記ナガノ盤のフォークト)のような、時代を代表する圧倒的な「英雄感」はないにしても、ヘルデンテノールらしいしっかりした声は出ており、これまでに聴いた海外からの招聘ヘルデンテノールたちに比べても遜色なかった。

他の歌手たちも、がさつな人はおらず皆丁寧な歌い手で良かった。

 

 

演出については、舞台でなく演奏会形式ということもあって、背景に象徴的な映像を流す最小限のものだった。

聴き手の想像力を邪魔しない控えめさが好印象。

昨年までの演出家には申し訳ないが、私にはこのくらいの演奏会形式で十分である(演奏会形式だとオーケストラがピットに入っていないので、終演後に団員を一人一人起立させ称えることもできる)。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 

 

 


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