いかにもせせこました航空知識があったわけでもないのに、VもZもべったりとRにしがみつく。似ても似つかぬ、おどろおどろしいギャングの端くれだったとしても、Rの前では手も足も出ないほどRは神々しかった。
R:「航空会社はサービスが経営の柱だが、同時に安全性も顧客から信頼を得ていないといけない。その点で、航空機がテロの標的になるようなことがあれば、それはその国の内政に問題があると言える」
B:「鋭い指摘だな。今はそうした水際対策も考えないと、敵国からやられたい放題になる」
RもBも国際問題に精通しているからこそ、そうしたことに無頓着ではいられない性分だ。お互いに年齢が近いことも手伝って、世間体を気にした話題には事欠かないが、いつだってBもRも年配としての識見と、大所高所からの視野の広さがかえって姉妹二人には目障りに映ることもあった。
Z:「明日、日本へ発つ。今まで面倒を見てくれて恩に着る」
B:「いや、その言葉はUを打倒してからにしてくれ」
R:「そうだな。お前たちがもっと武術を身に着け、それ相応の技を会得したら、Uの首を。そして、またヴェトナムに戻ってこい」
V:「きっと私たちを追って、Uも日本に来ると見込んでいる。だから、武術を磨いて、私たちが成長したら、Uを討つ。お母さんの敵は必ず討つ」
ZもVも見るからに恨みを晴らす覚悟でいて、ねっとりとした怨恨は一生消えることはない。幼少期に姉妹二人揃って、母がホーチミンに出稼ぎに出ている間に、Uに預けられ、そのUのもとで育ったという過去。いつの間にか、子供ができないUも我が子同然に育て上げ、しんみりと愛情が乗り移った。その信頼関係を裏切ってまで、敵意を抱くのは、きっとギャングとしての血が体内を駆け巡っているからだろう。
VとZはいかにも悪者のように見られがちだが、純粋な乙女心も持っている。いずれは結婚して家庭を持ちたいと思っていて、そのためには理解ある男性が現れることを願っていた。
V:「さあ、日出ずる国へ」
Z:「思い出話もここまで。日本でいい経験が積めたら、それを手土産に報告する」
B:「それは楽しみだな。まだお前たちには明るい未来がある」
R:「可愛い子には旅をさせろとはよく言ったもので、お前たちにもその権利がある。もしかしたら、日本で運命の男性が見つかるかもしれん。農民画家でフランドル派最大の画家のブリューゲルはかつて『農民の踊り』、『子供の遊戯』、『雪中の狩人』を描いた。お前たちも農作業を手伝っていたからこの気持ちが分かる。だが、ロシアの愛の画家であるマルク・シャガールは『私と村』、『白い襟のベラ』を描いた。これからは愛に満ちた人生を歩め」
BとRがはなむけにそう言うと、ZとVは頬を緩めて、面前の二人とがっちり握手をし、日本へ思いを馳せた。