その日の夕方から夜にかけて、KとHは二人きりで福井でも人気スポットの森に来ていた。周囲を見渡せば、いくらか人はいる。こうした自然の中でデートできるのもいいし、何よりも初めてのデートはここだとKは決めていた。
H:「ねぇ、初めてのデートでいきなり森?」
K:「そうだよ。でも、やっぱり失敗した?」
辺りは暗くて、静かで何もない。光もなく、月光がかすかにある。音もなく、人の声がするだけだ。殺風景で何もなく、完全に初回のデートにしては失敗だった?
H:「定番はカフェだよ」
K:「うん。ありきたりなのは俺は嫌いだから」
そう言って、徐々に初対面の時の緊張感はなくなっていき、会話も随分と成り立つようになってきた。あまりに緊張がないのも、また問題だし、誰とでも上手く話せるのもロマンスに欠ける。
H:「今度、昼食のランチにスパゲティを」
K:「スパゲティ?またどうして?」
H:「美味しいイタリアンを見つけたんだぁ」
K:「パリに行こうとしているのに、イタリア?」
それを受けて、Hはクスッと笑い、「イタリアの芸術も素敵よ」と言って、場を和ませた。二人ともすっかり落ち着いている。(→夏、冬のオリンピック、パラリンピック)。
K:「ガムを持ってきた。食べない?ブラックブラックガム」
H:「イヤだ。いつでもどこでもガムをしのばせているの?」
K:「デートにはガムって言うでしょ?」
そう言うと、Hはクスッと笑って、ガムを一枚もらい、それを食べた。初回のデートがやや味気ないと思っていたHだが、次の瞬間、どうしてKがこの人気スポットに連れてきたかが分かった。素晴らしい自然の演出で、何ともロマンティックだ。
その瞬間、真っ暗な中に、蛍の光が一斉に浮かび上がる。
→Visual Effect→蛍の光
H:「これをあなたは…」
K:「そうだよ」
H:「なんてロマンティックなの」
無数の蛍の光が幻想的に浮かび上がり、童話の世界や異世界に来たような感覚を受けた。二人の間に甘いムードが漂い、HはこのKの演出におもわず母性本能をくすぐられる。福井県では5月あたりに蛍が現れ、光を放つ。
K:「ああ、いけないよ。初回のデートから手の早い男だと思われてもいけない。今日のところはこんな感じかな」
それで何もなく終わるのはしらけると思ったHは、その蛍の幻想的な光の中で、そっと隣にいるKに体を寄せ、そっと手をつないだ。
K:「ああ…。俺は」
H:「あなたは最初からこれを狙っていた。(すごいと思うH)。月並みな表現かもしれないけど、始めはこの星を見るのが狙いだと思ってたけど、あなたは見事に私の心を射止めた」
K:「その言葉にどう応えればいい?」
次の瞬間、Hは自分からKの目を見て、唇を重ねた。それは眠気覚ましのブラックブラックガムの味のキスだった。
→BGM: Masaharu Fukuyama, “HOTARU.”(福山雅治、『蛍』)