長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『HUSTLE ハッスル』

2022-06-18 | 映画レビュー(は)

 はぐれ者のスカウトマンと貧困層出身のバスケットボール選手が、フィラデルフィアを舞台にNBAを目指す…という『ロッキー』を彷彿とさせる筋書きの映画がイヤな仕上がりになるハズがない。Netflixからリリースされたジェレミア・ザガー監督による『HUSTLE』は、週末の自宅視聴にうってつけのスポーツ映画であり、何より注目すべきはこのフィールグッドムービーのグレードを1つも2つも上げているアダム・サンドラーの名演だ。キャリアの決定的な転換点となった『アンカット・ダイヤモンド』の躁的ハイテンションから一転、サンドラーはこれまで見せたことのない優しさに到達している。
 サンドラー演じるスタンリーはフィラデルフィアを拠点とする大手バスケットボールチームのスカウトマン。彼もまたかつて将来を嘱望された選手だったが、一線を退いた後は確かな目利きぶりでスカウトマンとしての厚い信頼を得ていた。そんな彼が年齢によってキャリアの先も見えてきた中、出張先のスペインで類稀なバスケの才能を持ったボーと出会い、NBAのトライアウトに参加させるべく奔走する。スタンリーは家に帰れば妻子を愛する良き家庭人であり(妻役クイーン・ラティファもいい)、コートに立てばエネルギッシュな快男児。サンドラー、実に小気味よいパフォーマンスである。

 “2020年代の映画”としても、潮目に立つ映画ではないだろうか。それぞれに罪を背負った白人男性2人を主人公に、彼らの贖罪と再出発が描かれ、ここでは圧倒的に優位な立場として黒人選手がヒール役として登場する。5年前なら鼻白んだであろう設定が分断とキャンセルを経た今、それぞれの物語が語られてこそ新たな時代の共存があるのではと作劇されているのだ。ザガー監督はバスケットボールの体感を捉えるべく、撮影と編集の手際も良く、NBAのスター達が脇を固めてバスケファンにも目配せはバッチリだ。スポーツ映画に奥行きを持たせた、2022年上半期の記憶すべき1本と言えるだろう。


『HUSTLE ハッスル』22・米
監督 ジェレミア・ザガー
出演 アダム・サンドラー、フアンチョ・エルナンデス、クイーン・ラティファ、ベン・フォスター、ロバート・デュヴァル

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