ギャンブル依存症の実態

本稿では、厚労省依存症対策推進室や久里浜医療センター等が定義するギャンブル依存症、「依存症は全て同一」「依存症は誰でもなり得る病気」「ギャンブル依存症は否認の病」「ギャンブル依存症は不可逆的で進行性の病気」に言及する。



行動嗜癖(ギャンブル依存症)が薬物依存と同一の理由

中央社会保険医療協議会(厚生労働省の諮問機関)の報告書では、脳MRI等の画像解析から報酬を予測する際に健常者群と比較して、ギャンブル依存症と薬物依存では共通して報酬系の機能が低下していたと報告されている。これが依存症が全て同一とする理由である。


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出典・ギャンブル依存症に対する集団療法プログラムの効果について(総ー3「外来(その3)(かかりつけ医機能、その他)」) | 中央社会保険医療協議会(厚生労働省の諮問機関)

しかし、その行為によって機能が低下していたのであれば、その行為への興味の有無が重要ではないか。その理由は、ヘビーユーザーかつギャンブル依存症の診断基準を満たさない、パチプロやセミプロ等の上級者が存在するからである。

また、両者においては発達障害等の併存障害が報告されている事から、その行為以前から健常者とは異なる特徴を有していた可能性を否定できない。

調査を行うのであれば、下記の7群のように分類した対象に対して、その行為への興味の有無により変化している可能性もある事から、様々な行為を対象とした調査をしなければ、ギャンブルにより機能低下が発生したのかが判然としない。



また、fMRIでの脳イメージングバイオマーカーでのギャンブル障害の判別が開発されたが、発達障害等の併存障害が多いのであれば、やはり、上記のように対象となる群を細分化し、様々な行為を対象とした調査をするべきではないだろうか。(*1)



行動嗜癖(ギャンブル依存症)と薬物依存は同一では無い

ギャンブルを行う目的はプレイと金稼ぎの二つである。プレイを行っただけでは「金稼ぎ」という目的が達成されずに「金稼ぎに失敗」する場合もある。しかし、薬物依存では薬物摂取等の行為を行った場合、無条件で薬理作用が獲得できる。


ギャンブル依存症フロー比較

言い換えれば、ギャンブルでは目的の達成に条件が付加されるが、薬物では無条件で目的が達成され、行為自体の構造に違いがある。行為自体の構造に明確な違いがあるにも関わらず、病態機序が薬物依存と同様であるからと、両者を同一に扱うのは論理が破綻している。



依存症は誰でもなり得る病気

ギャンブル障害およびギャンブル関連問題実態調査報告書(以下、久里浜実態調査報告書(2021)(*2)における調査票の設問「過去1年間で経験したギャンブル」においての選択項目、「証券の信用取引」の注意書きには「仕事などの業務で行うものは除く」とある。つまり、業務レベルと同等の金融工学、統計学、確率論の知識を持つ者が、「証券の信用取引」を行った場合には、ギャンブル依存症には陥らない。

業務で金融工学を用いて利益を追求している者や、確率論の知識や戦略的な知識を有し、利益を追求するパチプロ等の上級者等が、プライベートでは情緒的な思考で莫大な損失が出るまで投資を行うと断言し、誰でもなり得る病気であると主張するのであれば、もはや詭弁以外の何者でも無い。



ギャンブル依存症は否認の病

ギャンブル依存症が否認の病である理由は、自己治療仮説としてギャンブルを行った事により問題が発生している事実を認めたく無い為に否認する、である。



自己治療仮説はオペラント条件付けの負の強化だが、「負けを取り返そうとギャンブルを行う」、勝利という結果を切望するギャンブル依存症の診断基準とは矛盾する。ギャンブル依存症の全てが自己治療仮説であるなら、環境要因や借金問題を調整し、ギャンブルを完全に止めた場合、回復率が100%になるはずだが実態は違う。


オペラント条件付けの負の強化
負の強化(Negative reinforcement)は、嫌悪的な事象・刺激が除去されたり、起こらないようにすることを目的として、その行動の頻度が増加している場合に起こる。負の強化子は、生物が断念、脱出、先送りをするために働く刺激事象である。正の強化子とは対照的で、口頭や物理的な罰であっても負の強化となりえる (*3)

その理由として、ギャンブルには両価性である「プレイ(遊技)への欲求」と「勝利(お金)への欲求」という二つの欲求が存在し、環境要因や借金問題を調整しても行為が反復してしまうのは、相互に持続する二つの欲求が継続しているからである。


ギャンブル依存症サイクル

ギャンブル等依存症の治療・家族支援に関する研究報告書(以下、家族支援報告書(*4))では、非合理的な考えを測定する尺度であるGRCSにおいて、当事者のギャンブルに関する確率論の知識に認知の歪みがある事が報告されており、当事者のギャンブルの目的の上位に「金稼ぎ」があるのだが、その目的が達成できておらずに問題が発生している。



病気では無いと否認している理由は、当事者自身が抱える認知の歪みにより、「プレイ(遊技)への欲求」や「勝利(お金)への欲求」においての興味(面白さ)である、「ゲームを行う面白さ」や、非論理的な思考による「負けを取り戻す(勝つ)為の考察や、やらなければ負けを取り返せない」を正当化しているからである。



興味である面白さが「プレイへの欲求」と「勝利への欲求」なる理由

興味である面白さが「プレイへの欲求」と「勝利への欲求」となる理由を、家族支援報告書の調査と久里浜実態調査報告書(2021)から検証する。

この二つの調査において、当たりまでの過程が複雑で、判断要素や攻略的要素等の考察する要素が多様な払い戻し率の高いパチンコ等と、当たりまでの過程が単純で、考察する要素が少ない宝くじ等を比較した場合の依存リスクは、パチンコ等は高く、宝くじ等は低くなる事を示唆していた。

要約すれば、払い戻し率の高低やギャンブルの考察要素の多寡で依存リスクが変動する事を示唆していた、となる。

依存リスクや払い戻し率が低い宝くじ等は考察要素が単純であり、「プレイへの欲求」へ繋がる「ゲームを行う面白さ」は関係無いが、「勝利への欲求」へ繋がる「当たり予想」への興味が低く、問題賭博行動は少なくなる。

対して、依存リスクや払い戻し率が高いパチンコ等は考察要素が複雑であり、ゲームとしても完成されており、「プレイへの欲求」へ繋がる「ゲームを行う面白さ」や、「勝利への欲求」へ繋がる「当たり予想」への興味が高く、問題賭博行動は多くなる。

「当たり予想やゲームを行う面白さ」への興味が高い事が「プレイへの欲求」や「勝利への欲求」へ繋がり、賭博行動が多くなる事から、興味である面白さが「プレイへの欲求」と「勝利への欲求」となる。



ギャンブル依存症は不可逆的で進行性の病気

自己治療仮説でのギャンブル依存症は、「プレイへの欲求」が先行し、長期的に依存症が進行すれば、「プレイへの欲求」はほぼ無くなるとしている。これをグラフにしてみると、「プレイへの欲求」と「勝利への欲求」は逆相関の関係となり、借金などの問題は「勝利への欲求」と相関している。


長期間をかけて形成されるイメージグラフ

また、脳科学的にはギャンブル依存症は薬物依存と同様に、報酬系への長期間の刺激により脳機能が不可逆的に変化した疾患とされており、発症までに時間を要する進行性の病気とされている。

これを確率論等の視点から捉えてみた場合、ギャンブルを行った当初は「プレイへの欲求」によりプレイ機会は多くなるが、金銭的な問題は発生していないので、「勝利への欲求」の有無は関係無く楽しめる。しかし、ギャンブルに関する確率論の知識が無い者や、認知の歪みを有していた者が長期間に渡りプレイを行うと、金銭的な問題が発生し、「勝利への欲求」が増強する。

ギャンブル依存症の末期症状の一つが、「勝利への欲求」による金銭獲得が目的であるならば、プレイ初期から中期、問題が顕在化した後期までの何かのポイントで、ゲームの仕組みや攻略的要素、確率論の知識を認識させた場合に、それ以降の金銭的問題等は徐々に発生しなくなる。つまり、ギャンブル依存症は不可逆的には進行しない。



ギャンブル依存症からの回復が長期に渡る理由

ギャンブル依存症からの回復が長期に渡る理由は、自己治療仮説で長年に渡りギャンブルを行い、借金問題等で問題が顕在化しても、その問題を明確に認識し、回復にするまでには時間を要するとしている。

精神医療等が行なっている、ギャンブルを制御する要因を質的にしか捉えない、認知行動療法や12ステップ等では、ゲームの仕組みや攻略要素、確率論等に認知の歪みがあるにも関わらず、それを解消しない為、興味である二つの欲求は消費されるまでに長期間を要するか、もしくは全く消費されない。

つまり、認知行動療法等は回復、制御する為には長期間を要するか、もしくは効果が全く無い。


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対して、ギャンブルは投資という側面を持ち、行為を直接的に制御する要因を確率論で定量化する事ができる。当事者が有しているゲームの仕組みや攻略要素、確率論等に対しての認知の歪みを解消して、興味である二つの欲求を消費、制御するのは比較的に短期間で可能である。



ギャンブル依存症で確率論に言及しない理由とトリートメントギャップの関係

海外から導入された診断基準である、ICD(WHO)やDSM(米国精神医学会)等での主要なギャンブルであるカジノは、払い戻し率が100%未満に設計されている。

ICDやDSMでは、当事者が「払い戻し率が100%未満のゲームで勝てる」という認知の歪みを質的にしか捉えず、大数の法則や期待値、ベルヌーイ試行等への量的な認知の歪みとしては捉えていない。これがギャンブル依存症で確率論に言及しない理由の可能性がある。

また、トリートメントギャップが大きい理由に気づいた点があり、その一点目は、カットオフ値の問題点が指摘されている、スクリーニングテストであるSOGSの偽陽性が多い。

二点目は、久里浜実態調査報告書(2021)でのギャンブルに関する借金の中央値300万円のような当事者が大勢いるというプロファイリングが間違いであり、公益財団法人日本遊技機工業組合社会安全研究財団パチンコ・パチスロパチンコ・パチスロ遊技障害全国調査 - 調査報告書(2018) (*5)では、借金が100万円〜400万円の者は0.8%(全国で数万人規模)である。ギャンブル依存症疑いの者には確定診断されるような当事者は非常に少ない。

三点目は、日本のギャンブル依存症の主たるパチンコ等は、風営法により遊技者の技量により遊技結果にある程度の反映させる仕様となっており、その攻略的要素や確率論の情報がインターネットにより簡単に入手でき、当事者の回復が早くなる。

四点目は、趣味が多様化した現代では、ギャンブルというゲームに飽きてしまう当事者が大勢いる。これがトリートメントギャップが大きい理由である。



ギャンブル依存症とは

プレイ当初からゲームの仕組みや攻略的要素、確率論の知識を認識させない事により、当事者がゲームの仕組み等を勝手に解釈して独自の理論を構築、もしくはゲームの仕組み等を全く認識しない事により病状が発生する。

然すれば、プレイ当初からゲームの仕組み等を認識させれば、ギャンブル依存症という問題は発生しない。直接的に制御する要因であり、量的に捉えられる確率論等の知識に言及しない理由は全く無い。ギャンブル依存症は詐欺である。



*2022年12月6日加筆(段落「依存症は誰でもなり得る病気」を追加しました。)


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(*1)参照元・「脳機能結合の情報からギャンブル障害の判別器を開発」ー人工知能技術の応用により診断や治療に新たな道!― 国立開発研究法人量子科学技術研究開発機構
(*2)参照元・令和2年度依存症に関する調査研究事業「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題実態調査」報告書 | 研究代表者:独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
(*3)引用元・オペラント条件づけ - 強化 - ウィキペディア(Wikipedia)
(*4)参照元・厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業ギャンブル等依存症の治療・家族支援に関する研究令和元年ー令和3年総合研究報告書 | 研究代表者:松下幸生氏(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)
(*5)参照元・公益財団法人日本遊技機工業組合社会安全研究財団パチンコ・パチスロパチンコ・パチスロ遊技障害全国調査 - 調査報告書(2018)