2021年9月16日木曜日

【技術読み物】4代目プリウス用PCU分解解説(その1)



 本章では4代目プリウスに搭載されたPCU(Power Control Unit)の詳細な分解解説を行う。特にPCU内でも車両駆動に係るパワーラインにおける分解解説を行い、4代目プリウスのPCUにおける設計思想を読み解く。

3.1 歴代プリウスにおけるPCUの変容
 プリウスは1997年12月にトヨタ自動車より発表されて以来、2018年現在において4世代目となるプリウスが市場投入されている。また、その派生版として、PHVグレードのモデルもその最先端技術導入が故に注目されているが、まずは従来のHEVにおけるPCUにターゲットを絞って議論する。
 4代連なるプリウスのPCUにおける車両駆動に係るパワーラインの電気システム概要を図3.1に示す。初代プリウスではこの図にある通り、288Vニッケル水素バッテリに直接インバータが接続され、33kWの電気系駆動出力を得ていた。しかしながら、駆動電力に直接関わるインバータ前段電圧であるニッケル水素バッテリは、走行状態、熱条件によってその電圧値は150Vから300V程度まで大きく変動する。この変動条件に依っては、アクセル開度に対して所望のトルクを得ることができず、走行性能の低下、燃費性能の低下を招く問題が顕在化した。


 これらの問題点を解決すべく、2代目プリウスでは、前述のインバータ出力を一定化させるため、モータ駆動用インバータと新しく搭載された202Vニッケル水素バッテリとの間に昇圧チョッパを挿入し、その出力電圧を500V一定制御させた。これによりニッケル水素バッテリの電圧変動に依存せず、どの様な条件でも所望の電力を確保することができ、走行性能や燃費性能が飛躍的に向上した。この性能は市場に高く評価され、初代プリウスでは年間販売台数が10万台に遠く及ばなかった状況に対して、2代目プリウスはその年間販売台数を50万台以上へ引き上げることに成功した(1)。一般的なプリウスのイメージは、この2代目に形成されたと言って良い。

 3代目プリウスは、2代目の正常進化型として、同じ202Vニッケル水素バッテリを搭載しながら昇圧チョッパの出力電圧を650Vに引き上げ、電気系における60kWの出力確保を実現した。歴代でも最大の出力を獲得しており、燃費性能も大幅に向上した。具体的にはJC08走行サイクルモードにおいて、2代目はその燃費性能が29.6km/lであるのに対し、3代目では32.6km/lと電気系出力の向上と燃費性能の引き上げが良く対応していることが理解できる。
 同じ視点で、4代目プリウスの電気系システムを見てみる。意外にも、3代目プリウスに対して昇圧チョッパの出力電圧は600V(スポーツモード条件)に抑えられ、電気系出力も52kWに留まっている。それでは、燃費性能は3代目プリウスと比較して下がるのか、と思いきや、4代目プリウスは歴代最高の40.8km/lを実現している。比較条件としては、4代目プリウスではEグレードというモデルを持っており、そのモデルは歴代で初めて207Vリチウムイオンバッテリを搭載していることは留意されたい。ただし、実際の電気系駆動においてはバッテリの種類ではなく出力容量しか見えてこず、バッテリの種類が性能に直接影響を及ぼす訳ではない。
 初代から、直接車両の駆動に関わるインバータ前段電圧値を引き上げる形で燃費性能を向上させてきた歴代プリウスは、4代目にきてインバータ前段電圧値を抑制しながらも、2代目から3代目の燃費向上率よりも遥かにその性能を引き上げる燃費性能を獲得している。本章では、これまでの正常進化型であったPCUから一歩引いたような性能を持つ4代目プリウス用PCUを分解することで、結果として、採集してうテムである車両における燃費性能の引き上げにどの様に寄与したかについて、図説を行う。




 詳細なPCU分解の前に、特に昇圧チョッパを搭載した2代目プリウスから4代目プリウスのエンジンルームの様子を図3.2から図3.4に示す。図3.2は2代目プリウスのエンジンルーム、図3.3は3代目プリウス、図3.4は4代目プリウスのエンジンルームの様子を示している。2代目から4代目にかけて変わらない部分は、エンジンルームの主人であるエンジンと電気系新機構であるPCUが並んで鎮座している点と、そのエンジンの冷却を司る冷却系と、PCUの冷却を司る冷却系が分割されている点である。2代目プリウスではエンジンの排気量は1,500ccであるのに対して、3代目以降はエンジン排気量を1,800ccまで拡大し、内燃機構における駆動に余裕を確保している。また、エンジンルーム内に占めるPCUの大きさが、代々、徐々に小型化していることが確認できる。このPCUにおける小型化恩恵が、プリウスをプリウスたらしめる付加価値に貢献している点は、後述する。


【参考文献】
(1)トヨタ自動車ホームページ,(https://toyota.jp/)
(2)山本,自動車用48V電源システム 欧州勢の思惑と日本企業が目指すべき技術開発の方向性,サイエンス&テクノロジー株式会社,ISBN978-4-86428-143-0,2016年9月28日刊行.
(3)小澤,“新型プリウス向けDC-DCコンバータの熱設計,”テクノフロンティア2016技術シンポジウム,熱設計・対策技術シンポジウム資料,F6-2-1~F6-2-21,2016.



※ 【技術読み物】4代目プリウス用PCU分解解説(その2)に続く。



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