「モーリス」(1987年)は、惹かれ合う青年たちの葛藤と人生の選択を名匠ジェームズ・アイヴォリー監督が美しい映像で描いた名作です。
”Maurice, 1987” Photo by 木川
source:
(※今回はネタバレです。未見の方はその点御了承ください)
1909年、ケンブリッジ大学の2回生モーリス(ジェームズ・ウィルビー)は、3回生のクライヴ(ヒュー・グラント)と出会います。
2人は惹かれ合いますが、クライヴは一線を越えることを拒む。
ある日、同窓生のリズリーが同性愛の罪を問われて収監。
弁護士のクライヴはリズリーから弁護を依頼されますが、保身のため断るんです。
裁判の結果、リズリーは有罪とされてすべてを失います。
この姿を見て激しく動揺したクライヴは、世間体を守るために上流社会の女性と結婚するんです。
そしてクライヴはモーリスに「2人の感情は過去のものとして秘密にしよう、君も女性と恋をしろ」と勧めます。
しかしモーリスはクライヴ邸の猟場番スカダー(ルパート・クレイヴス)にセクシャリティを感づかれます。
そしてスカダーはモーリスに親愛の情を寄せるようになるんですね。
物語の舞台、20世紀初頭のイギリスは同性愛が法律で禁じられていた時代。そして階級社会です。
医者がモーリスに異国に移住を勧めるんですが、「英国は歴史的に人間の本質を禁じる国なのだ」と言うのです。
厳しい社会の眼から隠れて生きるモーリスとクライヴ。
本当の自分がバレたら制裁を受けすべてを失います。
モーリスはクライヴに(後でスカダーにも)「金も名誉も知るか!君がいればそれでいいんだ」と言いますが、クライヴは仮面を被って生きる選択をするんです。
でも、クライヴは過去の事として言わないけども内心はずっとモーリスのことを愛しているんですね。
モーリスからスカダーのことを聴いてクライヴは、永遠にモーリスを失ったんだ、と悟ったんだと思いました。
そしてケンブリッジ大の思い出が蘇るんです。
屈託のない笑顔でモーリスが寄宿舎の窓の傍にいるクライヴに向かって「こっち来いよ!」って言うんですね。
1913年の屋敷の窓の傍のクライヴがそれを思い出す。
勘の良い妻が「誰と話してるの?」とクライヴに寄り添う。
「…選挙の演説を考えていたんだ」と答えるクライヴ。
なんとも切ないラストなのです。
「モーリス」は決して叶うことのない関係とそれぞれの選択を描いているんですね。
モーリスとスカダーのこの先は、どうなるかは描かれていませんが、なぜか悲劇的な予感がしました。
だからクライヴの悲しさは、モーリスを失ったことだけではなかったんじゃないかな…とも思いました。
ヒュー・グラント始め、主要キャスト3人が若く、そして美しい。
ジェームズ・アイヴォリーは「眺めのいい部屋」、「日の名残り」の監督ですね。
共同脚本の「君の名前で僕を呼んで」もそうですが、絵画的に美しい映像と社会から隠れて生きざるを得ない個人の葛藤というテーマは共通しています。
葛藤した先の個々人の生き方を描いているんですね。
大切な何かを失いながら苦渋の選択をする姿を。