「でも…覚悟は出来ているのか?」

 ふいに、犬井さんが恭介に顔を向ける。

「覚悟?」

そんなものがいるのか?

ずいぶんと、大げさな話だなぁ~

 その時の恭介は、そんな風に感じていた。

「そう、覚悟だ」

だが犬井さんはまったくひるむことなく、辛抱強くじぃっと恭介に向けて

鋭い視線を向ける。

 だが彼の反応が鈍い。

「それはちょっと…」

言い淀む恭介を見て、

「そうか」

やっぱりなぁ、とふぅ~とため息をついた。

「まぁ、いい。

 とにかくワシは…この花園にいる。

 何かあったら、ここに来てくれ」

そう言うと、作業を再開するため、さっさと恭介に背を向ける。

 

 えっ?

てっきりここに案内をしてくれる…と、恭介は思い込んでいた。

すっかり当てが外れる。

どっちへ行けばいいんだ?と、迷っている。

「キミは…少しは、自分で考えた方がいいな」

 いきなりクルリと振り向くと、犬井さんは恭介に向かって声を張り上げる。

キョトンとしている恭介に気付くと、

「やれやれ」と肩をすくめる。

「それじゃあ、キミが本当に行きたい場所、

 会いたい人のことを、心に強く思い浮かべるんだ。

 そうすると…おのずと道が開かれる」

また、訳の分からないことを言う。

「えっ?」

 聞き返そう…と振り向いた時には、もうこの老人の姿は、

どこにも見えなかった…

 

 

 

 

 

 

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