『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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砂の都ウルダハは今日も満天の星空の下で金色のウルダハ王宮を輝かせるー。その王宮を取り囲む城下町の間を猛スピードで駆け抜ける影があった。その影は王宮横の石畳を走っていたかと思えば地面を蹴り上げ建物の柱の細工を足場に使いあっという間に民家の屋根へと登りきった。民家の屋根から屋根へと飛び移りザナラーンの星空背負って『彼』は走り続けた。尚も歩みを進めるその影が足を止めたのは子供が寝静まる頃合いであるにも関わらず煌々とする灯りが漏れる窓を、裏道に面した部屋にいくつか持つウルダハ屈指の酒場『クイックサンド』の屋根に降り立った時であった。このクイックサンドは『砂時計亭』という宿屋を兼ねていてエオルゼアの冒険者に必要不可欠な情報や仕事が手に入りまた冒険者の込み入った密談にも広く利用されていた。部屋の灯りが漏れる窓の奥に見えるはこのウルダハでは名を知らぬ者などいない敏腕魔術士である女冒険者オクーベル・エドの姿だった。オクーベルは『彼』気配を察して宿屋の最上階に位置する部屋の窓を大きく開け放った。その窓から“彼”が室内へと素早く滑り込んでくる。猫のような耳を生やし長い尾をしならせて、満月のように丸い金色の瞳を嬉しそうに潤ませたミコッテ族の年若い青年は自身の赤毛をふわふわと揺らしながら部屋で待っていたオクーベルに甘く囁くように夜の挨拶を口にした

「こんばんは、オクベルさん。会いに来ましたよ」
「お帰り、アル」

アルと呼ばれた青年は、寿命が長いアウラ族と呼ばれる種族のオクーベルよりも年下に見えるがミコッテ族特有の大人びた色気を醸し出していた。それが彼を少しだけ大人びさせていたので、少年の愛らしさも兼ね備えた見た目にギャップを生み出してより一層彼の魅力を引き立てていた。開け放たれていた窓を片手で素早く閉じてアルは挨拶も早々に、冒険者にしては華奢なオクーベルを抱き上げベッドに押し倒した。オクーベルの前開きのワンピースのボタンを手慣れた様子で二段目から外す。ボタンを外したその両の手を暴いた場所から差し入れながら、オクーベルの唇を自身の唇で優しく塞いだ。オクーベルはいつものことと受け入れて唇が離れた僅かなタイミングでアルに声をかけた

「君はいつもせっかちだな」
「だってオクベルさんに少しでも早く会いたかったから」
「君のために作った夕食が冷めてしまう食べてくれないと私も寂しい」
「…ずるい人ですね、そう言われたらなにもできないじゃないですか」

少しの悔しさを滲ませて、押し倒したオクーベルを抱き起こしたアルはまた軽くオクーベルにキスをしてベッドから立ち上がっりこう言った

「じゃあ僕のお腹が大丈夫じゃないので食べましょうかオクベルさん、貴女が僕のためだけに作ってくれた夕食を」
「そうだな、アル」

彼は自分の焦がれてやまない恋人をオクベルと愛称で呼び、またオクーベルは自身の最愛の人アールグレイ愛称アルの名を愛しく呼んで食卓に着いたのだった


女冒険者オクーベルとアールグレイという青年の出会いはつい最近だった。その日オクーベルは冒険者自身の所有物を一手に管理してくれるマネージャーのような存在である専任リテイナーに、仕事で必要になる道具を引き出してもらう為ウルダハ国リテイナー窓口に出向いていた。オクーベルはいつものように軽やかにカウンターでリテイナーベルを鳴らすと店先の奥で沢山の何かがぱらぱらと落ちる音を立てて、丸びを帯びた品物がいくつもカウンター下から飛び出してきた。その不思議な出来事にオクーベルは首をかしげ一向に誰も顔を出さないリテイナーカウンターの上に身を乗り出して中の様子を伺った。するとリテイナー服を着た一人の青年の後ろ姿が目に留まる。その背中にオクーベルが声をかけた

「大丈夫じゃないよな?なにか沢山落ちたようだが」
「…はい!大丈夫です、お待たせしました。本日はどのような御用向きでしょうか」

 


 

「いや、それはあとでいい。拾うのを手伝おう」
「とんでもないです、本当に大丈夫ですから…」
「それは大丈夫じゃないやつが言うセリフだ、いいから拾ってしまおう」
「…! ごめんなさい…」
「…?」

リテイナーの青年の重苦しい謝罪に全く心当たりのないオクーベルは彼をいぶしがる。青年の横顔を見てみれば先程はリテイナーカウンターの奥の影で見えなかったが顔色がとてもよいとはいえなかった。オクーベルは思った

(何かに怯えている…?)

彼は“何か”を酷く警戒しているようだった。よく休息が取れていないのだろうか、目の下はやや黒ずんでいるようにも見える。唇も血色が芳しくなく触れれば冷たそうだ。彼のただならぬ雰囲気を察したオクーベルは彼よりも早いペースで散らばった品々を次々と拾い集め彼の手に乗せてやった。やはりといった感じで彼の手はとても冷たかった。オクーベルは尚も思案した

(これだけ体温が落ちているならちゃんと食事も取れてないんじゃないか?しかし…)

自分はただの冒険者だし、彼は一介のリテイナーだ。オクーベルの専任リテイナーでもない。雇用関係でもなく知り合いでもない、そんななんの間柄でもない彼にとって全くの他人であろう自分が彼になにかしてやれるんだろうかとオクーベルはそうぼんやり思った。唯一とっかかりがあるとすれば見知った顔ではある。彼はオクーベルが所属する冒険者クラン『Become someone(ビカム・サムワン)』の弓術士(きゅうじゅつし)であり本物の天使であるケイの専属リテイナーだった。時折ケイと共に窓口へ来たとき何度か見かけたのを覚えている。そして以前見かけた時もそうだったし今も変わらず彼に思うことはオクーベルにとって彼の顔が正直好みだったことだ。オクーベルは逡巡してリテイナーの彼に引き続き声をかけた

「これで全部だろう。君はたしか…うちの弓術士の担当だったな、いつもケイが世話になってる。名を聞いてもいいか?」
「ケイさんと同じクランの方だったんですね。僕はアールグレイといいます」
「私はオクーベルという、よろしくな」
「はい…。あ、でしたらリテイナーは女性の…」
「いや、今日はもういい。彼女は席を外しているんだろう?また来よう。それより」
「大丈夫です!すぐ呼び戻します、少々お待ちください…」

そう彼がオクーベルを引き留めようとリテイナーカウンターから身を乗り出したとき、先程からアールグレイの顔にかかる自身の乱れた前髪をオクーベルが片手で顔から除けてやり彼を諭した

「大丈夫じゃないときは“大丈夫”だなんて言わなくていいんだ」

オクーベルのその言葉に驚いたリテイナー、アールグレイの金色に光る丸い瞳がウルダハの傾いた夕陽を浴びて琥珀のように輝いた。オクーベルは先さきほど拾い集めた落とし物を整えるのと変わらない手つきでそのまま彼の髪を整えてやり言葉を続ける

「君を大切に思う者も、無理を押す君をとても心配するだろう。自分を大切にな」
「オクーベルさん…」

オクーベルはそれだけ言い残してリテイナーの窓口を後にする。その彼女の後ろ姿をアールグレイはただ呆然と見つめるしかできなかったのだった。


「え?今日アル君と話をしたの、オクベル?」
「そうだ、ケイ」

オクーベルがアールグレイと初めて会話を交わしたその日、帰ってきたクランのラベンダー・ベッドの家でアールグレイが担当する件の弓術士ケイ本人とその日あった出来事を話していた

「アル君一生懸命ですごく良い子でしょ〜素直だし優しいし可愛いし!街の女の子にもすっごく人気なんだよ」
「それはなんとなくわかるけれども…」
「? アル君がどうかしたの?」
「なんとなく気になるんだ」
「オクベルが気にするなんて珍しい!基本的に男の子好きじゃないのに〜」
「ケイ、おまえ…」
「顔がオクベルの好みのタイプだもんね~アル君のこと好きになっちゃったとか?」
「なんでお前が私の好みを把握してるんだ、ケイ。それからそういうのじゃない。何かに怯えていたんだ、彼は命を狙われていたりしないか」
「あんなに良い子だよ?そんなことあるわけ…そういえば」
「?」

天使ケイは美人ではあるけれど男嫌いなオクーベルをからからと笑っていたと思ったら突然表情を変える。ケイは唇に親指を当てて一点を見つめ話し始めた

「アル君は人気者だしオークみたいにモテるんだけどリテイナーだからトラブルを避けにくいんだ。カウンターから動けないし皆平等に優しくしなきゃいけないし。この前しつこいファンがいるって僕のもう一人のリテイナーの子が言ってた」
「そうか…。ケイはリテイナー窓口に顔出したら彼に声をかけてやれ。私も気にかけておく」
「うん、わかったよ」

オクーベルはケイに心の内を話すも胸には漠然とした不安な気持ちを抱えていたのだった。


あくる日、オクーベルは先日会えなかった自分のリテイナーに面会する為にウルダハの街を足早に駆けていた。今日の冒険者依頼予定が押してしまい陽が暮れてしまった故にこのままではリテイナー達が家路に着いてしまう。ザナラーンの空の雲行きが珍しくなんだか怪しい。雨でも降れば余計店じまいをする店も増えるだろう。少しだけ心配事もある。先日の悲しい顔をした怯える青年の横顔が瞼の裏に焼き付いて離れない。オクーベルは走るスピードを上げようとしたとき曲がり角から自分よりも少し大きい人影が自らに突っ込んできた。急なことでオクーベルも受け止めきれずそのまま石畳に叩きつけられた。うめき声を上げたオクーベルが天を仰ぎ見る形で自分に突っ込んできた人物の顔をやっと確認した時、オクーベルの眼前目一杯に広がったのはケイのリテイナーである綺麗な顔をしたアールグレイその人だった。理由は解らないが濡れた瞳から涙がこぼれオクーベルの頬を濡らす。アールグレイの整った顔立ちにオクーベルは一瞬どきりとしたがアールグレイの口から出たのは意外な言葉だった

「助けて…っ」
「!」

次の瞬間オクーベルはアールグレイの背中から白く煌めく刃物を持った人物がそれをアールグレイに振り下ろそうとしているのを目に捉える。オクーベルは咄嗟に両の足でアールグレイの体を挟み腰の力だけでアールグレイごとその場から体二つ分転がった。刃物は空を切ってアールグレイには怪我が無く、ふたりは危機を回避したのだった。素早くアールグレイを自分の背に隠しオクーベルが背中に携えた杖を体の前に掲げた。アールグレイに刃物を突き立てようとしていたのは黒く長い髪をたなびかせたのは年若い女だった。その女が叫び声をあげる

「邪魔しないで!」

オクーベルは女に怒鳴りそうになる言葉を飲み込み冷静に女に語りかけた

「私の何が邪魔だ?」
「あなたよ!みんな私の邪魔ばかりして、ふざけないで!」
「私が何かしたのなら私が謝る、彼は関係ないと私は思う。お願いだ、私にその獲物を渡してほしい。私はただの冒険者だ」
「冒険者だからって私をバカにしないで!」
(読み間違えたか…)

オクーベルの目尻が僅かに動く。冒険者という肩書がどうやら悪い方向に作用してしまったようだ。冒険者をならず者と蔑む者が多いのも事実ではあるが、それ以上に彼女が自分の身の上を下の下だと思っているようだった。オクーベルは誰にも気取られぬよう奥歯を噛み締めた

(仕方がない、獲物を抜いている以上不滅隊の一員として街の治安維持の為に怪我させぬよう捕縛しなければ)

女は興奮していて刃物を手放しそうにないし怒りに震える手が今にも危なそうに見える。まかり間違ったらその刃物が女自身の体を突き破りかねない。首に当てられたら救出救護が難しくなる。何か隙があればー、そう思った時ザナラーンのスコールが凄い勢いで空からがんっと落ちてくる。その一瞬を見逃さずオクーベルは彼女の刃先を自身の杖で天高く弾き飛ばした。それに驚いて彼女はその場にへたり込んだ。女性が泣き喚いたことで付近を見回っていた不滅隊員が慌ててこちらに駆けつけた。オクーベルは無事彼女を怪我させることなく不滅隊に引き渡すことに成功したのだった。女は背の高い不滅隊に囲まれつつも隙間から見えた一瞬で命を狙われ逃げ惑い震え上がりきったアールグレイに聞こえるよう言葉を吐き捨てた

「可愛いって言ってくれたのに…っ」
「…!」

アールグレイはその言葉を聞き顔を青ざめさせ手をがくがくと震わせ、その冷たく冷え切った両の手で口元を抑えた。襲われた本人として不滅隊の隊舎で聴取を受けねばならずアールグレイは女とは距離をとって、隊舎まではオクーベルが彼に付き添うことになった。不滅隊の少し後ろを歩くオクーベルは肩を落とすアールグレイにそっと声をかけた

「…恋仲だったのか?」

アールグレイは雨の重さぶん顔も髪も、そして心持ちもずっと上げられずに力なく頭をふるふると横に振った。その答えに胸の内で少しほっとする自分がいたことに、その時のオクーベルは気が付いていなかった。アールグレイが重たい口を開いた

「でも、彼女は僕と恋仲だと思っていたのかもしれません…僕、容量悪いから一生懸命リテイナーやらなきゃって思って皆に良い顔してました。それが彼女を誤解させたのかもしれません」

アールグレイのその言葉にオクーベルは静かに聞き入った。と同時にまたこう思った。自分はただの冒険者だし、彼は一介のリテイナー。自分の専任リテイナーでもない。雇用関係でもなく知り合いでもない、そんななんの間柄でもない彼にとって全くの他人であろう自分が彼になにかしてやれることはきっと多くはないのだろう。けれどそれは、

(目の前で困ってる誰かを助けない理由には、私にはならない)

オクーベルは未だ止むことを知らない雨を避けるように彼の尊い顔から誰もが羨むような柔らかい髪を左右に除けてやり顔を覗かせてやった。やっぱり大粒の涙を流している、オクーベルは避けてやった手を彼の髪に差し入れて優しく撫でてやった。そして彼に真実をありのまま伝えた

「相手に明確に好きだと伝えていなければ誤解をする側がいけないんだ、君はけして何も悪くない」

その言葉にアールグレイは息を飲み零れそうなほど目を丸くして、再び涙を流して自身の額がオクーベルの肩にことんと当たった。アールグレイが消え入りそうな声でオクーベルに懇願した

「僕が“大丈夫”じゃないので少しだけ、肩をお借りしてもいいですか」
「ああ、もちろん」
「うっ…」

声無き嘆きが激しい雨に掻き消える。前を歩いていた不滅隊の姿はもう見えなくて雨の檻にふたりだけで佇んだ。いつの間にかアールグレイの腕はオクーベルの背中に回り、またオクーベルも自分のなけなしの体温を分けてやるようにアールグレイの体に腕を回したのだった。


数日後、あの酷い雨で体調を崩したアールグレイはしばらくリテイナーを休むことになったと、天使ケイからオクーベルは聞き及ぶことになる。それからケイのもう一人のリテイナーからアールグレイが彼女に付きまとわれてずっと怯えていたことも知った。もう乗りかかった船でもなんでもなくなったオクーベルは純粋にアールグレイの事を心配していた。それと時を同じくして彼を少しだけ好きにもなっていた。オクーベルは無類の美男好きだったのだ。下心があるのは自分でも解っていたが、もうすでに何日か前に復帰していたアールグレイの顔だけを見て自分のあるべき場所へ戻ろうと自身に約束をしてリテイナー窓口であくせく働くアールグレイに声をかけた

「今日は大丈夫じゃなくはなさそうだな」
「オクーベルさん…!すごく会いたかった」
「え」
「なんですぐ会いに来てくれなかったんですか、僕ずっと待ってたんですよ」
「いや、だって…」

アールグレイに女絡みであんなことがあったばかりだ。本当は女の自分は声をかけないほうが良いのは解ってはいたが、なにせ自分もリテイナーの雇い主である冒険者だ。どうしても行き合ってしまうのは否めず避けようもなかったのだが、アールグレイの意外な反応にオクーベルは面を食らったのだった。いつもお洒落な帽子を被り、今日も今日とて敵や味方に自分の表情を悟られぬようわざと目深に被る帽子を更に下げてオクーベルはアールグレイに別れの言葉をさっと口にした

「元気になったのなら良かった、ではな」

そのオクーベルの不思議な様子にリテイナーとして有能でよく人の機微に気がつく実は敏腕な、天使ケイの懐番リテイナーであるアールグレイは可愛らしい帽子から少しだけはみ出ているオクーベルの赤い耳に気がついた。優秀なアールグレイは手に持っていたミラージュプリズムたちをわざと床に落下させる。それに驚いたオクーベルはアールグレイに背を向け歩き出しいた歩みを止めた。足元に盛大に転がるウルダハの宝石を思わせる赤や青や紫、エメラルド色のように輝き光の表情を変えるミラージュプリズムやマテリアたちがオクーベル自身に心の声にきらきらと何か囁やきかけているようだった。胸の中もきらきらとしている。こんな気持ちを自分は知らない。オクーベルの鼓動はいつの間にか早鐘を打っていた。するとアールグレイがぼそっとつぶやいた

「僕が“大丈夫”じゃないので拾うのを手伝ってもらっていいですかオクーベルさん」
「し、仕方がないな。君は本当によく物を落とすな」
「すみません」

アールグレイの声は謝罪を口にしていたが一番最初に出会った時とは比べ物にならずひどく優しく落ち着き払っていた声だった。それに気がついてしまったオクーベルは答えた返事が上ずってしまった。もう逃げられないかもと、心の中で半ば諦めのようなものが確信めいたのだった。散りばめられたものを全て拾い集めた頃、お互いの距離が一番近付く場所に落ちる、残り僅かなミラージュプリズムを拾うタイミングでアールグレイがオクーベルの指先を摘んだ。拾おうとしたものを拾い損ねたようにも見える。アールグレイが先に謝った

「手がぶつかってすみませんオクーベルさん」
「アールグレイ…いや、別に…いいけど」
「いいんですか、振り払ってくれないとこのまま繋いでいたくなります」

アールグレイが摘んでいたオクーベルの指先をきゅっと握った。オクーベルはひゅっと息を飲んだ。アールグレイは言葉を続ける

「初めて名前を呼んでくれましたね」
「そうだったかな」
「そうです。ねぇオクベルさん、僕からは素敵な帽子で貴女の顔がよく見えないんです。帽子、取ってもいいですか?」
「…別に構わない」

アールグレイは熱を潤んだ瞳で彼女を見つめながらそっと帽子を外した。帽子から除いた視線の合わないオクーベルの顔は、顔の模様の堺がわからなくなるほど赤く赤く染まりきっていた。アールグレイは確信して甘い悩ましい溜息を吐き出してオクーベルにそっと囁いた

「貴女のことが好きなのでキスしていいですかオクベルさん」

オクーベルは瞳を1度伏せて小さくこくんと頷いた。アールグレイの顔がだんだんと自分の顔に近づいてくる、彼女はまだ顔が上げられない。ウルダハのリテイナー窓口の向こう側の世界は今日も賑やかでその笑い声の喧騒がオクーベルの耳にやけに大きく届いた。アールグレイがオクーベルの顎を優しく持ち上げて互いの長いまつ毛が当たった状態でアールグレイが最後にもう一度だけ彼女に乞い願う

「本当にキスしてもいいですか?」
「私も君が好きだからキスが欲しい」

瞳をそっと閉じるまえに至近距離でオクーベルたちの視線がやっと絡み合う。唇より先に互いの睫毛が互いの頬に優しくキスを降ろして彼らの唇が音無く重なった。これは一人の平凡なリテイナーと強く優しい女冒険者の、カウンター下の恋物語。未だ散らばったままの虹色に輝くミラージュプリズムの光に包まれて誰の恋物語が現在進行系で進んでいたとしても、あっという間にスタートして溢れる想いを情熱的に重ね合わせるのだったー。

(次回に続く)
 

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