アップルでさえ失策? グローバル時代の出願区分

観光地に出かけると、あらためて実感するのが、訪日外国人、それも個人旅行者の急増。スマホ片手に路線バスを乗り継ぎ、手元をのぞいてみるとアップル社のiPhoneユーザーが過半数──。いまや中国におけるiPhoneの販売台数が米国でのそれを上回る勢いで伸長しているそうで、グローバル化とはこういうことかと思い知る。

こうした中国本土でのiPhone人気を裏付けるように、2016年5月、「米アップル社が中国でiPhone登録商標の奪還に失敗」というニュースが流れた。初代iPhoneは、2007年1月に米国において発表され同年6月に発売開始。日本を含む22地域で2008年7月11日、中国本土では2009年10月30日に発売された。

今回問題となったのは、中国の新通天地社の商標「IPHONE」。2007年9月、同社が皮革製品の区分(18類)で出願し、2012年になってアップル社が異議申立をしたものの翌13年に敗訴。今回高等裁判所から、アップル社の訴えを退ける判決を下されたものだ。

つまり、iPhone発売前の中国では、「その名は知られておらず、周知性はなかった」と判断され、当時からIPHONEの名の財布やブックカバーなどが出回ってきており、これにお墨付きがついた。

アップル社にとっての第一の問題は、2006年といわれるiPhone出願時に皮革の区分で商標出願していなかったこと。さらにいえば、すでに国際的な話題になっていた2007年の時点で、中国国内での周知化という戦略をもたなかったことだ。

ライセンスビジネスに精通したアップル社でさえ、こんなことが起こりうる。一般企業においては、いわずもがなである。

ロイヤリティは 1億円

ところで、日本においてアップル社は「iPhone」のスマホ区分(9類 携帯電話ほか)の商標を保有していない。権利者名は、アイホン株式会社。日本を代表するインターホンメーカーで、高度成長期の昭和29(1954)年に「アイホン」を当時の区分(電気通信機)で出願・登録。アップル社が発売前の2006年にiPhoneを出願したものの特許庁は拒絶。苦肉の策として、登録申請の名義をアイホン社に変更し、アップル社は専用使用権を設定して、ロイヤリティを支払っている。その額は年間およそ1億円だそうだ。

本家iPhoneの日本国内での出荷台数は低迷気味とはいえ、年間1473万台(2015年)。1台当たり約6.79円。さて。これを高いとみるか、安いとみるか…………。

特許業務法人プロテック プリント版ちざいネタ帖 Vol.10 2016/06/30より