象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

屠殺というお仕事〜「牛を屠る」に見る、生存戦略としての本能と仕事

2021年05月13日 03時23分54秒 | 読書

 仕事は理屈じゃない。生きていく為に不可欠な生存戦略なのだ。
 人間だけでなく、あらゆる生き物は動植物の命をもらって生きている。それぞれに生存戦略があり、生きるという事はつまり、必死なのだ。故に、必ず死ぬから必死で生きる。

 私達は肉を食う。それは単に肉が美味しいだけの事だろうか?
 私達は野菜も食う。それは単に野菜が身体にいいだけの事だろうか?
 私達は肉も野菜も食う。それはバランスの取れた食事の為だろうか?
 我々人類は本能で肉を食う。肉には脳や肉体を支えるビタミンやカルシウムやミネラルが豊富に含まれてるからだ。
 ワニも本能で獲物を丸呑みする。そのワニもビタミンが不足すると簡単に腹上死する。草食動物のお腹の中の雑草の中にたっぷりと含まれてるビタミンを本能が欲してるのだろうか。
 ライオンも獲物のお腹の中の発酵した植物から最初に食い始める。これも生存戦略の為の本能なのだろうか。

 我々は主観で物事を考え、理屈で物事の本質を捉えようとする。しかし、もし世の中に理屈というものがなかったら?
 現実も数学も理屈じゃない。理屈で生き、解けるほどヤワじゃない。食や仕事も同じで、理屈では語れない部分が沢山ある。

 私がかつて面倒を見てた野良猫は、何でも面白いほどに食った。
 ネズミに蛇にトカゲに、シュークリームにチーズケーキ、レンコンにタラバ蟹に鳥レバに饅頭と。それに、車の廃油にも口をつけた。
 しかし、添加物が入った外国産の有名メーカーのドライフードだけは絶対に食べなかった。便器に溜まった水や腐った肉や魚を平気で口にする猫がである。
 これが国産のドライフードだと、外に出しておくだけで、近くの野良猫が一気に群がり、サラダボール一杯の量をほんの数十分で平らげてしまう。
 彼らはパッケージ裏面の成分表でも見てるのだろうか?”添加物入りの外国産は食うな”と、親から教えられたのだろうか(笑)?
 つまり食う事は、自然界から授かった本能に他ならない。


「牛を屠る」職人の匠の技

 我ら人類が家畜を飼育し、””して食べるのも自然が人類に授けた本能かもしれない。
 同じ様に、仕事で牛を屠るのも神が授けた生存戦略ではないだろうか。

 される家畜の痛みを最小限に抑える為の研ぎ澄まされた匠の技。
 これを知らずしては語れないし、語るべきではない。
 でも今はその大半が機械化&自動化されてる筈だろうから、昔ながらの職人は存在しないかもだが、のリアルな現場を全て目にする事が出来た私は、ある意味幸せ者かも知れない。
 しかし現実は、そういった”生の”を知らない連中が、牛を殺して食べるのは残酷だと可哀想だとか、上辺だけの同情心でインフルエンサーの如く、ウケのいいコメントを撒き散らす。

 そういう私も、「牛の解体」での現場を全て忠実に描いたつもりだ。しかし、生々しさだけが伝わったみたいで、私の描いた真意は十全には伝わってはいない気がする。
 する側も生きていく為の仕事だとは言え、牛に対する愛情はの現場を知らない人よりもずっと厚いに違いない。
 だからこそ、”される動物たちの痛みを最小限に抑える”という、匠の技が先人の知恵と愛情を継承する事で確立されてきたのだ。
 彼らは、誰よりも牛や豚の苦しみを理解してる。そうでないと、この仕事は絶対にやってられない。彼らは本能でそういう事を理解してるのだ。それは理屈なんかじゃない。

 私達がスーパーで色んな種類の様々な部位の肉を安心して買えるのは、彼らがいるからだ。という非情にも思える仕事を、あえて引き受ける職人がいるから、我々は安心してお肉を食べる事が出来る。
 それは決して理屈じゃない。

 ”おめえみたいなヤツの来る所じゃねえ!”と先輩職人に怒鳴られた日から10年間。ひたすらナイフを研ぎ、牛の皮を剥く中で見いだした苦悩の日々。
 人は何の為に仕事をするのか?
 「牛を屠る」の著者の佐川光晴は、職業作家になる前、埼玉の屠畜場に勤めていた。多分、その答えはされた牛だけが知ってるだろうか?
 ”されるのもするのも理屈じゃないんだろ?”って、牛たちの説教がここまで聞こえそうだ。
 

機械化・自動化されるの現場

 世界各国の食肉加工場で新型コロナの集団感染が確認され、一部は操業停止にまで追い込まれた。こうした中、デンマークの欧州最大の豚肉加工場では自動化への投資が奏功し、パンデミックの影響を受けずに操業を続けている。こうした自動化は、米国などの食肉加工場で起きる従業員の”消耗品扱い”にも終止符を打つかもしれない。
 以下、「食肉加工の機械化が・・・」より一部抜粋です。

 寒い室内で肩を並べて作業する米国の食肉加工場は、感染症が蔓延しやすい環境だ。これまで数千人の従業員が新型コロナに感染し、30人が亡くなった。この感染拡大により、全米で数十カ所の加工場が閉鎖や生産規模の縮小に繋がった。
 一方、デンマークにある欧州最大の豚肉加工場では、ほぼ通常通りの操業が続けられている。殆どの作業をロボットがこなしてるからだ。
 機械式の仕切りが豚を数頭ずつ囲いの中からガス室へと移動させる。豚がガス室に入ったらCO2を吹きつけ気絶させ、ベルトコンベヤーに載せる。
 ベルトの先には従業員が待ち構え、豚は逆さに持ち上げられ、製造ラインで移動。別の従業員が豚の頸動脈にバキューム装置付きの専用のナイフを差し込み、血液を吸い取る。
 ここから先は全てロボットの仕事。
 まず赤外線レーザー発振器を備えたロボットが豚のサイズを計測。また別のロボットがデジタル画像を用い、尾の下部に約10cmの穴を開け、便を吸引する。

 次に、キャビネット形のロボットが大きな円形の刃で豚の胸骨から腿のつけ根まで切り開く。更に、内臓を取り除くロボットや腱を切るロボット、背骨を縦に切り開くロボットが次々と処理を進めていく。
 ここまでの所要時間は10分で、ロボットは計6台。人間は作業を監視する必要最小限の人数がいればいい。午後のシフトが終了する頃には、18000頭の処理が終わっている。
 ダニッシュクラウンの食肉加工場は、ここ以外にもデンマーク国内の17カ所に工場を持ち、どれもが高度に機械化されてる。これこそが新型コロナ感染のホットスポットにならずに済んでる理由の1つだ。
 因みに、国内に8000人いる従業員の内、新型コロナ感染が確認されたのは10人以下。休業または処理量を減らすなどの対応をとった加工場は1つもない。


に関する新たな認識

 新型コロナのパンデミックが発生して以来、食肉加工場を含むあらゆる業種でモノや人の配置を考え直す必要が生じた。
 米国の食肉加工場は、従業員同士の距離が近く、騒々しく、室温が低いという特徴が故に、新型コロナが広がりやすい。だがロボットを導入すれば、従業員を感染から守り、施設を閉鎖する必要もなくなる。

 米国の食肉産業は今、”機械化に投資をしなかったツケを払っている”と、パデュー大学のジェイソン・ラスクは言う。
 米国の食肉加工場で機械化が進まなかった理由として、経済的なインセンティヴの欠如を挙げる。新しい技術を導入せずに不法就労者を安い賃金で働かせれば、事足りる状況が古くから続いてきた。競争力を保つには、生産ラインの働き手を増やせばよかった。
 ところが、人口動態の変動や急激な経済成長の影響で、十分な数の従業員の確保が難しくなってる。さらに新型コロナの大流行で、加工ラインに大勢の従業員を詰め込めば、伝染病を広める原因になる。
 ”新型コロナの騒ぎが収まったら、やる事の最初は自動化です”とラスクは言う。

 米国では、豚や牛の食肉加工場に比べ、家禽類の加工場では機械化が進んでいる。
 1970年には、1時間あたり3000羽だった処理数も、現在では15000羽にまで増加。家禽類は体のサイズが小さい事から、生産ラインの機械化に要する設備投資の負担も小さい。
 とはいえ、豚肉や牛肉の加工業者も10年ほど前からようやくロボットの導入を始めた。18年には、クレメンズフードが切断とパック詰めの作業を自動化した豚肉加工場をミシガン州に開設。ここでは、従来より300人少ない従業員数で従来通りの量の肉を加工できる。
 また19年には、米国の食肉大手タイソンフーズは逆に労働力不足に対処する為、ロボットを導入すべく投資を開始した。


近未来の解体作業

 しかし、かつて職人が行ってた家畜の解体作業をロボットに任せるのは、容易い事ではない。動物の形や大きさは個体によって異なるからだ。
 可能な限り遺伝的に均一な家畜をつくり出すにしても、スマホのバッテリーの様に均一な豚が生まれる事は決してない。
 ”どの様な種類の家畜を解体する場合でも、生物学的変動が必ず存在する”と、デンマーク食肉研究所(DMRI)のラース・ヒンレクスンは言う。
 つまり、単純なプログラムで画一的に切断するだけでは、ロボットに肉を処理させる事はできない。そこには熟練した臨機応変の技が必要なのだ。
 理想的なロボットは、デジタル画像処理して骨の位置を判別し、切断した時の重量を概算した上で、最適な切断方法を導き出す。
 ”成功を収めている企業は、個体差をどう利用すればいいか知っている”

 前述したダニッシュクラウンの豚加工場も、DMRIの技術のお陰で人とロボットの見事な協業を実現している。
 ヒンレクスンによると、デンマークの食肉加工場では20年前に業界の存続をかけ、機械化への投資が進められ、今や食肉加工場の従業員は高給取りになったという。
 ”機械化を進めたのは、単にそれが世界市場において競争力を保つ唯一の方法だったからだ”
 DMRIは現在も技術開発を進め、仮想シミュレーションの技術を統合し、食肉処理に生かそうとしている。

 未来の食肉加工場では、単純な反復作業をライン形式で進めるやり方は廃止され、人間1人とロボット1台が組み、作業ブースの中で1頭ずつ豚の解体を最初から最後までする事になるだろう。
 ロボットは必要に応じ、ナイフなどのツールを持ち替えて作業し、人間はトラブルに対処する為に作業を見守る。人間がトラブルを解決する度に、その解決策がアルゴリズムにフィードバックされ、ロボットはどんどん賢くなっていく。
 この方法なら、食肉加工に要する数百の過程を1人と1台のペアでこなせ、隣の従業員と肩を触れ合わせる事もない。それでいて、現在の生産量を維持出来る。


職人の”消耗品扱い”に終止符を打つ

 デンマークの2020年5月下旬時点の感染者数は11000人、死者はわずか551人。これは政府が早いうちから自宅待機の指示を出した成果である。
 一方の米国では、同時期に150万人以上の感染者が確認され、95000人が死亡した。
 トランプ大統領は4月、”食肉は国防に不可欠な希少かつ重要な物資”であるとし、食肉加工場の稼働を続ける事を命じる大統領令に署名した。
 つまり、米国の食肉加工場における感染者の急増は、機械化の遅れというよりも、従業員を消耗品の様に扱う体制に原因があるのかもしれない。

 ”従業員に投資しなければ、この先も似た様な事態が何度も繰り返される”と、ヒンレクスンは言う。
 ”今回流行した新型コロナ以上にタチの悪い病原体は幾らでもある。自分の会社で今回の様な感染症が流行した時、ツケを払うのは誰でしょうか?
 リスクを負担せず、問題に向き合わず、解決しようとしなければ、いつかは危険な状況に陥る”

 食肉加工場にロボットを1~2台導入すれば、感染症に対する安全性は高まるだろう。つまり、人が減れば、感染の危険が少なくなる。
 しかし機械化の影響は、ドミノ効果により大きな形で現れる。技術的に進んだ設備を動かすには、技術力のある従業員が必要だ。
 そういった従業員は、易易と搾取される事はない。パンデミックの状況下では尚更だ。
 以上、WIRED.JPからでした。


最後に〜生存戦略としての

 アメリカでは、新型コロナのパンデミックにより、”本物の肉”が品薄になり、”代替肉”の普及が本格的になってるという。
 しかし、ここで食のサプライチェーンが壊れたら、元に戻る事はない。”植物ミート”と聞こえはいいが、食の生態系を壊す、ある意味コロナウィルスよりも恐ろしい存在かもしれない。
 だが、新型コロナ危機を脱する為に、食肉処理工場での作業員とロボットの融合が計られ、自動化と機械化が上手く進展し、それに職人に対する認識が大きく変わるとすれば、我々は逆に感謝すべきかもしれない。

 家畜を殺して食う事は、それだけを見たら残酷で冷酷な事かもしれない。
 しかし、それは人類の生存戦略であり、という仕事も先祖代々から受け継いできた、神から授かった本能である。
 そして、の自動化と機械化すらも神様が与えてくれた本能だとしたら?

 ”リスクを負担せず、問題に向き合わず、解決しようとしなければ、いつかは危険な状況に陥る”とのヒンレクスン氏の言葉は、今の日本政府にそのまま当てはまる。
 つまり今の時代にて、最悪の消耗品は政治家なのだろうか。
 近い将来、政治家をする職人が必要な時代が来るのかも知れない。



2 コメント

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おはようございます。 (けんすけ)
2021-05-13 08:45:11
職人の匠の技を消滅させてはいけませんね
日本古来から培った建築技術でも同様だと思います。
けんすけサンへ (象が転んだ)
2021-05-13 12:36:55
そうですよね。
それに、AIロボットを導入し、職人の精神的肉体的負担を減らす事も必要でしょうか。

加工食品が健康を害する事が明白になった今、精肉は人間は健康に生きる為に欠かせないものです。そういう意味でも待遇も含め、見直すべきですよね。

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