「血の婚礼」@シアターコクーン | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

原作 フェデリコ・ガルーシア・ロルカ

演出 杉原邦生

木村達成/早見あかり/須賀健太/安蘭けい/南沢奈央/吉見一豊

 

 ロルカの1932年の戯曲です。戯曲を読むとアンダルシアという土地の属性が色濃く出ている感じですが、今回の舞台では抽象的、象徴的な形での表現が特徴的で、全体に硬質な感触があり、いろいろと興味深かったです。

 

 ネタバレあらすじ(レオナルド以外の登場人物には名前がありません)→舞台はスペイン、アンダルシア地方の村。花婿(須賀健太)花嫁(早見あかり)と結婚することになった。花婿の母親(安蘭けい)は心中穏やかでない。花嫁はかつてレオナルド(木村達成)という男と心を通わせていた時期があり、そのレオナルドの親族に夫と長男が殺されたからだ。一方、レオナルドは花嫁と破局したあと花嫁の従妹(南沢奈央)と結婚し子供もいるが、気持ちは吹っ切れていない。婚礼の日にレオナルドとその妻が祝福に訪れるが、披露宴の最中に、花嫁とレオナルドは駆け落ちする。花婿は2人を追いかけ、森の中でレオナルドと花婿は決闘し、2人とも死ぬ。あとには女たちが残される。おわり。

 

 外の世界から隔離された狭い社会、因習に縛られた小さな村、血のつながった「一族」への執着、子孫繁栄、家に閉じ込められた女たち、子供をたくさん産むことを期待される結婚、理性ではなく情念に身を任せた若者、神話的な森、そんな世界観です。シンボルやメタファーが散りばめられた演出・舞台美術だった。

 

 舞台一面に敷き詰められた褐色の砂は「血が染み込んだ」大地。最初に花婿と母親が舞台に登場すると、上から砂が2筋落ちてきました。これは母親の殺された夫と長男(花婿にとっては父と兄)の血なのでしょう。

 登場人物たちの衣装には黒いハーネス(サッシュみたいなもの)が巻かれている。それは心が因習や家族に束縛されていることだろうし、花嫁のウェディングドレスが剥き出しのクリノリンで、それも黒いハーネスで作られているのは、結婚が自由を奪うものであることを語っています。駆け落ちしたレオナルドと花嫁の衣装にはハーネスはなくなっているのも象徴的だった。

 その2人が逃避行する世界(森)に、擬人化された月と物乞いが登場するんだけど、闇を照らすことで全てを明るみに晒す月は死の使いであり、物乞いは死そのものかな?

 

 興味深かったのはメターファーとしての「壁」の扱い。舞台上に、三方を壁で囲んだ部屋が造られいていて、それはセリフにもあった「世間を遮る分厚い壁」。で、花婿、レオナルド、花嫁が、それぞれ登場した時に壁を押すと、その部分がドアや窓の形にくり抜かれて向こう側に倒れる。その空洞から外の世界(といっても褐色の大地だけど)が覗き、その広い世界に出ていこうとする若者たち。でも最後に2人の男が死んだあと女たちが現れたところに、そのドア枠だけが再び持ち出されます。女たちが目に見えない壁で再び世界から遮られるように。

 

 母親を演じた安蘭けいさんの存在感がとても強かった🎉 夫と長男が殺されてから壁ばかり見てきた彼女は、花婿には、妻を支配して子供をたくさん産ませろと言い、女が結婚することは世間との間を遮る分厚い壁の中で生きることだと考えている。彼女の胸にあるのは「一族」という血縁の絆をたやさないことなのかな。それへの執着を示す安蘭さんには凛としていながらも盲信的な強さがあり……むしろ狂気を孕んでいて、それが顔を出したときの目の輝き、言葉の鋭さが怖かったです😱

 レオナルドと花嫁は理性を放棄し、体内に流れる情念に押し流されるように、運命の砂山を転げ落ちていく。レオナルドの木村達成くんは登場時から、土地の空気に馴染めていなさそうな、孤立した雰囲気、孤独の闇をまとっていた。同時に、花嫁をストーカーしてしまうほどの抑えきれない情熱、言いようのない焦燥感などが上手く出ていました👏

 花嫁の早見あかりさん、花婿との結婚に対しては観念したような感じだった。でも実際には、結婚して子供を産んで家に閉じこもり年老いていく、そういう人生を受け入れきれない。婚礼の日にレオナルドと会ったことで彼女の心の窓が開くのですが、レオナルドと会っているときの早見さんには喜びと恐れ(そして自分に対する怒りも?)が見えました。

 須賀健太さんの花婿は、前半、母が自分ではなく殺された父と兄しか見ていない、花嫁からも本当に愛されているのかわからない、そんな鬱屈した心理を感じました。でも、駆け落ちした2人を追うところで激しい感情を迸らせて母と同じ狂気の血が流れている姿を見せ、そこからレオナルドと決闘にいたるまでの豹変は素晴らしかった👍

 

 レオナルドと花婿との決闘は、褐色の砂の上で、互いにナイフを手にして転げ回りながらの立ち回りです。このリアルなシーンはとても良かった。結局2人の男の血が流れ、大地に吸い込まれていく、子を産ませる男がまた死んでいく。乾いた大地=不毛ということでもあるのかと思ったりしました。

 

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