「ヴィンセント・イン・ブリクストン」@東京グローブ座 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ニコラス・ライト

演出 森新太郎

正門良規(Aぇ!group/関西ジャニーズJr.)/七瀬なつみ/夏子/富田健太郎/佐藤玲

 

 画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが20代前半にロンドンに住んでいた史実を元に創作された「起こったかもしれない」仮想の物語です。作者ニコラス・ライトは平幹二朗の舞台としての遺作「クレシダ」やシアター風姿花伝プロデュース「ミセス・クライン」などのほか、ウィールドンのバレエ「不思議の国のアリス」の脚本も手がけている。

 

 ネタバレあらすじ→オランダの美術商で働いていたゴッホ(正門良規)は1873年20歳のときにロンドンに転勤、ブリクストン地域に部屋を借りる。その下宿屋を営むアーシュラ(七瀬なつみ)は若き未亡人で、18歳の娘(夏子)と二人暮らし。最初ゴッホは娘に一目惚れしたのだが、次第にアーシュラに惹かれていく。15年前に夫を亡くした喪失感から立ち直れていないアーシュラも、孤独を共有できる相手としてゴッホに心を開き、2人は急速に関係を深めていく。ゴッホは彼女を通して絵画に目覚めるが、翌年、叶わぬ恋を諦めるべくパリ転勤を受けて突然ロンドンを去る。しかしそこで解雇された彼は2年後に、教師の職を得てロンドンに戻ってくる、が、画家への道は諦めていた。アーシュラと再会したゴッホは改めて自分と向き合い、取り憑かれたように目の前の靴をスケッチし始める。おわり。

 

 ゴッホのロンドン滞在中の資料はわずかしかなく、オランダにいる家族とやりとりした手紙には6カ月の空白期間があるらしい。そこに着目して、まだ絵の才能に気づいていない彼が、ロンドン滞在中の恋愛体験によって人生の道を見出した、というエピソードを創りその空白を埋めたわけですね。彼がやがて描くことになる「古靴」や「星月夜」(あるいは「糸杉と星の見える道」)のルーツもその中でほのめかされていた。

 森新太郎さんの演出は今回も手堅いです。舞台にはアーシュラ夫人のダイニングキッチンがリアリズムで再現され、演技も自然さを大事にしているよう。家の外に糸杉のような大きな木が1本あって、そこにぼんやりとライトが当たっていた。

 

 で、お話は面白いし描かれていることも分かるんだけど、ゴッホと夫人との感情の流れ&変化にちょっとついていけなかったな😔(よく理解できなかったという意味です)。

 ここでのゴッホは、素朴で純粋で真っ直ぐだけど、言い方を変えれば率直すぎて無神経、時にとても冷酷に、あるいは傲慢になったりする。そんなゴッホを演じた正門良規くんなんだけど、演技に少し物足りなさがあった。私が今まで見た限りでは、ジャニーズ事務所の役者さんは皆とても良いし、正門くんも、発声やセリフ術など全く問題ないんだけど、特に前半の演技(動き、動作)がオーバーアクション気味で気になりました。プログラム内のインタヴューで、最初の部分はコミカルにやりたいと語っているんだけど、う~ん「コミカルな演技」がちょっとステレオタイプだったな😓

 またゴッホはアーシュラに「あなたは僕の不幸を写す鏡だ」みたいなことを言うんだけど、ゴッホの不幸って何なのか、彼女になぜ惹かれたのかもよく分からなかった。それは私がセリフを理解しきれなかったからかもだけど、決定打は、彼が夫人を愛しているとはどうしても見えなかったこと。若き未亡人といっても18歳になる娘がいる、自分の母親と言ってもいい女性ですよ、その女性に恋に落ちる説得力がほしかった。これはアーシュラ役の問題でもあるけど。

 

 そのアーシュラの七瀬なつみさん、ミスキャストじゃないかと思っちゃった🙇‍♀️ 20代前半の男性を惹きつけるほどの、ある種、抑圧された官能性、あるいは神秘性みたいなものを感じなくて……。それは必要ないとしたら、正門ゴッホは七瀬アーシュラのどこに惹かれたのだろう、その魅力が分からなかった。また、彼女が息子ほども若いゴッホに心身を預けたのは、自分を孤独の底から救ってくれる、自分を女として見てくれるからだとして、彼女のゴッホに対するそうした眼差しもあまり感じられなかったです。

 ちなみに2003年に上演された「若き日のゴッホ~ヴィンセント・イン・ブリクストン」では、アーシュラを桃井かおりが演じていて、これは納得のキャスティングでしたね。一方ゴッホはなんと菊之助で、こちらは完全にニンじゃなかったけど😑

 

 夫を亡くしてから生きがいを見つけられずにいたアーシュラは、芸術家の卵を育てることに喜びを見出し、下宿屋を営むかたわら学校で教えてもいるという設定。ゴッホが画家への道を再び歩み出す終盤は、そのことで彼女自身も救われたことが仄めかされている、美しいシーンでした。でも、そんなわけで、個人的には少し消化不良気味の舞台でした。

 

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 演劇(観劇)へ
にほんブログ村


観劇ランキング 

明日もシアター日和 - にほんブログ村