小説・詩ランキング

 

31日、カブールで、アフガニスタン駐留米軍の撤収を受けて打ち上げられた祝砲。【AFP時事】

 

 

 8月30日午後11時59分(現地時間)、最後の米軍機がカブール空港から離陸し、撤退を完了し、タリバン警備隊は空中銃撃と祝砲でお祝いしました。流れ弾に当たった市民の負傷者が出ています。


 前回のリブログ記事では、タリバン政権下の基底的な政治の構造を把握しました。カブールの政府にいるタリバン幹部は「西欧化」「軟化」しており、イスラム原理主義とは距離をとっています。復興のために諸外国の援助を求めており、寛容なイスラム政策をとる、外国人の安全を保証する、といった「確約」に余念がありません。

 

 しかし、市内の警備にあたっているタリバン戦闘員は「ハッカーニ・ネットワーク」に所属しており、彼らを束ねているハッカーニ師は、タリバン政府のトップを構成する幹部の一人です。「ハッカーニ・ネットワーク」は、「ISホラサン州」とつながっており、タリバンと「ISホラサン州」をつないで、対立する両派を融和する役割をしています。タリバン幹部の「西欧化」「軟化」傾向に飽き足らない多くの戦闘員が、「ハッカーニ・ネットワーク」を通じて「ISホラサン州」に移動する動きがあります。幹部の「引き抜き」も行なわれています。

 

 「ハッカーニ・ネットワーク」に所属するタリバン戦闘員らは、「西欧化」した幹部の寛容方針などは無視して、市民に対して原理主義的な統制や逮捕・殺戮(↓きょうの引用記事で詳報します)を行なっており、さらに、「ISホラサン州」ともなると、

 

 「タリバンは、手首切断刑も、石打ち処刑も行なっておらず、コーランを裏切っている。」

 

 と、タリバンを批判するなど、「ISホラサン州」は、厳格なイスラム原理主義とジハード(聖戦)を実践しています。彼らの言う「ジハード」とは、↓下で見るように、コーランをも越えた文化統制のための見せしめ残虐刑の実践であるようです。

 

 つまり、「タリバニスタン」(タリバンの支配するアフガニスタン)の基本的な政治構造として、政府幹部が原理主義にこだわらず、西欧に「いい顔」をしているのは、見せかけではなく、変化した彼らの政策だと見てよい。しかし、彼らの方針は、実権を握るタリバン本体(ハッカーニ・ネットワーク)には届いておらず、じっさいの国内統治は、「ISホラサン州」などの影響を受けた原理主義で行われてゆく趨勢にある。

 

 ニュース・メディアがもっぱら関心をもっているのは、最高機関がタリバンのイスラム評議会になるか、各地の軍閥の「包括的」連合体になるか、民主的議会制になるか、といった統治機構の形です。しかし、法律的な形がどんなになろうとも、権力の中身は、↑上述の基底的構造で決定されてしまうだろう‥‥というのが私の考えです。

 

 米軍の撤退がはじまって以来、パキスタンや中国・新疆、中央アジア諸国から、ジハーディスト〔原理主義を信奉してジハード(テロル)を行なう武装活動家〕がアフガニスタンに集まって来ています。彼らの参加で「ISホラサン州」も勢力を盛り返していると思われます。

 

 今後、タリバンに対する「ISホラサン州」などジハーディストの圧力が強まれば、タリバン政権の政策が原理主義に戻ることもありえます。もしも、タリバン政府があくまで寛容政策を堅持すれば、内戦となる危険もあり、タリバン政府から「ISホラサン州」への政権交代が起きることも考えられるでしょう。 

 

 

29日、米軍のドローン空襲で破壊された家。米軍協力者の父親はじめ10人の家族が殺害された。

米軍は、テロに向かう「ISホラサン州」の車両を爆撃したと主張しているのだが【BBC】

 

 


29日の米軍ドローン空襲の犠牲者。この子供たちのほか、一家合計10人が死亡【BBC】

 

 

 

 

【タリバンに殺害されたアフガンの有名コメディアンとフォークロア・シンガー】――中央日報

 

『アフガニスタンを掌握したタリバン武装勢力は、女性だけでなく、音楽と笑いも禁圧し、徹底的に制御している。タリバンは1カ月前、有名コメディアンを殺害したのに続き、27日、アフガニスタン歌手のファワド・アンダラビさんを処刑した。

 29日、AP通信の報道によると、27日、カブールから北に100キロメートルほど離れたバグラーン州アンダラビ・バレーで、タリバン隊員が撃った銃弾により歌手のファワド・アンダラビさんが命を落とした。

 アンダラビさんはギジャーク(ghichak)という弦楽器を演奏しながら、祖国のアフガンと自身の故郷を誇らしく描写する歌を歌ってきた。

 先月は、イスラム原理主義基盤の武装集団タリバンがアフガニスタンの有名コメディアンのナザール・ムハンマド・カシャさんを自宅で逮捕し、車に乗せて連れ去る様子が公開された。映像には、カシャさんが2度にわたり平手打ちされるなど、辱めを受ける様子が映っている。カシャさんは拉致直後、残酷に殺害された。

 カシャさんはタリバン勢力のカブール掌握前の先月末、南部の都市カンダハルの自宅で拉致され、殺害された。映像の中で、カシャさんは車の後部座席で腕を縛られているように手を後ろで組み、銃で武装したタリバン武装集団の組織員2人の間に座らされている。タリバン武装勢力の1人が銃を持っており、1人は携帯電話を覗き込んでいる。カシャさんが何かについて説明しようとすると、携帯電話を見ていた男性が2度にわたりカシャさんの頬を平手打ちした。

 タリバンは、初めは処刑の事実を否定した。しかし、オンラインで動画が広まると、組織員達がタリバン所属なのは事実だと遅れて認めた。

 当時、カシャさんが木に縛られてぶら下がっている様子も公開され、衝撃を与えた。

 カシャさんはカンダハル地域の警察にも勤めたことがある。』

 

 

ナザール・ムハンマド・カシャさん。木に縛られている。[インターネット キャプチャー]【中央日報】

 

 

 

 

米軍撤退後、すぐにカブール空港に入り、残された設備を活用するタリバン戦闘員【BBC】
 

 

【処刑か? 人を空中に吊している……米国が残したブラックホークを飛行させたタリバン】――中央日報

 

 『アフガニスタンのカンダハル地方で米軍ヘリコプター「ブラックホーク」の試験飛行場面が30日(現地時間)確認された。アフガニスタン全域を占領したタリバンが、米軍が残していったヘリコプターを試験飛行させたとみられる。複数の映像と写真には正体不明の人物がヘリコプターに吊るされている場面もあった。

 ブッシュ政権で国家安全保障会議(NSC)中東および北アフリカ首席局長を務めた米シンクタンク「ハドソン研究所」のマイケル・ドーラン研究員は、ツイッターで、この映像について「タリバンは米国のヘリコプターを復讐殺人に使っている」とコメントした。「米連邦主義論叢」のカルマイン・サビア主筆も、「タリバンが、米国のブラックホークヘリコプターに米国人通訳を吊るしている」と主張した。

 ヘリコプターに吊るされた男性の正体はまだ確認されていない。

 米中央軍のケネス・マッケンジー司令官は画像ブリーフィングで「米国は地上に最後に駐留した時間に米軍の武器システムとその他の装備が作動しないよう防止措置を取った」と述べた。しかしタリバンがブラックホークを操縦している映像が公開されており、防止措置がまともに作動しているのかという疑問の声が出ている。』

 

 

正体不明の人物がヘリコプターに吊るされている

(映像 タリブタイムス//中央日報)

 

 

 

 

【CNNが公開した身の毛がよだつISインタビュー】――中央日報

 『CNNは、カブールがタリバンに陥落する数日前であり、今回のテロが発生する2週間前に、クラリッサ・ワード記者がIS-Kの指揮官とカブール現地で行ったインタビューを、27日(現地時間)公開した。前日である26日、IS-Kがカブール空港で行った自爆テロで米国13人を含む170人余りの命が奪われた。これに対しワード記者は指揮官のインタビューの内容が「身の毛のよだつような予言であることが明らかになった」と伝えた。

 ワード記者は「インタビューはカブールのホテルで行われ、この指揮官は、〔検問所を通過しカブールに入るのは、造作もないことだ〕と話した」と伝えた。自身をアブドゥル・ムニルと呼ぶよう要請したこの指揮官は、顔を隠す条件でインタビューに応じたという。

 IS-Kはタリバンに不満を抱いて離れた勢力で構成されていて、タリバンよりも暴力的なイスラム過激派を追従している。この指揮官もインタビューで「タリバンとは『信仰』の面で相容れずISに行った」と明らかにした。

 続いて「タリバンは泥棒の手を切り、姦通した者と殺人者を石で打って殺すなどのイスラム律法的処罰をしないでいる」とし「われわれはただイスラム律法だけを施行し、これに関連してわれわれと良く付き合えば兄弟で、そうでなければタリバンであろうと誰であろうとわれわれは戦争を宣言する」と話した。

 「公開処刑や自殺爆弾テロに参加したことがあるか」というワード記者の質問にムニル氏は「私がそのような現場にいた記憶は非常に多い」として残酷さを隠さなかった。ムニル氏は「タリバンとの戦闘中に5人を捕まえたが、われわれの戦士は非常に興奮し、彼らを斧で殺したこともある」と伝えた。

 タリバンがアフガンを占領した中で、アフガンの主導権をめぐる2つの勢力の争いはより一層激しさを増すだろうという展望も出ている。

 ワード記者は指揮官に「究極的に国際的な攻撃を敢行するのに関心はあるか」と尋ねた。

 ムニル氏は、米軍撤収を通じて彼らが過去にシリアとイラクに立てた「カリフ国家(イスラムの宗教・政治が一致する国家)」を再建することができることを希望すると表明した。』

 

 


「ISホラサン州」はアフガニスタン東部ナンガルハール州が拠点。

パキスタンとの麻薬密輸や密入国ルートに近い【BBC】

 

 

 

 

【追記】

『ペシャワール会』からの現地情報↓があったので、追加して

貼り付けます。各国のニュース・メディアの煽情的な報道とは違って、

現地の一般的状況は平穏なようです。現地に根を下ろして

活動している日本人と協力者には、今のところ危害はない

とのことで、ひと安心しました。

 

 

 

 

『8月15日カブールの無血開城の報道は、あまりにも急な事態の変化で戸惑われる方も多かったのではないでしょうか。急な変化で一時、無政府状態となりましたのでPMS〔Peace Japan Medical Service〕と打ち合わせて、8月15日より医療・農業・用水路事業の休止を決定しました。多くのPMS職員はそれぞれの自宅に家族と留まり注意深く推移を見ていました。

 その後は現地スタッフ全員の安全が確認され、周辺での治安上の問題はありませんでした。

 カブールもジャララバードも静かで、8月21日ごろにはバザールが日常化してきました。

 一般的な治安は保たれ、政変が起きる際に繰り返して見られた略奪や混乱はありませんでした。カブール空港は人が集まり混乱がみられていますが、出国を待つ人々だけでなく職を求める人々なども多く混じっているようです。

 
前回1990年代にタリバン支配下でも中村哲先生は事業を継続しており、農村部では治安が改善して事業を進める上では支障がないばかりか、安全であったと述べられています。

 
内戦は、同じアフガニスタン人同士が戦い、凄惨を極めるもので、当時のペシャワール会報にも中村哲先生が報告をされています。それをイスラム法の支配というアフガニスタンの伝統的な価値観でまとめて政権を取ったのがタリバンでした。

 今回は、ガニ大統領がタリバンの攻勢を前にカブールの無血開城を選択しました。多くの批判がありますが、「戦闘を回避した」決断は大きく評価してよいと思います。

 憎しみの連鎖が生まれて国が荒れ果てる、その戦争の歴史を、アフガニスタンの人々は40年以上経験し続けてきました。

 中村哲先生は、「タリバンを復古運動体と考えるなら、軍事力で潰せるものではない。誰が政権を担う場合でもアフガン人自身の政権であることが重要」と述べていました。

 アフガニスタンを舞台に大国や周辺国が代理戦争をしていることが不幸の始まり、と考えるアフガニスタンの人々も多くいます。

 20年ぶりのタリバン政権ですが、中村哲先生がこれまでそうされていたように、  

 

 「水が善人・悪人を区別しないように、誰とでも協力し、世界がどうなろうと、他所に逃れようのない人々が人間らしく生きられるよう、ここで力を尽くします。内外で暗い争いが頻発する今でこそ、この灯りを絶やしてはならぬと思います。」 

 

  との言葉を胸に、現地の事業を続けてまいります。』

 

 

 

 〔8月15日頃、タリバンのカブール入城のニュースが伝えられた時、強く印象に残ったのは、タリバン戦闘員の服装も表情もきれいで色つやが良いことでした。それは、空港に集まった避難民のやつれた姿と対照的でした。地下活動をしてきたとか、ゲリラ戦を続けてきたとは思えない姿だったのです。タリバンは、農村に相当しっかりした根拠地を持っている。都会では恐れられているかもしれないが、古い習俗や道徳が残っている農村では、タリバンのイスラム主義も、案外支持されているのではないか、という気がしたのです。

 

 とはいえ、各国のマスコミが伝えるタリバン警備部隊(おそらく「ハッカーニ・ネットワーク」)の残虐行為や恐怖統制が、事実としてあることに変わりはありません。冒頭に「基底的な政治構造」として書いた試論は維持しつつ、今後の情勢の推移を見守りたいと思います――ギトン〕

 

 

 

 

 

 よかったらギトンのブログへ⇒:
ギトンのあ~いえばこーゆー記

 こちらは自撮り写真帖⇒:
ギトンの Galerie de Tableau

 

 


26日の空港ゲートの自爆テロ。犠牲者の死体を探す遺族ら。ISの自爆テロではなく、

その直後の米軍の銃撃で殺されたと皆が言う。

カブールの死体安置所にて【BBC】