【ハイテク産業の成長】
ここ数十年のハイテク産業の急成長に繰らべると、他の産業は成長はしているものの、かなり遅いものに感じてしまうことがあります。
ではなぜ、ハイテク産業はここまで急成長を遂げ、他の多くの分野はそこまでの成長を達成することができなかったのでしょう。
その一つにコンピューターチップの特性があります。
【ムーアの法則】
「ムーアの法則」という言葉を耳にしたことがある方は多いかと思います。
1965年にゴードン・ムーアが述べた予言で、マイクロプロセッサの性能は2年毎に倍になるというものでしした。
今では多くの方がご存知の通り、この予言は適格でした。
コンピューターとソフトウエア産業がこれだけの急成長を遂げたのは、この「ムーアの法則」によるところが大きく、
①プロセッサの性能が上がる。
②より良いソフトウェアを作る事ができるようになる。
③それによって、コンピューターの需要が高まる。
そうすると、ソフトウェア企業は引き続き更によいソフトを作ろうとするし、
ハードウェア企業もより性能を高めようと努力しつつ、コンピューターの販売に力をいれる。
こうした好循環が、世界にコンピューターを広めていきました。
【50年で100万倍高性能に】
ムーアの法則が成り立っているのは、トランジスタをどんどん小さくする新手法を各企業が編み出し続けているからです。
そうすることで、一つ一つのチップにより多くのトランジスタを詰め込むことができるようになります。
1970年につくられたコンピューターチップの約100万倍のトランジスタが現在のチップには組み込まれています。
ハイテク産業を支える土台が、およそ50年で約100万倍高性能となったわけです。
これは急成長したのにも納得ができますね。
【ムーアの法則は他の分野では成立しない】
一方で、この「ムーアの法則」や「ハイテク産業の成長」を例に出し、他の産業や分野でも急激な進歩が可能だという主張をよく耳にします。
私は割と人類の未来には楽観的なので、成長すると思いますし、悲観していませんが、
ここ数十年程のハイテク産業ほどの急成長は望めない、維持できないのではないかと考えています。
例えば、自動車。
自動車を100万分の1の量のガソリンで走らせるブレークスルーは存在しません。
1908年につくられた名車フォードのモデルTは、1ガロン(3.8ℓ)で34キロ走る事が可能でした。
現在のハイブリット車は、1ガロンで93キロ程度は知る事ができます。
走行距離は約3倍に増えているとはいえ、100年以上かけて3倍なのです。
ソーラーパネルも近年改善されてきているとされる分野の一つです。
1970年代は受け取った太陽光の15%しか電気に変えることのできなかった、ソーラーパネルですが、今では25%程は電気に変えることができるようになりました。
それでも数十年かけて10%です。
誤解しないで欲しいのは、
自動車にしろ、ソーラーパネルにしろ素晴らしい技術的な成長を遂げてきてはいます。
ただ、それでもムーアの法則(50年で100万倍)には程遠いという事です。
今回私が言いたかったことの一つ目がここで、
コンピュータ産業の成功、成長スピードを他の分野に安易に求めてはいけない。という事です。
【※注 投資家リターンは企業の成長だけでは決まらない】
なお、これらの話はコンピューター産業に投資するのがよい、他の分野への投資がダメと言っているのではありません。
株式のリターンは、企業そのものの成長だけではなく、期待やバリュエーションによっても、左右されます。
ハイテク産業は高い期待とバリュエーションを正当化するために、高い成長を維持していかなければなりません。
それは簡単なことではありません。過去記事
【衝撃の事実】全ての成熟した米国大企業の成長は止まっている
【まとめ・感想】
投資に関する宣伝広告・情報媒体の中には、
何でもかんでも「イノベーションが起る」「急成長する」と煽る記事もありますが、
そもそも、
①その分野においてイノベーションや急成長が起きるとは限らないし、
②起きたとしてもそれが利益に繋がるかもわかりません。
③利益が出たとしても、市場のベンチ―マークを上回るペースでその企業が成長できるとは限りません。
特に初心者の方は、変な記事や投資商品、煽り文句に騙されないためにも、
イノベーションや急成長が株主の利益になるとは限らない。
ということを覚えておくといいでしょう。
世界の様々なイノベーションの過程で起きた出来事はこちらの本に良くまとまってるので、
興味がある方や、逆にイノベーションに過度な期待をしている方は一読してみると良いと思います。
オススメ書籍「人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する」
イノベーションは消費者や世界に大きな恩恵を与えるものの、
意外とイノベーション自身には利益をもたらさないパターンも多くあります。
また、別の複数のグループが同時にほぼ同じイノベーションにたどり着いて競争になったり、規制だったり、後にちょっとだけ改善された商品の方が普及したりもします。
少し話を戻すと、
逆に一つのチップにたくさんトランジスタを詰め込む方法を考える事によって、
イノベーションを促せるコンピューターチップが例外的な分野だと思います。
他の分野において、このようなブレークスルーの方法、比較的シンプルな解決方法はなかなかありません。
そして、ここの分野でも競争により多くの企業が淘汰されてきました。
初心者の方は魅力的なストーリー、誰かの語る夢物語ばかりに目がいって、数字や現実がおざなりになってしまうケースがよくあります。
自分のお金を投じるわけですから、その根拠は理想や妄想やセクシーさに基づくものではなく、ある程度現実的なものでなくてはいけません。
そんなに魅力的な話なら世界中の銀行が底に融資し、世界中の投資家が群がるはずです。
しかし、新しいテーマ型ファンドやETFの多くはそうなっていません。
夢のイノベーションや技術に期待するのも良いですが、
投資で儲けたいのであれば、現実的な視点や客観性を失わないように心掛けていきましょう。
お読みいただきありがとうございました。
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