※ 司法試験考査委員(労働法)

※ YouTubeで3分解説!

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今日の労働判例

【国・中労委(セブン・イレブン・ジャパン)事件】(東京地判R4.6.6労判1271.5)

 

この事案は、セブンイレブン店舗の経営者たちXらが、自分たちは労働者であるとして、セブンイレブンに対して労使交渉を求めたところ、それが拒絶されたので、これが不当労働行為に該当するとして労働委員会に救済命令(労使交渉に応じる旨の命令)を求めた事案です。都労委は不当労働行為と認定しました(Xらが労働者であると認定しました)が、中労委Yは認定しませんでした。そこでXは、裁判所でYの判断を争いましたが、裁判所もYの判断を維持しました。

 

1.労働者性と経営者性

 ここでは、労組法での労働者にXらが該当するかどうかが主要な論点です(労働者性)。

 ここで特に注目されるのは、労組法上の労働者性の判断枠組みと、実際にその判断枠組みを使って判断している内容です。

 まず、判断枠組みとしては、①事業組織への組入れ、事業の依頼に応ずべき関係、②報酬の労務対価性、③契約内容の一方的・定型的決定、④時間的場所的拘束、指揮命令関係、⑤独立した事業者としての実態、の5つが示されました。特に①⑤が、事業主(加盟店の経営者)を対象としている本事案の特徴と言えるでしょう。事案に即した判断枠組みを事案ごとに柔軟に設定する、というオーダーメードのような判断枠組みを設定する最近の裁判例の傾向がここでも表れています。

 けれども特に注目されるのは、⑤について、さらに詳細な判断枠組み(❶加盟店の損益の帰属等、❷加盟者の経営判断、❸加盟者自身の稼働状況)が設定され、しかも①~④より先に、再願書の判断の冒頭で検討されている点です。ここでの判断枠組みは、実際にそこで検討されている事情を見ると確認できるとおり、「労働者性」というよりも「経営者性」があるかどうかを検証するものです。独立した事業主体として責任を負う立場にあるかどうか、という点が検証されているからです。

 このように、本事案では「労働者性」に対立する概念として「経営者性」を設定し、その「経営者性」を「労働者性」に先立って詳細に検討し、「経営者性」が相当程度高いことを認定したうえで(⑤)、①~⑤の総合的な評価を行っています。

 労働者性の判断は、拘束性や指揮命令など、労働者として強制するような要素がどの程度多く認められるのか、という単線的・絶対的な評価がされる場合があります。すなわち、使用者と目される側が、指示や命令を出せ、労働者と目される側が、それを拒めない、という要素がどれだけ多くあるのか、という点を特に重視して労働者性を評価する立場があります(絶対的評価)。

 けれども、独立した事業者であっても、契約上の義務や取引上の必要性から、取引先による拘束や指示を受けることがあります。例えば、納期を守れそうにない状況になったとき、会社の部下のような労働契約上の関係がある場合だけでなく、完全に独立した取引先であったとしても納期を守れるのかどうか、進捗状況の報告や遅れた場合の対策などの報告を求められるでしょう(仮に、契約上の明確な義務でなくても信義則上の付随義務などとして、報告要求に応じる必要があるでしょう)。そうなると、特に後者のような事情ばかりたくさん集めて、強制の要素が沢山ある、という状況になったとしても、「労働者性」を認めるわけにはいきません。

 つまり、「労働者性」は、拘束性や指揮命令などの強制の要素だけで絶対的な評価をするのではなく、例えば「経営者性」のように、労働者性が否定されるとした場合の関係性(本事案では「経営者」ですが、「役員」や「家族」等もあるでしょう)の程度との比較による相対的な評価が行われるべきなのです(相対的評価)。

 そして、本判決が示した上記のような判断枠組みやその特徴は、労働者性の評価は「事業者性」と対比して行われる相対的評価であることを明確に示しているように思われるのです。

 

2.実務上のポイント

 このような相対的な評価方法は、「労働者性」が広く認められる労組法固有の評価方法である、という見方(つまり、労基法や労契法には適用されない、という見方)もあり得ます。すなわち、労働条件について団結して交渉することで改善される余地があれば、労働者性が認められるのですから、本事案のように、事業者に近い人たちの「労働者性」が問題になり、そのために労組法の場合だけ労働者性と事業者性の相対評価が必要になる、という評価もあり得るでしょう。

 けれども、労基法や労契法の場合にも、例えば個人事業主が会社にずっと常駐していることが問題になるなど、「経営者性」が問題になることがあります。労組法との違いは、質的に大きく異なるものではなく、量的に異なる程度の問題にすぎません。

 むしろ、強制の要素の積み重ねだけで絶対的に評価してしまうと、かえって実態を見誤る危険があるという点では、労基法や労契法の場合も同じです。

 したがって、労基法や労契法での「労働者性」についても、相対的評価がなされるべきであり、その意味で本事案は、相対的な評価をする場合の着目点や判断枠組みの設定方法について参考になる、と評価できます。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!