絵本『黄色い星』感想。イラストは美麗だが構成にモヤモヤが残る | あとりえ極星堂

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絵本『黄色い星』感想。イラストは美麗だが構成にモヤモヤが残る

2024年2月16日(金)追記!

久しぶりにこのブログ記事を読み返しました。
あまりにえらそーに講釈を垂れていて衝撃的でした……。
率直な感想ではあるんです。
しかし、この記事をこのままネットの海に垂れ流していることには迷いがあります!
削除か書き直しを検討中です……

いくらシナリオ制作を学んだといっても絵本制作は門外漢なのです。
絵本の書き方についてあーだこーだというべきではありませんでした。反省しています。

第二次世界大戦中のデンマークを舞台にした絵本『黄色い星』を読みました。

そこで、(同人ではあるが)漫画描きのわたしが抱いた率直な感想を書いてみたいと思います。

絵本『黄色い星』にレビューでよくある「星」をつけるなら、総合的には星4つくらいです。

大人であるわたしのものとして考えるなら大満足☆ です。
子供のために買うなら注意が必要で、わたしとしてはモヤモヤが残りました。
理由は、物語を理解したくても本編のページだけでは中途半端に終わるからです。

絵本のシナリオには【絵本の本編だけで完結すること】をわたしは求めています。
ストーリーだけで完結せずに解説文を読むことが必要なつくりは、絵本には求めていません。

その点、絵本『黄色い星』は本編だけでは「えっ、ここで終わり?」な部分で終わってしまいます。

絵はめちゃくちゃ美麗なので、大人の方が画集として買うのはアリですよ!
ただ、子供向けとして買うなら【本編だけでは完結しないこと】に留意する必要があります。

資料本としては「第二次世界大戦中のデンマークがナチスドイツのユダヤ人政策にどのような対応をしたのか」――これが知りたい人には文句なしにおすすめです。
子供向けコンテンツである絵本ですから、大人が資料として読む分にはわかりやすさピカイチですよ!

ホロコーストの嵐が吹き荒れる中、ユダヤ人を助けようと動いた国があったことについて知りたい人も、絵本『黄色い星』をぜひ読んでみてください。

絵本『黄色い星』と映画『黄色い星の子供たち』はタイトルがとても似ていますが、まったく別の作品です。
舞台となっている国からして違います。
絵本『黄色い星』はデンマーク、映画『黄色い星の子供たち』はフランスが舞台です。

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絵本『黄色い星』は本編後の解説を読んで理解しないと完結しないつくり

絵本『黄色い星』は本編だけではスッキリと完結しません。

本編後の解説文を読まないとストーリーの詳細、中途半端に終わる本編のその後を理解・想像することができないのです。
絵本の本編ストーリーそのものは不完全燃焼で終わります。

そこを踏まえて、絵本『黄色い星』が理解できるのはきっと小学生以上のお子さんでしょう。
未就学児には間違いなくきついです。

お子さんが小学生以上で親子で読みあって話し合うことを前提に買うならアリだと思います。

本編だけでは「えっ、ここで終わりなの?」という箇所でエンディングを迎えます。
「むしろここから物語が始まるのでは?」と思う人もいるかもしれません。

で、そのモヤモヤを解消するために巻末にある解説文を読むことが必要なのです。

そして絵本のそういうつくりそのものにまたモヤモヤするという……(わたしのこと!)

本編後にある作者と訳者による解説ページを読める大人は、シナリオを自分自身の力で理解することもできるでしょう。

解説文には丁寧にルビが振ってあります。
活字を読むことに苦手意識のない、小学生以上のお子さんならひとりでも読めます。
ただ、未就学児や、本編だけでストーリーを理解したい方には不向きです。

親子で読んで学ぶ、親子で読んで話し合うための題材として取り入れるのがよいでしょう。

またはこの題材を知りたい大人に適切です。
文章や展開、つくりは子供向けなので、ふだん本を読みなれない人にもすぐに理解できます。
第二次世界大戦中のヨーロッパ(デンマーク)を知りたい大人の入門編に適しています。

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絵本『黄色い星』のストーリーと解説文はどんな感じ?

絵本『黄色い星』のあらすじ(ストーリー)とは

表紙カバー裏記載のあらすじ

第二次世界大戦のころ、
ヨーロッパでは
日に日にナチスドイツの勢力が増し、
ドイツの北に位置する
デンマークの国でも、人びとに
暗い影を落としていました。

「ユダヤ人は、全員黄色い星を
つけなければならない」
ナチスの命令がくだったとき、

デンマークの国王、
そして人びとはどうしたでしょうか。

デンマーク国王
クリスチャン10世の
エピソードからつくられた物語。
差別やいじめなど、
今のわたしたちの身近な問題にも
つながる一冊です。

カーメン・アグラ・ディーディ著、那須田 淳 訳[2021]『黄色い星 ユダヤ人を守った国王とデンマークの人たちの物語』表紙カバー裏

どのようなストーリーなのか具体的にいうと……※ネタバレなし

デンマーク王国の国王クリスチャン10世の日課は、馬に乗って街を散歩すること。
このとき護衛をつけずに、間近で民の生活を知るのが彼のポリシー。

いろんな人々が国王を中心にして仲よく住んでいるデンマーク王国。
そんな平和な国にあるとき訪れた暗雲。
それはナチスドイツの侵略だった。

ナチスドイツに占領されたデンマーク王国の宮殿では国旗が降ろされ、代わりに鉤十字の旗が掲げられてしまう。
恐怖の日々の中、国民は「われわれには陛下がいるじゃないか」とクリスチャン10世に期待を寄せる。

いっぽうナチスドイツはデンマーク王国に居住するユダヤ人たちに「おのれがユダヤ人だと示すための『黄色い星』を身につけよ」と命じる。

『黄色い星』をつけさせられたユダヤ人たちの行先はいったい……?

自国の民を守るため、国王クリスチャン10世は決断する。
深夜にお抱えの仕立て屋を呼び出し、彼がとった行動とは?

自分で書きながらワクワクするくらいあらすじ映えするストーリーですね……!
ところがエンディングはスッキリしないところで終わります……

絵本『黄色い星』の解説文とは

ヘンリー・ソレンセンさんの絵画にも匹敵するイラストも相まって、思わず映画にしてほしくなる絵本『黄色い星』のストーリー。

ところが絵本自体はスッキリしないところでストーリーが終わってしまいます。
この”スッキリしない”を解消するためには、解説文を読まねばなりません。
むしろ、スッキリしたくて自然に解説文を読みたくなります。

解説文は作者のカーメン・アグラ・ディーディ(Carmen Agra Deedy)さんと訳者の那須田 淳(なすだ じゅん)さんがそれぞれ書かれています。
ディーディさんと那須田さんともに1ページずつ、びっしり読み応えあるものを書いてくださっていますよ!

とくにディーディさんの解説文から読み取れることはストーリーの理解に欠かせないものが多いです。

  • デンマーク王国のクリスチャン10世の『黄色い星』の話は伝説であること(=史実では確認できていない)
  • ディーディさんは『黄色い星』が史実なのかどうか相当調べたらしいが、とうとう史実だと断定できなかった
  • ただしデンマーク王国のユダヤ人は多くの人が助かっている
  • デンマーク王国はユダヤ人を救うための働きかけをたくさんおこなっていた

などなど、史実から『黄色い星』ストーリーにアプローチした内容になっています。

那須田さんの解説文も参考になります。
史実の記載よりは「この絵本のテーマはこのようなことです」という、主題の解釈について方向づける内容です。

絵本本編の理解のためには、作者のディーディさんによる解説を重点的に読んだほうがいいでしょう。

解説文の文字サイズはだいたい一般的な児童書、童話くらいです。
ページにびっしり文字が詰まっていて、挿絵はありません。
ただしルビは丁寧に振ってあります。
見たときに「うわっ! 文字ばっかり」と気持ちが引かなければ、活字アレルギーではない小学生以上のお子さんには読めるでしょう。

……つくりとしては、絵本のフォントサイズから判断できる対象年齢よりも、解説文の対象年齢のほうが上になっているのです。

解説文が読めないお子さんには、親が読んで説明してあげるしかないでしょうね。

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絵本『黄色い星』を読んだのはデンマーク王国でのユダヤ人の運命を知るため

わたしが絵本『黄色い星』を手に取ったのは、美麗な絵で惹きつけられたことがまず第一です。

その次に「読むぞ!」と決めたのは、第二次世界大戦中のデンマーク王国でユダヤ人たちがどのような運命をたどったのか知りたいと思ったからです。

第二次世界大戦中のユダヤ人の運命といえば「ナチスによって強制収容所に連行されていく」……このイメージが大きいと思います。

おおもと、ほとんどはそのとおりです。

が、国によってユダヤ人をめぐる対応・事件などがいろいろありました。
「ユダヤ人はみんな強制収容所に連れていかれました」、そんな一言だけでは片づけられないほどの出来事がたくさんあったのです。

具体例を少しあげると以下のとおりです。

  • ポーランドにて『ワルシャワ・ゲットー蜂起(1943年)』
    第二次世界大戦中の1943年4月~5月、ワルシャワ・ゲットーのユダヤ人レジスタンスたちがナチスドイツに起こした武装蜂起。
    ワルシャワ・ゲットーの住民のユダヤ人たちは必死に抵抗したが、けっきょくは鎮圧されてしまう。
    ワルシャワ・ゲットーは解体。
  • リトアニアにて『6000人の命のビザ(1940年)』
    ドイツ占領下のポーランドから逃亡してきたユダヤ人たちに、在リトアニア日本領事館の外交官 杉原千畝 が独断で通過ビザを発行。
    のちにイスラエルから称号『諸国民の中の正義の人(正義の異邦人)』を受章。
  • リトアニアにてユダヤ人のホロコースト。
    ナチス占領下、ドイツ当局がユダヤ人ジェノサイドを指示。リトアニア人協力者がその計画にしたがった。
    ※リトアニアはこのときすでに反ソ連です。だからといってホロコーストについての擁護はできませんが……
  • ベルギー王国の王妃エリザベート・ド・バヴィエールの行動。
    1940年~1944年までナチス占領下だったベルギーで、強制収容所送りになるはずだったユダヤ人の子供たち約100人を救う。
    のちにイスラエルから称号『諸国民の中の正義の人(正義の異邦人)』を受章。
  • ローマ教皇ピウス12世の活動。
    第二次世界大戦中のローマ教皇。表立ってナチスドイツを批判しなかったが、いっぽうでユダヤ人を積極的にかくまった。
    1943年に枢軸国イタリアが降伏してドイツ軍がローマを占領したときなど、多くのユダヤ人にバチカンの市民権を与えた。
    これにしたがい、カトリックの修道院や学校がユダヤ人をかくまうことに協力。
    のちにイスラエルから称号『諸国民の中の正義の人(正義の異邦人)』を受章。

このようなエピソードを知るためとして、『黄色い星』を読むことにしました。

史実を知るためのものとして、絵本『黄色い星』は必要十分でした!
解説文も丁寧ですし、その点では申し分ありません。
第二次世界大戦中のデンマーク王国でのユダヤ人対応を知るため、という目的は果たされたといえます。

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絵本『黄色い星』の物語(シナリオ)は本編だけでは不完全燃焼気味なのが難点

解説文を読むことが前提のシナリオづくりの是非

シナリオについては、もうテーマがテーマなだけに本当にいいづらいのですが、絵本として不完全な印象です。

本編は「ここで終わるの!?」という感じの不完全燃焼な部分で中途半端に終わります。

史実と伝説をもとにした物語なので仕方がないことではあるのですが……。
そういった事情をいっさい考慮せずに一本のシナリオとして見ると、なんだかもったいない気がするのは否めないです。

本編のあとの解説(※大人~小学生向けの小さめの文字のもの)を読めば時代背景、その後の展開、このお話のモデルになった伝説のことなど、すべてのことが理解できます。
が、少し年かさの人向けのページを読んだうえでの理解が前提となると、それは子供向けの絵本のシナリオとしては不完全なのでは? というのがわたしの率直な印象です。

読み聞かせをしてあげる親が解説文を読み込んだうえで子供に教えてあげたり、話し合いましょう~というコンセプトなのかもしれませんが……。
すべての子供たちみんながみんな、保護者にそこまでしてもらえるかどうかなんてわからないですし……。

それこそ、テーマがテーマなだけに、より広い子供たちに簡単に理解できるようにつくったほうがよかったんじゃないかな? と生意気ながら思いました。

わたしならどう描くか僭越ながら考えてみました※ネタバレあり

史実と伝説をもとにした物語ということなので、わたしならいっそのこと、史実と伝説をもとにしたフィクションにしてしまいます。
調べてわかったエピソードと史実を組み合わせて自分なりに肉づけし、一本のシナリオにします。
伝説というものが、そもそもドキュメンタリーよりはフィクションに近いものですし。
読み手がすっきりすること、一本のシナリオとして美しいかたちにすることをわたしは優先します。

物語の最後ではデンマーク王国の解放について触れたいです。
だって占領されたままで終わるってそりゃないでしょ……。
少々のフィクションもしくは強引なナレーション挿入でもいいから、なんとかして「こうしてデンマーク王国は解放されました」のひとことを入れたいですね。

むしろ、本来の絵本『黄色い星』のエンディング部分から物語が始まる……、それがわたしの考え方です。
ただ、これだとページ数が収まらないと思うので、せめてナレーションで簡単にでもいいから、デンマーク王国解放について触れたいところです。

ただ、史実と伝説をもとにしたフィクションとして一本のシナリオにすると必然的にページが増えるんですよね。
仕立て屋を呼んで国王クリスチャン10世が決断するあたりをオープニングとして考えるなら、絵本のページ数では話がまとまらないことは必至!
絵本ではなくて児童書(児童向け小説)にするしかないかも……

「デンマーク王国はこのようにして解放されました」のナレーションを強引にでも入れる、のが絵本としてはけっきょくベターなのかなあ。

絵本『黄色い星』本編では、デンマーク王国がいつナチスドイツから解放されたのかは書かれていません。
占領状態でエンディングを迎えます!

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絵本『黄色い星』は絵(イラスト)がとても美麗!

この絵本を見て圧倒されるのは、まずは絵!! っていうくらいすばらしいです!!
ものすごい美麗で超画力の絵画で、画集といっても差し支えないほどです。
末弥純先生や山田章博先生、ライエンデッカー氏のイラストが好きな人はきっとハマると思います。

『黄色い星』の絵を描いていらっしゃるのは、ヘンリー・ソレンセン(Henri Sørensen)さん。
ソレンセンさんのイラストレーションは絵画といってもいいくらいで、重厚感のある美しさが作品世界にさらなるリアリティを与えています。

日本語のカタカナでお名前を検索しても、作品はあまり出てきません。
【Henri Sorensen】と英語で検索すると、ソレンセンさんの『黄色い星』以外の作品も見られます。

ソレンセン(Sørensen)さんの『o』は『ø』と書くのが正しいですが、検索するにあたっては『o』と表記したほうがよりたくさんの作品が出てきます。

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絵本『黄色い星』はユダヤ人についての救いを知りたい人に読んでほしい

「ユダヤ人を助けようとした人はいなかったのか?」――それを知りたい人にこそ絵本『黄色い星』を読んでほしいです。

「第二次世界大戦下のユダヤ人」と聞くと、まずナチスドイツによる民族弾圧を通り越した民族浄化政策が頭をよぎると思います。
もうとにかく残酷でひどすぎることばかりで、いまだに読めない著作がわたしにも数おおくあります……。

「ユダヤ人を助けようとした人はだれもいなかったの?」と、ホロコーストを調べれば調べるほど、人間そのものの闇に絶望せずにはいられないんですよね。
そしてその闇のひとつひとつがあまりに邪悪かつ残酷で、知れば知るほどおぞましいのです。

けれど同時に、人間には希望の部分もあるのですよね。

みずからも強制収容所に入れられた経験のあるユダヤ人精神科医・心理学者フランクルは著書『夜と霧』で以下のように述べています。

わたしたちは、おそらくこれまでのどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。
では、この人間とはなにものか。
人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。
人間とは、ガス室を発明した存在だ。
しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。

ヴィクトール・E・フランクル[2002]『夜と霧 新版』

そう、ガス室を発明してそれを操るのも人間、その中で最期の祈りをささげるのもまた人間なのです。

また、戦後に建国されたユダヤ人の国イスラエルでは、称号『諸国民の中の正義の人(正義の異邦人)』があります。
これは、ナチスドイツによるホロコーストからユダヤ人を救おうとした人々に贈られる称号です。

『6000人の命のビザ』で有名な日本人 杉原千畝さんも受章されています!

で、この称号『諸国民の中の正義の人』は、われわれがなんとなく想像しているだろう数よりも多くの方々が受章しています。

わたしは、杉原千畝さんのほかには10人もいらっしゃらないイメージでした……

日本人の受章者は、かつて在リトアニア日本領事館 領事代理だった杉原千畝さんただひとりです。

しかしたとえばポーランドでは6992人、オランダでは5778人、ドイツにも627人の受章者がいらっしゃいます……!

ユダヤ人の方々の悲劇を軽視するつもりはありません。
日本だけでなく受章者1名の国々は多いですし、もちろん受章者なしの国(=ユダヤ人を助けようとした人がいなかった国)もたくさんあります。

それでも、2019年1月1日付の累計では【27,362】点の称号が授与されています。

これは人類の希望を意味しているはずです。

あの想像を絶するほどの絶望の中、ユダヤ人を救おうと行動した人が【27,362人いた】証なのですから!

デンマークでは22人の方が『諸国民の中の正義の人』を受章されています。

ドイツ占領下のデンマークでは、ナチスに抵抗するレジスタンス運動が展開されました。
このメンバーについては『デンマークレジスタンス運動(Danish resistance movement)』として、称号はひとつのみ授与されているようです。

わたしが調べた限りでは絵本『黄色い星』の主人公クリスチャン10世は称号『諸国民の中の正義の人』を受章されていないようです。

この事実からも絵本『黄色い星』のストーリーはやはり史実ではなく伝説なのかなあ……と思ってしまいますね。

それでも「ユダヤ人を助けようとした人がいた」――人間の救いを知りたい人には絵本『黄色い星』を読んでみてほしいです。

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漫画描きが考えるよい絵本、よいシナリオとは※エンターテインメント作品の場合

ちょっと話がそれるように思われるかもしれませんが、絵本『黄色い星』についていま感想を述べているわたしの「基準」なのでここで書かせてもらいますね。

まず、わたしの専門はエンタメ作品です。
エンタメ作品=多くの人に向けた作品、大衆向けです。
それを前提として「よいシナリオ」とはこれに尽きます。

本編だけでストーリーを理解できること。

解説やらガイドブックが必須のストーリーは難あり、不完全であると、長年シナリオを描いているわたしとしては考えています。

絵本なら絵本の本編だけでストーリーが理解できるようにつくるほうがいいですし、小説ならば挿絵なしで読み手にじゅうぶん伝えられる描写にしたほうがいいでしょう。
だって、アニメや映画を観ながら攻略本が必要だなんてシチュエーションはおかしくないでしょうか……。

そのまま本編を見て満足に楽しめる作品。
ガイドブックを見るとさらに世界観を理解できて、満足が大満足にアップデートされる作品。
それが理想です。

いっときスクウェア・エニックスから発売されていた一部のゲームでは、シナリオを完全に理解するためには『アルティマニア』と呼ばれる攻略本が必須ともいえました。
難解ストーリーは厨二心がくすぐられて楽しいのですが、多くの人に向けた作品としては難ありだなー、よくないなーと思います。
『クロノクロス』とか大好きですけど!(唐突)

『クロノクロス』とは?
⇒『クロノトリガー』の続編としてつくられた、1999年初出のRPG(当時スクウェアから発売)。パラレルワールドがテーマ。とにかくシナリオが難解。

伝えたい何かがあるから物語をつくっているのだろうに、「わけがわからないよ」といわれて読み手を自分で振るい落として減らしてしまっては意味がないですよね。

”伝えたい何か”は「愛は地球を救う」「環境破壊はダメ絶対」「戦争反対」のようなシリアスなものとは限りません。
「こういう男性ってカッコイイよね」「告白ってドキドキするよね」「異世界転生して楽しく暮らしたい」など、大衆向けのものも存分に含みます。
ようは物語に一本通っている”芯”のようなものです。

わたしはエンタメ作品が専門なので、このように考えています。
多くの人にわかりやすく、悩まずに理解できるように表現するほうがよい、と。
文学作品には文学作品の考え方があることはわかっています。
ですから「この世の物語作品は全部が全部こうすべき!!」なんてゴーマンなことは決していいませんよ……!

だとすると、絵本は娯楽なのかエンターテインメントなのか? という疑問もわきますが、それ自体は大した問題ではありません。

絵本には、絵本の本編内のみでストーリーに決着をつけてほしいです。

絵本はおおくの人にメッセージを届けるための媒体です。
それ以上でもそれ以下でもないのです。
読者にはいろんな事情を抱えた子供たちが含まれるでしょう。
難解にして読者を振るい落とすべきではありません。

ミニシアター向きであったり、考察が必要な文学作品、道徳作品のような、一種の”上級者向け”だったり”討論前提”の作品があることは理解しています。
ただ、(対象年齢内の)たくさんの子供たちが理解できるようにする観点で考えるなら、上級者向けの仕上げよりも「できるだけわかりやすくする」ことを重視して制作するほうがいいですよね。

これを前提にして、絵本『黄色い星』の感想を述べました。

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絵本『黄色い星』の出版データ

タイトル黄色い星 ユダヤ人を守った国王とデンマークの人たちの物語
原題The Yellow Star – The Legend of King Christian X of Denmark
作者カーメン・アグラ・ディーディ(Carmen Agra Deedy)
イラストレーターヘンリー・ソレンセン(Henri Sørensen)
訳者那須田 淳(なすだ じゅん)
出版社BL出版
日本語版発売日2021年11月1日 第一刷発行(※原語版は2000年に発売されています)
価格本体1600円+税
ページ数32ページ
国際標準図書番号ISBN978-4-7764-1019-5
日本図書コードC8798
図書コードから読み取れること児童(子供)向け、絵本、外国文学
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けっきょく、絵本『黄色い星』は買い?

子供向けというより、母親のわたしが自分用に画集および資料として所有したい絵本です!!

絵が好きな人、ヘンリー・ソレンセンさんの絵画イラストがツボにはまる人はぜひ画集として所有しましょう。

あと、第二次世界大戦中のデンマークがナチスドイツの占領下でユダヤ人にどのような対応をしたのかが知りたい方もチェックしてみてください。
もとは子供向けの絵本ですから、大人にはとてもわかりやすいです!

結論をまとめると以下のとおりです。

  • 絵本『黄色い星』は解説文を読まないと本編を完全には理解できないつくりになっているのが難点。
  • 絵本のストーリーそのものは不完全燃焼。
    「ここで終わり!?」な箇所でエンディングを迎えることにモヤモヤする。
  • 絵はめちゃくちゃキレイ!!
  • 親子で読んで話し合う題材には最適。
  • ユダヤ人の救いを知りたい人に読んでほしい!
  • 第二次世界大戦中のナチスドイツに占領されたデンマークで、ユダヤ人がどうなったのかを知りたい人に読んでほしい!

カジュアルに子供に読み聞かせるための絵本として使うのはむずかしいです。
エンディングがすっきりしないので、読後感がよいとはいいづらいからです……。

活字を読める小学生以上のお子さんが歴史を学ぶためにはイイと思います。

本編後の解説ページを親が読み込んだうえで、子供と話し合う……なんて用途もありですね。