本稿を書いているのは9/9(木)ですが、自民党総裁選挙の立候補者は岸田・高市・河野の3名に絞られそうな情勢ですね。

 

既に他の論者も指摘しておられますが、今回の論戦はこれまでとは違い、各候補者が

・積極的な財政支出や財政投資の実行

・国民の所得倍増

・中間層への所得配分強化

・新自由主義や構造改悪路線との決別

・脱原発に対する疑問や否定

に言及しているのがとても特徴的です。

 

このほかにも、国防強化、憲法改正、従軍慰安婦の否定、靖国神社への参拝、NHK改革など、マスゴミや左巻きの被差別利権団体がタブー視してきた問題を表に曝け出し議論する姿勢が見受けられます。

 

立候補した3氏が総裁→総理の椅子に就いた後に、こうした議論をどこまで深めることができるのか、まったく未知数ですが、頭のおかしいマスゴミや左翼連中の都合で議論することすら許されてこなかった課題や問題が白日の下に晒されること自体、国民に意識変革を迫るために非常に大きな一歩だと思います。

 

高市前総務相、総裁選出馬を正式表明 物価2%達成までPB目標凍結』(ロイター)

https://jp.reuters.com/article/idJPL4N2QA1RV

高市早苗前総務相は8日、記者会見を開き自民党総裁選への出馬を正式に表明した。大胆な金融緩和と緊急時の機動的な財政出動、大胆な危機管理投資・成長投資を「サナエノミクス」3本の矢と称し進める。安倍晋三前首相などの支援で20人の推薦人を確保し、党内保守層の支持を期待する。

2%の物価目標を堅持し、達成するまでの期間、財政健全化目標(基礎的財政収支の黒字化)を凍結する。インフレの兆候が表れれば投資額を調整すると述べ、事実上のMMT(現代貨幣理論)採用方針を示した。10年間で100兆円の危機管理投資・成長投資を進め、気候変動への対応、国土強靭化を進める。(略)」

 

さて、上記記事でロイターは、高市氏が唱える

①大胆な金融緩和

②緊急時の機動的な財政出動

大胆な危機管理投資・成長投資

という、いわゆる「サナエノミクス」と、それを推進する手段としての2%の物価目標の設定及びそこに到達するまでPB目標凍結という提言を指して、『事実上のMMT』と称しています。

 

この辺の見方には各人それぞれの考えがあるでしょうが、個人的には「このレベルの提言を積極財政とかMMT呼ばわりするのはまだ早い」というのが正直な感想です。

 

岸田・高市・河野の3氏の中では、国家観や経済政策、成長戦略、対外政策など、いずれの面でも高市氏の主張が突出しているのは確かです。

 

しかし、肝心の“3本の矢”の一本目に大胆な金融緩和という予備兵力やサポート要員に過ぎない脇役を持ち出すあたり、30年不況に陥り国民は苦境に直面し、先進国たる地位を護ることすら危ぶまれる国家的危機に対して、いかなる経済政策を採るべきか、彼女が真に理解しているのかどうか、怪しまざるを得ません。

 

小泉構造改悪に端を発する緊縮思想の蔓延の所為で日本経済が足を踏み外し、以降、国民の所得は長期低迷に陥ったまま他の先進諸国の後塵を拝し続けています。

 

この経済的悪夢を払拭するには、

・不況の根源は、国民の大いなる所得不足に起因する需要不足であること

・所得不足や需要不足を放置したままでは、国富たる供給力の腐敗や瓦解は免れないこと

という基本的理解を踏まえたうえで、

「所得不足や需要不足を早急に埋めるための持続的かつ聖域なきバラマキ政策」

「国富を強靭化するとともに、バラマキ政策の副作用であるインフレの暴走に備えるために政府主導で生産性向上や研究開発投資、教育や人材育成投資に対する支援

を実行せねばなりません。

 

であれば、高市氏が示すべき3本の矢は、

①国民所得倍増を10年以内に実現するという目標設定

②①を実現するための大胆かつ持続的かつ広範囲な財政出動(消費税廃止・社保負担廃止・BI導入・PB目標禁止・財務省廃止)

③自然災害や対外的軍事的リスクに備えるための大規模な危機管理投資(10年間で200兆円)

でなければなりません。

少なくとも、金融緩和が財政出動より前に来るなどあり得ませんよ。

 

もう一点気になるのは彼女が唱える「2%の物価目標を堅持し、達成するまでの期間、PB目標を凍結する」という部分です。

 

PB目標撤廃ではなく“凍結”に止める辺りも不満や不安を感じますが、それより気に掛かるのは「2%の物価目標(インフレ目標)」という指標に囚われている点です。

 

リフレ派が云い始めた物価目標という指標ですが、私は常々、この物価目標という言葉は、正しい経済政策や積極財政策の進むべき道を惑わす「悪しき立て看板」になっていると感じています。

 

まず「物価目標」という言葉を聞いた一般国民はどう感じるでしょうか?

大半の人は、おそらく「一定の物価上昇率を経済運営の目標にすること」だと理解するでしょう。

 

「別にそれでいいんじゃね?積極財政だって極端なインフレになったら困るじゃん?何らかの歯止めは必要だろ?」とスルーされるのが普通ですが、私が言いたいのはそこではありません。

 

最も重要な「国民所得の向上により、誰もが豊かに暮らせる社会を創る」という大目標が雲散霧消し、“物価目標の達成”が経済政策の目的と化し独り歩きしてしまうことを何より懸念しています。

 

リフレ派やネオリベ連中が最たる例ですが、彼らは国民の懐がどうなろうがこれっぽっちも興味も関心もなく、物価目標という意味不明な指標だけをひたすら追い求め、財政政策を競合相手と勘ちがいしてライバル視し排除した挙句、結果として需要不足を深刻化させ、物価目標を一度も達成できぬまま一敗地に塗れてしまいました。

 

物価目標なんてのは、そもそも“目標化・目的化”するに値する指標にはなり得ません。

物価目標自体、財政出動のアクセルの強弱をコントロールするための加減でしかありませんし、物価という指標も大胆な財政出動が実らせる経済的果実の一つに過ぎません。

 

積極財政を少し齧ったばかりの政治家は、「○%の物価目標に到達するまで…」とお決まりごとのように述べますが、どうも彼らの態度を見るにつけ、積極財政の目的が「国民の所得を増やして暮らしを豊かにすること」ではなく、「物価をコントロールすること」に捻じ曲がっているように思えます。

 

こんないい加減な経済観のままだと、いざ政権の座に就いた途端に、積極財政の目標を見失い、財務省や税調に巣食う消極財政派のバカどもに足を引っ張られオロオロ立往生してしまうのです。

 

高市氏は、岸田・河野両氏より少なくとも二歩三歩進んだ正しい経済観をお持ちのようですから、「自身が掲げたサナエノミクスの目標はいったい何のためか、誰のためか?」という原点をいま一度じっくりと見つめ直し、厳しい総裁選を闘い抜いて欲しいですね