今度は「半導体」で日本を騙す韓国 来日の尹錫悦が繰り出した必死の作戦
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/03201702/?all=1
鈴置高史 (스즈 오키 타카 부미,Takabu-mi Suzu-oki)  半島を読む 2023年03月20日

 

(鈴置高史さんのブログ記事)

今度は「半導体」で日本を騙す韓国

 

中国との腐れ縁は続く

 

――韓国は中国との腐れ縁を断たないのですか。

鈴置:そのつもりはありません。日韓首脳会談後の会見でも尹錫悦大統領は本音をのぞかせました。以下です。

・韓国の「自由、平和、繁栄のインド太平洋戦略」と、日本の「自由で開かれたインド太平洋」の推進過程ででも、国際社会と緊密に連帯し協力していくことでしょう。

 まず、留意すべきは日韓の「インド太平洋戦略」は根本から異なることです。日本は「開かれた」という文言で、中国の不法な海洋進出と対決する姿勢を明確にしました。

 一方、韓国は中国を刺激する「開かれた」を使わず、「平和、繁栄」を形容詞にしました。これは、「中国との対立を避け、共同繁栄する道を選ぶ」との意思表示です。

 日本には岸田文雄首相をはじめとして「インド太平洋戦略を打ち出した韓国を評価する」と語る人が多い。もし本気で言っているとするなら、韓国にすっかり騙されていることになります。

 尹錫悦発言で注目すべきは「インド太平洋戦略の推進過程で、国際社会と緊密に連帯する」と語った部分です。要は「日本の反中的な姿勢を改めさせます」と中国に向かってゴマをすったのです。

 

ドイツと対照的な韓国

 尹錫悦大統領はIPEF(インド太平洋経済枠組み)発足の席でも「開放性・包容性」との言葉を使い、この組織の反中的な性格の払拭に努めました(「『東アジアのトルコ』になりたい韓国、『獅子身中の虫』作戦で中国におべっか」参照)。

「北朝鮮の脅威に対抗するため米国との関係は大事にする。しかし、反中ネットワークには加わらない」というのがこの政権の基本スタンスです。半導体でもそれは同じなのです。

 首相と外相、財務、防衛など6閣僚が訪日し、3月18日に日本と政府間協議を初めて開いたドイツと比べれば、姿勢の差は明らかです。ドイツは日本が主張する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に賛同しました。中国を念頭に「国家主導の不正な技術獲得」や「不透明な開発金融」に関しても、日本と共に懸念を表明しました。

 ドイツも経済的な中国依存度を深めていましたが、自由と民主主義を守るためには中国との対立を辞さない覚悟を固めたのです。一方、韓国人は左翼だろうが保守だろうが、中国に立ち向かう気概はない。長い間、中国の属国暮らしをした後遺症です。

 


【写真】初の日本との政府間協議で、ドイツの態度は韓国と対照的だった(首相官邸HPより)

 

韓日米台で供給網

 

日本は韓国無しでやっていけるが……

――日本は半導体分野で韓国の助けは必要ないのですか。

鈴置:まったくありません。メモリーはキオクシア(旧・東芝メモリ)というNAND型フラッシュメモリーで世界2位のシェアを誇る会社があります。DRAMは米マイクロンの日本工場があります。

 車載半導体など非先端ロジックはルネサスエレクトロニクスが奮闘しています。先端ロジックは台湾・TSMCの工場を熊本に誘致しました。2022年には日本政府も出資して最先端半導体を製造するラピダスが設立されました。米IBMから技術供与を受けます。
 
 日本は韓国無しでもやっていけますが、製造装置や素材が弱い韓国は日本無しではやっていけません。しかし、尹錫悦大統領は本当のことは言えないので、日経に対し「韓日米台の協力は国際供給網の安定に寄与する」とか「相互補完的な協力分野を発掘していけば、シナジーを創出できる」といった観念論を展開したのでしょう。

 TSMCは日本だけでなく、米国でも工場を作ることを決めました。米政府の誘致の結果です。昨年、中国の脅威を痛感した米国、台湾、日本は半導体ネットワークを一気に強化しました。というのに、米中の間でどちらに付くか決めかねている韓国。小田原評定を続けるうちに、米台日の半導体同盟から締め出されつつあるのです。
半導体の盛衰は地政学で決まる

 韓国人は半導体産業の盛衰は国際政治、あるいは地政学的な要因で決まることをよく知っています。絶対に勝てないと考えていた日本の半導体産業が1990年代に一気に崩れ落ち、「韓国と台湾の時代」がやってきた。これを身をもって体験したからです。

 それは韓台企業の地道な努力の賜物でもありましたが、日本の台頭を恐れた米国が全力を挙げてその半導体産業を潰した側面もありました。そして今、韓国メディアには「米国の次の標的は、中国との関係を断たない我が国だ」との恐怖の表明が溢れます。

 だから尹錫悦政権は執拗に日本に「半導体協力」を訴えるのです。韓国にとって運のいいことに、お人よしで外相時代に2度も韓国に騙された岸田文雄氏が首相をやっているのです。

 まずは尹錫悦大統領が語ったように、ホワイトリスト(現・グループA)への復帰を迫ると思います。3品目の輸出管理は緩和されましたが、グループAに戻らないと韓国は自由自在に半導体関連の素材や製造装置を輸入できるようにはならないからです。

 新設の経済安保対話では「米国の強引な対中半導体封鎖網」への不満を日本に語らせようとするでしょう。日本をして対中封鎖網を弱体化させる作戦です。成功すれば韓国は「中国工場の閉鎖」という国の危機を回避できるかもしれません。中国に恩も売れます。

 外交的な対中包囲網であるQuadに関し韓国は「反中色の薄い準メンバーとして加入する」という作戦を立てています。舌先三寸で米中二股を貫徹するつもりなのです。IPEFも同様です。半導体でも同じ手口を使うでしょう。

 

「尹錫悦氏はいい人」

――岸田首相はまた、騙されるのでしょうか。

鈴置:分かりません。興味深いことにネット上では「またキシダを騙しに来た韓国大統領」への警戒感が根強い。

 一方、産経新聞を除き、新聞やテレビなどでは「尹錫悦氏はいい人」「日韓協力体制の復活」といった楽観的な空気が目立ちます。既存メディアは耳元で日本の役所や韓国政府のプロパガンダを聞かされるからでしょう。

 朝日新聞は社説「日韓首脳会談 新たな協力築く一歩に」(3月17日)で「経済安全保障の枠組みを新設することでも合意した。半導体生産などそれぞれ強みを持つ分野で対抗しあうのではなく、協働する。そんな新次元の関係を多方面で目指してほしい」と主張しました。

 日本は素材の対韓輸出規制を止めよ――韓国に対する武器を捨てよ、と説いたのです。韓国が西側に戻るかは怪しいというのに。

 日経の「半導体供給網、確立へ道 関係修復で対中包囲網」(3月17日)は以下のように解説しました。

・日韓の協業は米国の思惑にも合致する。米中対立が激しくなる中、米国は半導体の生産や調達を友好国などに移す「フレンドショアリング」を進めようとしている。経済産業省内には「輸出管理の問題があるうちは韓国との連携は打ち出しにくい」との声が根強かった。
・水面下では日本と米国、韓国、台湾の4つの国・地域の半導体分野の強みを生かして協力を進める「CHIP(チップ)4」と呼ぶ構想がある。対中国の半導体包囲網の構築に弾みがつく。

「日韓の協業は米国の思惑に一致する」と断じるのは危険です。中国との腐れ縁を維持する韓国に対し、米国が不信感を強めているのはすでに申し上げた通りです。

 ちなみに、韓国政府はCHIP4から逃げ回っています。半面、供給網の安定を図る目的で中国政府と協議体を作りました。韓国が対中半導体包囲網に入るつもりなど全くないのは、これを見ても明らかです。
韓国は中国に立ち向かわない

 お花畑を夢見る日本人を、米国の東アジア専門家は冷ややかに見ています。日経の「安全保障どう変わる 日韓首脳会談、有識者の見方 中国念頭の協力は限定的」(3月17日)で、米ランド研究所のJ・ホーナン(Jeffrey Hornung)上級研究員は次のように語りました。

・韓国にとって中国は敏感で厄介な存在といえる。米国は中国を「脅威」、日本は「挑戦」と位置づける。韓国が公の場で同様の言葉を使う準備はできていない。
・韓国政府の人たちは中国問題の議論をためらう。台湾についても語りたがらない。経済的な結びつきの強さから、対中国を意識した安保協力は限定的になる。少なくとも対北朝鮮ほど早くは進まないはずだ。

 韓国が反中同盟に入るなどと安易に期待してはならぬ――と岸田首相と日本人を諭したのです。

 

鈴置高史(스즈 오키 타카 부미,Takabu-mi Suzu-oki)
韓国観察者。
1954年(昭和29年)愛知県生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒。
日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。
95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。
18年3月に退社。
著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。
2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。