不倫団地  かなしいイロやねん
  監督 : 堀 禎一

  製作 : 国映
  作年 : 2005年
  出演 : 速水今日子 / 吉岡睦雄 / 伊藤 猛 / 冴島奈緒 / 佐々木ユメカ

 

 

堀禎一 不倫団地 かなしいイロやねん 速水今日子

 

団地の窓辺に腰掛けてベランダを眺めるというのは(団地生活をした者ならあまりにありふれて)その実あまりに映画的です。空中に浮かんだ箱型の住居ですから玄関が唯一の出口であるという閉じ込められた空間にあってベランダとは何とも不思議な場所であるということでして、空がそこにある圧倒的な開放感に開かれながらどこにも行き場がなく(勿論飛び出そうなどとはしてはならないわけで)まさにそこに座って届きもしない空を眺めては悲しみが透き通っていくそんな場所です。(同じく堀監督の『団地妻 ダブル失神』(2006年)でもボクシングでそれなりのところまで上がった自負とそのあとひと押しが生み出せないために興行のねっとりした裏側に練り込められた後悔で不甲斐ないいまを抜け出せない夫に愛とも怒りともつかぬ感情を抱いてヒロインはやはり窓の縁に腰掛けて夜空に閉じた団地のベランダに向かい合います。)勿論それはマンションでもアパートでも別に団地に限りませんが、とりわけ団地と言ってしまうのもその巨大さが即ち戦後の庶民の汗ばんだ夢を握りしめているからで日活ロマンポルノの第一作が『団地妻 昼下がりの情事』(1971年)であるように文化生活への憧れとそれが所帯じみていることの屈折にどこか女の生温かい息遣いを感じさせます。本作のヒロインも萎びた財布をふたつ折りにするような浮気にたびたび家を空ける夫を待つでもなく(いや待っているからこそ)自分も行きずりに近い売春に夜を押し開いて、そんな危なっかしい、まるで濡れた自転車が自分の生活までゆるゆるとタイヤ跡を引いていくような地続きの時間が尾を引いて馴染みの客がふと団地に現れたことで改めて性が女の体とそれが息づく団地の一室に逆巻くことになります。ヒロインである速水今日子の頬高に笑みを浮かべてはしなだれかかる美貌が男に鷲掴みにされる肩の上で揺れていて、何か他人事のように笑っていてだんだんと苛立ちに身震いする男を見据える彼女の目の何と悲しみに研ぎ澄まされていることか。子供のできない自分の体に夫の嘆息が見えない波紋となって広げていって、夫に愛人があることを知りつつ夫婦でいることを当の愛人からも馬鹿にされ、自分にか夫にか或いはとんだ夫婦に関わった彼女自身にか持て余す怒りに愛人は夫に別れを切り出すも妊娠の身であることは隠しています。そのことをヒロインに叩きつける愛人に子供を産んでほしいと訴えるヒロインの顔にはやはりあの笑みが浮かんでいて、揺すっても揺すっても本性に辿り着かないヒロインの面の皮にもはや嘲りすら時間の無駄だと愛人は立ち去るでしょう。夫にしても愛人にしても夜の男にしても無造作にヒロインの心に手を差し入れながらふと自分たちの罪の意識に立ち竦むと彼女に本当の顔を見せろとこの顔を自分たちが押しつけたことなど忘れて彼女を八つに裂かずにはいません。ひとりベランダを見つめる彼女は私たちに背を向けたきりその向こうには届かない空がいまもあっけなく青空に澄み渡っています。

 

 

 

 

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