惑星撮影の条件設定を考える(拡大率vsゲインvs露光)

惑星撮影では、露光や解像度をどう決めるかが意外と悩みどころです。この2023年は、機材を少々新しくしたこともあり、惑星撮影時の条件設定について多少の考察を加えた備忘録をまとめてみました(※あくまでも、自分用の備忘録です)。

 惑星撮影をやろうと思ったとき、光学系や撮影条件の選定には様々な組み合わせが考えられ、どのように決めていったら良いのか、試行錯誤になったりします。
 例えば合成焦点距離は長めにして解像度を稼ぐのがいいのか、短めの焦点距離で短い露光時間と枚数を稼いだ方がいいのかゲインを上げて露光時間を短くした方がいいのか、低ゲインで長い露光の方がいいのか、といった選択です。

 実は私自身、5月に中古のシュミカセ鏡筒を入手できてしまい、だいぶエエカゲンにやっていたわけですが、少し真面目に考えてみました。
 前回のCMOSカメラのスペック関する考察と併せて、画像の情報量という観点で考察を加えてみた次第です。

C11 による 2023.8.26 の木星
2023.08.26 01:58-02:08, C11 (28cm SCT) + Powermate 4x + ADC + MARS-CII (IMX662),
実測合成FL=11,600mm (F41.4) / 露光9.0ms (Gain 545) / 取込解像度1100x1100,
Total 37,500 (1,500 x 25sets) frames , 67% Stacked

※惑星撮影については、2021年にまとめたものもありますので、そちらもご参照ください
 今回は「②撮影編」で述べている露光時間などの決め方を少し深掘りしています。
 ・惑星「撮影」2021年 夏の陣 - ①機材編
 ・惑星「撮影」2021年 夏の陣 - ②撮影編
 ・惑星「撮影」2021年 夏の陣 - ③-1画像処理(スタッキングまで)編
 ・惑星「撮影」2021年 夏の陣 - ③-2 デローテーション&ウェーブレット編

■撮影条件の基本:「SN比しか勝たん」
※個人的な備忘録としての手順であって、何かを保証するものではありません。
 まず結論だけを述べると、「SN比を稼ぐ」ことが正義だというのが現時点での結論です。カメラのカタログ値の読み方で「ダイナミックレンジが大きいカメラ」が有利だったのと同様です。

 SN比を稼ぐための要諦は、カメラの階調を使い切ることです。撮影時には SharpCap などのキャプチャソフトのヒストグラム情報を見ながら露光時間やゲインを決めていくわけですが、この時に最大輝度が飽和しない範囲で輝度値を最大化する、というのがベストだということだけは間違いありません。ヒストグラムを使い切ることが肝要なのです。
 撮影時であれば露光時間をフレームレート一杯に伸ばし、それでも輝度最大値が飽和よりもだいぶ暗いようならば、ゲインを上げます。ゲインを上げるとリードノイズは増えますが、最大輝度値が小さいと階調情報が失われてしまうのです。
 CMOSセンサのSN比は、同じ輝度の対象に対してはゲインを上げた方が大きく取れます(SN比=最大輝度値÷リードノイズ値[ADU])。つまり、光学系の拡大率やF値が決まってしまった状態であれば、ゲインは上げた方が良いのです。

※ダイナミックレンジDRは、輝度が各ゲインの飽和と等しくなるようにした時のSN比(の対数)を言っているセンサの性能値ですが、撮影の際のSNとは異なるという点に注意が必要です。

■光学系の拡大率の選定
 SN比のことを考え出すと、カメラ側の露光時間やゲイン設定の他に光学系側としてはF値と画素サイズの選定が気になるところです。これらは複雑に絡み合っていてベスト解は一つではないようにも思えますが、選定の道しるべは欲しいところです。

エアリーディスクのサイズ
(左上四角)

「ピクセル=エアリーディスク」ではいけません。
 輝度や階調のことだけを考えると低ゲイン側が有利であることは間違いありませんので、「低ゲインに設定できるよう光学系の拡大率を抑える」戦略はこの観点では正しいと言えます。
 一方で、解像度のことも考える必要があります。惑星撮影では写したい模様を解像できなければ仕方ありませんから、どのくらい拡大すべきかというのが考えどころです。基準になるのは望遠鏡の分解能で、エアリーディスクをどのくらいのサイズで写すかということが重要になります。

 惑星撮影や観察というのは、エアリーディスク内側の輝度分布の重畳積分を見るものですから、「エアリーディスク径=ピクセルサイズ」のような短絡的な考えではいけません。「分解能」という数値より細かい模様は見えますし、撮影もできます(関連:「エンケの隙間は見えないのか?」)。
 古い言い伝えでは、分解能(≒エアリーディスク半径)の1/10くらいの模様は眼視で見えるとの報告もあります。実際にシーイングが良い日には、エアリーディスク半径の数分の1程度は見えるように思えます(ガニメデの影が点ではなくきちんと円形に見える程度には解像している)から、エアリーディスク直径を20ピクセル程度にまで拡大できれば、そのあたりが拡大率としてはいいところかと思います。
 実際的には、この辺りかその手前くらいが上限かもしれません。これ以上は像が暗くなるだけでSNやシャッター速度に対する悪影響の方が大きそうです。

口径違いによる木星像とそれぞれのF値
拡大率は、エアリーディスク直径で左から 20.7pixel、15.5pixel、18.5pixel でした。
焦点距離は、撮影時の木星の視直径の値を用いて実測したものです。
※20cmでの色が黄土色なのは、IRカットフィルタを取り除いたIMX290の特性によるものです。

 実際に私が撮影した口径違いの例を後から確認してみると、エアリーディスク直径を15~21pixelで写していたという結果でした(後述のDF値で12~16)。実際にはこれの半分くらいが拡大率の下限で、20ピクセル前後というのは上限となろうかと思います。

 光学系選定の際には「F値と画素サイズをどうするか」というところに効いてくるわけですが、最終的には「デジタルF値 "DF値"」に落とし込まれます。これは個人的に提唱している数値で、光学系のF値を画素サイズ(μm)で割った値です。無次元ではありませんが、デジタル撮影時のモノサシとしては露光や分解能を考える上で使い易いので、個人的には指標としています。露光時間はDFの2乗に比例します。

 デジタルF値:  DF = F値 ÷ 画素サイズ[μm]

 拡大率はズバリ、このDFが 7~16 程度の範囲にするのが惑星撮影向けとしては適切ではないか、というのが今回の提案です。センサ上のエアリーディスク直径は8~21pixelほどに相当します。

光学系のF値とエアリーディスク像の直径の関係
(凡例は画素サイズ。DF値で整理すると、いかなる画素サイズのカメラでも適正値が分かります。)

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木星撮影のあゆみ - ゆるーく撮ってます
 
 実際の撮影では、上記のように光学系を選定した上で、「フレームレートが許す限りの露光時間」で、「ヒストグラムを使い切るゲイン設定」をして撮影する、というのが惑星撮影の手順になりそうです。

 DF値を半分にすると露光時間は 1/4で済み、より多く露光したくもなりますが、転送する画像のピクセル総数も概ね 1/4になってフレームレートが4倍になりますので、露光時間の上限が制限され、結果的に選ばれるゲイン値は近い値になると思われます。

 このように、惑星撮影における拡大率の選定もなかなか奥が深いなとおもいつつ、皆様だいたい経験的によいところを使われているようには思います。

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