「東京ブギウギ大ヒットまででよかった…」NHK朝ドラ『ブギウギ』が“不完全燃焼”最終回だったワケ

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朝ドラ『ブギウギ』(NHK)が、福来スズ子(趣里)の「さよならコンサート」を持って大団円を迎え、半年にわたる“歌って踊る”朝ドラはフィナーレを迎えた。

今回の朝ドラは、戦後の大スター“ブギの女王”と呼ばれた笠置シヅ子がヒロインのモデル。最終回では『東京ブギウギ』の生歌唱を披露。圧巻のパフォーマンスに絶賛する声が寄せられている。

しかしその一方で、“スズ子引退”に関しては首をかしげる声も上がっている。

「3月28日に放送された第125話で、スズ子は『作曲家・羽鳥善一(草磲剛)にとっての最高の人形になりたかった。ベストなパフォーマンスができないから』と、引退する理由を告白しています。しかしこれまで、身体的な限界を感じさせるシーンが、ほとんど描かれてこなかったことから、モヤモヤする視聴者も続出しています」(制作会社プロデューサー)

戦時中、エンターテインメントの力を信じ何度も苦難を乗り越えてきたスズ子。しかし終戦を迎え、人生最大のピンチがスズ子に訪れる。

愛する娘を授かったものの、その直後に最後を看取ることのないまま夫・愛助(水上恒司)がこの世を去る。

「わても死にたい」

と呟くも、大ヒット曲『東京ブギウギ』を発表してスズ子は不死鳥の如く蘇る。この奇跡のV字回復こそ、今作最大の見せ場であり、充分すぎるほどのカタルシスを味わうことができた。

しかしその後の目に余る停滞ぶりを見る限り、今作は『東京ブギウギ』の大ヒットで幕を降ろすべきではなかったか。そんな思いがよぎったのは、私だけではないはずだ。

しかしラスト2週で『ブギウギ』は覚醒する。「梅丸少女歌劇団」時代に、スズ子がリスペクトしていた先輩・大和礼子(蒼井優)の忘れ形見・水城アユミ(吉柳咲良)が彗星の如く現れ、スズ子の前に立ちはだかる。

「歌手としての輝きを失いかけたスズ子を覚醒させるために登場したライバル。この展開、たとえは古いかもしれませんが、アニメ化・実写映画化された大ヒット漫画『あしたのジョー』を彷彿とさせ、痺れました。

永遠のライバルである力石徹を死なせたショックから顔面を打てなくなり、ドサ回りのボクサーに身を落とした矢吹丈。もはやこれまでかと思いきや、そこに『無冠の帝王』カーロス・リベラが現れ、死闘を繰り広げるうちにジョーは蘇る。水城アユミこそ、スズ子を蘇らせるカーロス・リベラではないか。そんな期待感を持ちました」(制作会社ディレクター)

大晦日の人気番組『オールスター男女歌合戦』を前に、新旧対決を煽るマスコミ。そんな中、水城アユミがスズ子の『ラッパと娘』を歌いたいと名乗り出る。ここから始まる2人のバトルこそ、最後の山場かとズキズキワクワク。ところが、そんな期待は脆くも裏切られる。

「あんさんの歌にめちゃくちゃエネルギーをもらえて、最後にあんな風に歌えましたんや」

「あなたを見て歌手としての人生をスパッとやめよう思うたんや」

「バトン渡したで。頑張ってや」

闘うこともなく“歌手引退”をあっさり決意するスズ子。この脱力感は、如何ともし難かった。

水城アユミの登場で高まった期待感は失望に変わり、福来スズ子はついに歌手として燃え尽きることなく大団円を迎えてしまう。果たして、これが正解なのだろうか……。

「今作の脚本を手掛けた足立紳氏の代表作といえば、安藤サクラ主演の映画『百円の恋』(’14年)です。32歳になっても実家に引きこもり自堕落な生活を送っていた一子(安藤)。ある日実家を追い出され、一人暮らしをしながら百円ショップに勤め始める。そこでボクシングと出会い、ギリギリの年齢でライセンスを所得してリングに上がる。

『黒い女豹』と呼ばれる対戦相手に、何度倒されても立ち向かう一子。そのシーンは自堕落な生活から抜け出そうともがく、決死の覚悟が伝わる名場面。その清々しさたるや、カタルシスなどという言葉では語り尽くせません。今作で安藤は、初めて日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。足立氏も最優秀脚本書を受賞しています」(前出・ディレクター)

朝ドラ4度目の挑戦で、ヒロインの座を募集年齢上限の32歳で射止めた趣里。圧倒的なパフォーマンスもさることながら、彼女には、もう一度もがき苦しみ、立ち上がる姿を見せてほしかった――。

 

文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー)
バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドルテレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版