輝かしい瞳

1-145 輝かしい瞳 
うむいは母に連れられておうちに帰って来た。

母の使っているベッドに眠る支度をしてもらって眠ろうとしていた。
最近、毎日のようにいつも母に連れられて行くおばあちゃんちにはだいぶ慣れてきた。
おばあちゃんは優しいし、おじいちゃんとは最初の頃は話しずらかったけれど少しずつ慣れてきた。
というより、おじいちゃんはうむいに興味を持ったらしく、いちいち「うむいはこれは好きか?」とか尋ねてくる。
おじいちゃんの不愛想だった顔が、このごろ笑顔を見せてくれるようになったのは嬉しい。
しかし息子の光男という人は、少し変わっている。
うむいがおばあちゃんとおじいちゃんと一緒に食事をしていると大きい体の光男が二階から降りてくることがある。
一緒に食べるのかなと思っていると、こちらをじろじろと気にする様子でいながら冷蔵庫から飲み物を取り出してはまた二階に上がっていく。
{光男という人、変わっている}とうむいは思った。
それにしてもここも変わっている。
ここというのはこの世のことである。
昼とか夜などがあって、食事をしたりトイレに行ったり、眠ったりするのである。

あの世ではそんな経験はしたことがなかった。
うむいは夜の時間になると自然と眠くなるのだから不思議に思っていたのだった。
それらもずいぶん慣れてはきたけれど、あの世とは全く雰囲気が違っていた。
あの世では、いろいろな階層や領域があって人々の意識の高さなどにより、似通う人たちの集まっている場がそれぞれにある。

そこではいろんなことが自由にできる。
うむいのいたところの人々はいつも幸せそうな顔で生活している。
ところがこの世は違うようだ。
苦しそうだとか悲しそうだとか不満を持つ人たちがいっぱいいるらしい。
今日はなんとなく疲れた。

うむいは、母がいつも使っているベッドの中に寝かされて、うとうとと眠りに誘われていた。
しばらくすると、はるか遠くに浮かぶ美しい星雲に乗っている人が、見えないくらい小さい点からこちらに向かって次第に姿を現してきた。
うむいは、ときどきその人のことを観ることがあった。
その人は背後からあの輝かしい光のようなものに包まれており、そのまぶしい光は永遠へとつながっているように観える。
うむいは{なんて美しいんだろう}とくぎづけになった。

観るだけで幸せな気分になる。
その光の集まりの広さにも深みにもその輝きにも、えも言われぬさまざまな温かみのある命が感じられるから。
突然、その人は小さな森の片隅で足を組み座っている姿に変わっていた。
まるでときどき座る母の姿に似ている。
この人が修業をしていることは、うむいにはわかった。
しかしなぜこの人が遠い昔にこのようなことをしているのかが、わからなかった。
なぜならばこの人は神々の一人であり、何不自由なく過ごせることは、うむいにはわかるのである。

いろいろなことをされているらしく、どんなことでもできるのだ。

しかしこの人はそこでは自分の本当の力をほとんど使われていないようなのだ。
何故だろうかと思った。

それに何かしら苦慮されている。

よく観ているとその時代だけではなく未来の人たちだけでもなく過去の人々に対しても苦慮されているように観えてきた。
志というよりも使命感というものが伝わってくる。
その使命を達成するにはこの世との原理を会得する必要性を感じているようだ。
あの世とこの世には共通の原理と違う原理があるらしい。
下界であるこの世には肉体をはじめ、自然界の仕組みなどがある。

あの世とは霊界のことに他ならない。

霊界の原理はわかっていてもこの世のことはまだおわかりにならないとでもいうのだろうか?
しかしその不思議より、うむいにとって驚きが生じている。
その驚きはその人の志であり使命感だった。
その人の志は「すべてのものを永遠に救う」ことのように観えたのである。
永遠の命と命のつながりに生ずるこの世での苦しみを持つ過去現在未来の人々が、自らが解脱するにはどうすればいいかという志であった。
苦しんでいる人たちをただ単に救うということだけでは足りない。
苦しんでいる人たちがどうすれば本当の意味で救われるようになるのか、自分たち自身に会得させていくにはどうすればいいかに苦慮されているように観えた。
そのためにこの世での人々の苦しみの根源を知る必要があった。
この世での原理も会得する必要もある。
根源と原理と解決する方法を会得し、連綿として過去、現在、未来に生き続ける人々自身によって永遠に引き継がれていかなければならない。
しかもこの世あの世の人々だけではなく、生きとし生けるものすべてが会得できるようにするには自分はどうすればいいのかを苦慮されているように思えた。
この世では王に生まれ育ったが、もうその身分も志のために捨てた。
その人は、一介の青年になった。
自らのすべてをかけて人々と共に永遠に修行をされる覚悟に観えた。

王子のふくよかな面影はすでにない。
その白衣は薄汚れ、姿はやつれ果てて座していた。
しかしその瞳には輝かしい光を伴っている。

霊界からすれば、はるかに暗い下界のすべてのために、その瞳に宿る光にはあらん限りの力を希求する永遠の姿が観えた。

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