映画「COME & GO カム・アンド・ゴー」小野美由紀(作家)×リム・カーワイ(映画監督)対談

大阪を舞台にアジア9か国・地域の人々を描いたリム・カーワイ監督作「COME & GO カム・アンド・ゴー」が、11月19日に日本で公開されました。

中国、香港、台湾、韓国、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ネパール、日本の9か国・地域のキャストが集結し、共生時代を探る多国籍多言語マルチ視点の群像劇となっています。

ベトナムからは、2020年に日本でも公開されたベトナム映画「ソン・ランの響き(原題:Song Lang)」で主演を務めたリエン・ビン・ファット(Lien Binh Phat)が出演し、ベトナムから日本に渡った技術研修生を演じています。

「COME & GO カム・アンド・ゴー」は11月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、12月3日(金)よりテアトル梅田、12月4日(土)よりシネ・ヌーヴォ、12月10日(金)より京都シネマ、12月25日(土)より名古屋シネマスコーレほか全国順次公開となります。

COME & GO カム・アンド・ゴー

小野美由紀(作家)×リム・カーワイ(映画監督)対談

ジャパンプレミア上映となった2020年東京国際映画祭で本作を観た作家の小野美由紀さんが、Twitterで「もう一度見たい。」と呟いたのがきっかけだった。それを見たリム監督が会いたいと連絡を取り、対談が実現。そもそも就職活動から逃避し旅に出て作家になった小野美由紀さんと、東京でのサラリーマン生活から映画監督の道を志し北京電影に入学したリム監督。旅や人との距離感から物語を紡ぎ出すふたり。旅好きという共通点もあり、話は多国籍の人々が増える日本の未来についてまで広がった。

小野美由紀(作家)×リム・カーワイ(映画監督)対談

リム)よくベトナムに行くんですか?

小野)ベトナムは大好きで、もう5回ぐらい行っています。ダナンとか中部の街が好きで。リエン・ビン・ファットさんの大ファンです。今回「カム・アンド・ゴー」も彼が目当てで映画祭に観に行ったらすごく面白かった。

リム)ファットさんに感謝ですね。僕もバックパッカーで旅をしながら映画を撮っていますが、こういう生活を始めたのは中国に行ってからですね。北京電影で映画の勉強をしたんですけど、その前には東京でサラリーマンをしていたんです。更にその前は留学生でした。当時は日本とマレーシア以外には行ったことがなかった。会社を辞めて中国に行き、向こうでフリーランスで働くようになって、経済的に不安定ですけど、その代わり時間は余ってるわけで。北京にいた頃も国内をバックパッカーして回ったのですが、初めて中国以外のところに行ったのは実はベトナムなんですよね。

小野)そうなんですか!

リム)マレーシアと同じ東南アジアですけど、ベトナムには行ったことがなかった。その時は、北京からチベット、雲南省を経由してベトナムに入ったんですよ。北から南まで。その後、タイを経由してマレーシアに帰ったんですけど。陸路で初めてベトナムに行った時は、とても面白くて。

小野)マレーシアと全然文化が違いますよね。

リム)全然違いますね。二回目はマレーシアからベトナムに入って南から北へ。だからベトナム詳しかったけれど、10年ぐらい前の話で。一昨年、ファットさんを訪ねてベトナムに寄ったんですよ。彼とも会ったんですが、びっくりしましたよ。かなり都会に変わっていた。

小野)そう!10年でも全く変わりましたよね。ホーチミンですか?

リム)ファットさんを訪ねたのはホーチミンですが、その前はダラットとかダナンも行って。ホイアンも、とても好きでした。

小野)カーワイ監督はマレーシアのどちら出身なんですか?

リム)クアルランプールです。

小野)じゃあ、都会っ子ですね。それで都会を転々とされて。北京の生活はいかがでしたか?

リム)北京は大都会ですね。僕が行ったころは2004年頃ですけど、行ったことはありますか?

小野)ないです。上海は行きましたが。

リム)上海もすごいですよね。北京と上海の違いですけど、北京は道路が広くて、なんでも大きいですね。レストランだと100席以上あるのが当たり前で、道路だと8車線。たぶん上海も2車線ですよね。広くて大きくて、初めて北京に住んだ時にびっくりしましたね。あと北京は人が面白いですね。上海、よく行きましたか?

小野)二回行って、主に中心部のショッピング街にずっといたんですけど。

リム)上海は都会的で洗練されてて、外国人が多い。外国人に憧れて、街全体もそういう風になろうとしてる。北京の場合は、外の影響を頑固に拒否し続ける街というイメージがあります。北京が世界の中心と考えている人が多くて、面白いですよ。

小野)確かに文化とかアートの中心ですもんね、北京って。そういう意味でも選民意識みたいなものがあるのかしら。

リム)そうそう!でも上海の人もそうですよね?

小野)どこの都市の人も、自分の街にはプライドを持ってるのかも。カーワイさんはご自身が都会っ子だからなのか、都市を描くのがやっぱり好きなんですか?

リム)そうですね…ちょうどこの映画(「COME & GO カム・アンド・ゴー」)も大阪が舞台の都会の映画ですね。でも、田舎でも映画は作りたいと思ってます。一作目の映画は北京で撮ったんですが、郊外の話です。二作目は香港で作ったんですが、それもランタオ島のホテルを舞台にして作った映画です。言わなければ香港で撮ったというイメージがないと思います。

小野)日本人はあまり知らないですよね?

リム)はい。ランタオ島にもいろいろ村がありまして、漁村の映画ですよね。だから必ずしも都会の映画ばかり作っているわけではないですね。

小野)たまたま今回は都市の人間関係を撮りたかったわけですね。監督が映画で撮りたいと思ってるものって、何ですか?抽象的な質問ですが。

リム)自分の場合は、まず場所ありきと考えていて。今回大阪を舞台にしてますが、さっきの香港の島の映画も、たまたま旅行で行って、物語が起こったら面白いんじゃないかなという発想があって作っていったんですよ。僕にとって、その場所に生きる人々の話を作りたいという気持ちが強いですよね、自分が惹かれる場所。

小野)土地によってインスピレーションが湧いてくるという感じですかね?東ヨーロッパやロシアを旅したと聞いたんですけど、やっぱり魅力を感じますか?

リム)初めて行った時にやっぱりショックも受けて。面白いし、景色もとても綺麗。ロシアからシベリア鉄道にのって横断したんですけど、楽しくって。ロシア人も暖かくて良い人ばかりで。ロシアで映画を作りたいっていう気持ちは今でも変わってないですね。

小野)なるほど、私も場所の設定から物語が湧くことは多いです。最初に書いた小説が銭湯のシェアハウスの話で、そこに色んな人が居て…マレーシアと日本人のハーフの女の子とか、義足の男の子とか、自身のジェンダーに疑問を持つ若者とか、色んな人達が集まって暮らすという群像劇です。銭湯が好きで、大阪も結構ありますよね?

リム)僕も、銭湯好きですよ。天然温泉が大好きです。

小野)人との距離が近くて、都市の中にいるけど、他人との境界が崩れるような感じがあって。深く関わらないし、相手の名前もわからない。

リム)僕も、シェアハウスみたいなところにずっと住んでいて。そこにいると色んな人の関係が見えてきて面白い。

小野)「カム・アンド・ゴー」でも、個々の関係がそんなに深くならないじゃないですか。ネパール難民と日本語学校の先生以外は人間関係が希薄で、そんなに深く関わってないのに物語自体は濃密で、人間っていうものを実感したなと思える。

リム)みんな孤独ですよね。特に都会に生きると。小野さんと共通のテーマかもしれないですが、おっしゃる通り人間の関係って、距離感じゃないかと思うんですよね。その距離感というものは深入りしないことだと思いまして。

小野)深く入らないことを悪く描いてないですよね、カーワイ監督は。

リム)そうですね、一切否定してないですね。

小野)分かり合えないということも含めて描いている。

リム)それは当たり前じゃないかという気がしていて。

小野)それは分かる。マレーシアの人間関係と東京・日本の人間関係って違いますか?

リム)違いますね。例えば、ベトナムでもそうですけど、日本の場合は田舎に行っても、サービスを提供する側とされる側とはっきり境界線があるんですよね。でもマレーシアでは、注文をする時に「どこから来た?」とか色々聞かれて、関係は一気に崩れるんですよね。そういうコミュニケーションが日本には少ないですね。

小野)私、中国人の友人と一緒に中国の田舎に行った時、日本人差別が激しい町だったから「滞在中はあなた韓国人のふりしなさい」て言われて。初めての体験なので結構びっくりしました。ずっと韓国人のふりをしながら、ちょっと罪悪感を感じたりして、印象深い出来事ですね。

リム)中国の内陸部ですよね。僕も行ったことがあって、ショックを受けました。顔立ちとか服装とかで日本人と間違われて、店に入ってはいけないとか言われて。追い出されたんですよね。マレーシア人ですと言ったら、やっと入れてくれた。

小野)中国大陸の中でも場所によって価値観が全然違いますよね。「日本人お断り」とか看板があったりとかするとドキリとしますよね。日本に来ている外国人の方も、「差別されるかも」とこんな風な気持ちを味わいながら暮らしているのかな?と初めて想像しました。旅で感覚が変わることはよくありますよね。

リム)一度、外にでないと分からないことがいっぱいありますよね。いつから、旅をし始めたんですか?

小野)18歳からですね。大学入って初めてヨーロッパに行って、大学3年生の時にはお金を貯めてインドからポルトガルに行って、そこからアルゼンチンに飛んで南米を回り帰ってきたんですけど。国境を越えるだけで景色が変わり文化も違うというのが、本当に面白いなと思いました。

リム)僕もずっと旅をしたかったんですけど、なかなか出来なくて。やっと30代になって全て諦めてからバックパッカーになった。

小野)諦めるってなんですか?会社を辞めるってこと?

リム)会社を辞めて、学生もやめて。フリーになって、遅れてきたバックパッカーなんですね。一回体験してしまうと嵌って、もう二度と普通の生活に戻れない。でも旅で出会う人ってみんな若い。自分が一番年寄りじゃないかな? 気づいたことがあって…小野さんが世界一周したのはいつ頃ですか?

小野)15年ぐらい前ですよ。

リム)当時は、まだ日本人の若者が結構多かったでしょ?

小野)ああそうだったかも。

リム)今びっくりするほど、日本人が居ないですよ。日本の若者は海外に行くことに、あまり興味がないですね。

小野)そうなんだ、意外。LCCとか、安くなってるのに!

リム)いつも出会うのは、だいたい韓国人と台湾人です。中国人も個人旅行が増えてきたんですけど。あまり日本の若い人に出会わないですね。

小野)それは残念ですね。やっぱり海外に行くことで一回客観的に自分の国とか自分自身を見ることが出来るというのはありますよね。

リム)本当に客観的に日本を見れない若者が増えてきたんじゃないかという気がします。そして彼らもこの「カム・アンド・ゴー」に描かれている世界、外国人が働いているのに気づいていても、ベトナムの人やミャンマーの人に興味がない。そういう感覚は日本にあるんじゃないかと思います。海外に興味がないだけでなく、日本にいる海外の人たちにも興味がない。

小野)興味がないというより、境目も感じていないって気もしますね。当たり前の存在になってしまっているから、興味をもつきっかけすらないんじゃないかなと。日本に外国人がすごく増えて。

リム)でも同じ空間に暮らしていて、同じように生きてわけですから、彼らのことに関心を持って欲しいですね。

小野)でも私は、若い人は内向きかもしれないけど、その環境で生きているのが当たり前だから、彼らが大人になってくれば少しは変わってくるのではないかって思うんですけどね。

『COME & GO カム・アンド・ゴー』

~平成から令和へ~
時代の変わり目、アジア9か国・地域の人々は大阪の梅田周辺(キタ)で交差し、すれ違う。
共生時代を探る、多国籍多言語マルチ視点の群像劇。

旅する映画作家リム・カーワイ

リム・カーワイ監督は、大阪を中心に活動を続けている中華系マレーシア人。カメラ1つその肩に背負って、地元大阪はもちろん、香港やバルカン半島へと単身赴き、ほぼ即興で演出するというスタイルを貫いているそう。その彼が、「新世界の夜明け」(2012)、「Fly Me To Minami 恋するミナミ」(2013)に次いで大阪三部作の最終章との位置付けで発表したのが「COME & GO カム・アンド・ゴー」です。

俯瞰では決して見えてこない、異国の地で生き抜く外国人たちの過酷な現実。彼らが話す片言の日本語がどうにももどかしいように、その主張は私たち日本人の心には明確には伝わらないし、私たちも理解しようともしない。また一方で、先進国日本という、もはや形骸化した意識の歪みの中で、生きづらさを感じている日本人たちもいる。リム・カーワイ監督は、今の日本が抱える様々な断面を、彼特有のユーモアと皮肉を利かせた軽妙なスケッチの積み重ねで集約させていきます。

アジア9か国から集結した豪華俳優陣たちの競演

日本からは、千原せいじ、桂雀々ら関西の人気喜劇人を中心に数々の映画で記憶に残る演技を披露している渡辺真起子、現代を生きる若い世代の1つの肖像を見事に体現して観客に強い印象を残した兎丸愛美、フィリピンの国際的映画監督ブリリアンテ・メンドーサの最新作「義足のボクサー」(仮)で主演に抜擢され大きな話題を集めている尚玄らが参加。

アジアからはツァイ・ミンリャン監督作品の主演で知られる台湾のリー・カーション、「ソン・ランの響き」が本国ベトナムで大ヒットを記録し、日本でも公開されたリエン・ ビン・ファット、「My Dream My Life」での森崎ウィンとの共演で話題を集め、自国ではファッションリーダーとしても高い人気を誇るミャンマーのナン・トレイシー、マレーシアでの人気を基盤にアジア全域で活動の幅を広げているスター俳優J・C・チー、ネパールの国民的な若手民謡歌手モウサム・グルンなど、国籍を超えたバラエティー豊かなキャストが集結しているのもこの映画の大きな魅力の1つです。

監督の世界観を具現化する、新しい日本映画界をリードする先鋭スタッフ

これまで見たことのないような大阪の風景。長く大阪に生活のベースを置いているカーワイ監督だからこそ見える景色を見事に具現化したのは、「ミスター・ロン」「ボルトの恋人たち」などで知られる撮影の古屋幸一。また、リム・カーワイ特有のオフビートな世界観を音にして表現したのは、「舟を編む」「湯を沸かすほどの熱い愛」などの渡邊崇。他にも「ハッピーアワー」「おっさんのケーフェイ」などの録音・松野泉、「光」「Vision」など河瀬直美作品で知られる美術の藤原達昭など、現代日本映画を支える先鋭スタッフが参加しています。

予告編

『COME & GO カム・アンド・ゴー』

【撮影】古屋幸一(「ミスター・ロン」、「ボルトの恋人たち」など)
【録音/整音】松野泉(「ハッピーアワー」、「おっさんのケーフェイ」など)
【美術】藤原達昭(「光」、「Vision」など)
【音楽】渡邊崇(「舟を編む」、「湯を沸かすほどの熱い愛」など)
【衣裳】碓井章訓
【メイク】島田幸希、富田允貞
【ラインプロデューサー】友長勇介
【プロダクションマネージャー】濱本敏治
【助監督】神保慶政、鳥井雄人
【プロデューサー・監督・脚本・編集】リム・カーワイ
【エグゼクティブ・プロデューサー】毛利英昭、リム・カーワイ
【制作会社】Cinema Drifters LLC
【制作協力】KANSAIPRESS、株式会社リンクス、Amanto Films
【製作】Cinema Drifters LLC
【2020年製作日本映画/158分/日本語・英語・韓国語・中国語・ベトナム語・ミャンマー語・ネパール語など/ビスタサイズ/5.1ch/DCP・Blu-ray】
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[配給]リアリーライクフィルムズ/Cinema Drifters

公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/comeandgo

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