孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエルでは最強硬内閣発足予定、パレスチナでは若者らが新たな過激組織 再び衝突の危険

2022-12-03 22:54:49 | パレスチナ
(「ライオンズ・デン」幹部の葬儀に集まった武装組織の戦闘員=ヨルダン川西岸ナブルスで2022年10月25日、三木幸治撮影【11月22日 毎日】)

【第2次インティファーダ終了後では最悪の状況】
ウクライナ情勢の陰に隠れる形で、中東パレスチナ問題に関する報道を目にすることは最近は少ないようにも思います。

ただ、状況が安定している訳ではなく“ヨルダン川西岸で起きた衝突による死者は今年、双方で130人以上に達し、第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)が終わった2005年以来の水準となる見込み”【11月22日 毎日】と、むしろ悪化しています。

先月末にはエルサレムでも、最近はあまり見られなかった組織的関与が推察される爆弾テロが発生。

****エルサレムで爆弾テロ 20人以上死傷 パレスチナ人武装組織関与か****
エルサレムで23日朝、2件の爆弾テロがあり、1人が死亡、少なくとも22人が重軽傷を負った。エルサレムで爆弾テロがあったのは2016年以来。爆弾は遠隔操作されたとみられ、パレスチナ人武装組織の関与が疑われている。 

事件は23日午前7時過ぎ、通勤・通学の市民で混み合う二つのバス停で連続して発生。かばんに入った爆弾が爆発したとみられる。エルサレムではローンウルフ(単独犯)によるナイフなどを使ったテロはたびたび起きているが、組織的なテロだとすれば近年では異例だ。  

現在、パレスチナ自治区のあるヨルダン川西岸で、イスラエル軍とパレスチナ人武装組織による戦闘が激化しており、今年に入ってパレスチナ人130人以上、イスラエル人29人が殺害されている。

新たな武装組織も結成されており、治安のさらなる悪化が懸念されていた。  

パレスチナ自治区ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスは「事件は、今後も(イスラエルによる)占領への抵抗が続くことを示すメッセージだ」とする声明を出したが、事件への関与については触れていない。  

近く発足するイスラエルの次期政権で閣僚に就任する予定の極右政治家、イタマル・ベングビール氏は23日、事件現場を訪れ、「テロを支持するパレスチナ自治政府への支援を中止しなければならない」と訴えた。【11月23日 毎日】
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【イスラエル 極右勢力を取り込んだイスラエル史上対パレスチナ最強硬内閣がスタートする見込み】
単に犠牲者が増加しているというだけでなく、イスラエル・パレスチナ双方に今後が懸念される要素があります。

イスラエル側の事情としては、11月1日の総選挙で保守派ネタニヤフ元首相が勝利・復活して、これまで以上にパレスチナに強硬な内閣を組閣しようとしていることです。

反ネタニヤフ勢力によって一度は追い落とされたネタニヤフ元首相ですが、極右勢力と連携することで11月総選挙を勝利しました。

****極右を手懐けたネタニヤフ イスラエル総選挙の内幕****
11月1日に実施されたイスラエル総選挙は3日開票を終了、ネタニヤフ元首相の復権が確定した。同氏は汚職で起訴され、昨年の選挙後に下野したが、極右連合と手を組むことで政権奪還を手中にした。だが、同氏は政権発足後には極右を切って中道勢力を取り込んで安定政権を樹立するハラとも伝えられるなど波乱含み。国王とも呼ばれる〝キング・ビビ〟の深謀遠慮を探った。

極右連合が予想外の大量得票
同国の比例代表制による総選挙は近年、第1党が多数派を占めることはなく、少数政党の連立で辛うじて政権を発足してきたのが現実だ。今回の選挙が約3年半で5回目ということでも分かるように、連立政権は議会の定数120議席の過半数をギリギリ上回るのが通例で、崩壊を繰り返してきた。政権が脆弱かつ不安定なのが特徴だ。

ネタニヤフ氏は右派政党「リクード」を率い、これまで通算15年の長きにわたって首相を務めてきた。しかし、昨年の選挙で「リクード」が第1党になりながらも組閣に失敗、野に下った。

その背景には、自身が汚職容疑で起訴され、裁判の渦中にあったこと、ラピド首相を中心とする勢力がとにかくネタニヤフ氏を政権の座に就かせない1点で結束したことがあった。

だが、反ネタニヤフ勢力は右派からアラブ政党まで主義主張の異なる8党の「野合」に過ぎず、パレスチナ問題などで対立し、1年足らずで崩壊した。これを読んでいたネタニヤフ氏は「宗教シオニズム」(スモトリッチ党首)と「ユダヤの力」(ベングビール党首)の極右連合に加え、宗教保守政党などと連携して選挙を戦った。

その結果、親ネタニヤフ派は過半数を上回る64議席を獲得。内訳は「リクード」32、極右連合14、宗教政党「シャス」11、「ユダヤ・トーラー連合」7。これに対し、ラピド首相率いる中道の「イシェシュアティド」は24議席獲得と健闘したものの、左派が振るわず、親ラピド派は51議席にとどまった。

特筆すべきは弱小勢力だった極右連合が14議席という議会第3勢力に躍進したことだ。予想を上回る大量得票だ。その一方で、パレスチナとの和平を推進してきた伝統的左派の「メレツ」は最低得票率の3.25%に届かず、議席を失う大敗を喫した。

極右の〝正体〟
なぜ、パレスチナ人に対する強硬方針を掲げる極右連合が票を伸ばしたのか。それは国民が「治安の安定」を何よりも求めたからに他ならない。

同国では春以来、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸などでユダヤ人への襲撃事件が多発し、治安部隊との衝突が相次いでいた。国連によると、この間のパレスチナ人の死者は125人以上、ユダヤ人も19人が犠牲になり、今年の死者数はここ十数年で最悪だ。

特に先月には、イスラエルの治安部隊が西岸ナブルスのパレスチナ人武装組織の拠点を急襲し、6人を殺害する事件が発生。パレスチナ人との衝突の懸念が高まっていた。

こうした政情不安が国民を、厳しいパレスチナ対策が期待できる極右支持に駆り立てることになった。またメディアが連日、極右の象徴的な存在である「ユダヤの力」のベングビール党首を取り上げたことも大きい。

同党首は昨年、東エルサレムのアラブ人の聖地「ハラム・シャリーフ」に集団で立ち入り、パレスチナ人と衝突した。この場所はユダヤ人にとっても「神殿の丘」と呼ばれる聖地だが、歴代政権はユダヤ人の立ち入りを抑制してきた。この衝突にパレスチナ自治区ガザのイスラム武装組織ハマスが参戦、11日間にわたる戦争の要因になった。

ベングビール氏は選挙でも、パレスチナ人を銃撃するイスラエル軍兵士の免責、国家に忠誠を誓わないパレスチナ人の国外追放、自治区西岸の併合などを主張、パレスチナ問題に強行方針を繰り返した。

そもそも同氏は人種差別主義を標榜した組織の出身。そのあまりの過激な言動で、イスラエル軍への入隊を拒否された経歴の持ち主だ。94年にパレスチナ人29人を殺害したユダヤ系米国人の肖像写真を長年自宅に飾っていたことも有名だ。

もう1人の「宗教シオニズム」のスモトリッチ党首は同性愛者憎悪で知られる人物。同性愛を禁じるよう主張している上、現職の首相に訴追が及ばないよう法改正を唱えており、汚職容疑で起訴されたネタニヤフ氏にとってはエールになっている。

ベングビール氏は政権入りした際には警察を統括する「公共治安相」を要求するとし、スモトリッチ氏も「国防相」のポストを求めている。(後略)【11月6日 WEDGE】
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話は、暴走しかねない“勝過ぎた”極右ベングビール氏やスモトリッチ氏を老獪なネタニヤフ氏がどのように処遇するのか・・・使えるだけ使って、適当なところで両極右を切り捨てて、穏健派と手を組むのでは・・・という政局予測にもなるのですが、そのあたりは今回はパス。

いずれにしても、極右勢力を取り込んだイスラエル史上対パレスチナ最強硬内閣がスタートすると見られています。
このことが、イスラエル・パレスチナの緊張関係を刺激して両者の衝突を惹起しかねいことは容易に想像できます。

【高まる不信感、復讐への思い 対決先鋭化】
イスラエル・パレスチナ社会の根底にあるのは、相互の不信、襲われるのではという不安、そして復讐です。

****極右台頭、ユダヤ人とアラブ系の対決先鋭化懸念****
イスラエルの国会総選挙では、ネタニヤフ元首相と連携するユダヤ人極右の政党連合「宗教シオニズム」が14議席を獲得、国会の第3勢力になる見通しだ。

極右の台頭は、パレスチナ人らアラブ系との緊張激化に対するユダヤ人の危機感の表れとも受け取れ、両者の報復の連鎖が先鋭化する恐れもある。

「過激派を抑えなくてはならない」「娘が襲われないか心配だ」。選挙戦の際にエルサレムで話を聞いた複数のユダヤ人が、パレスチナ人らによる襲撃を懸念していると話した。

パレスチナの若者の凶行は増加傾向にあり、イスラエル軍の掃討作戦も激しさを増している。英BBC放送(電子版)は10月初め、軍による占領地ヨルダン川西岸での過激派摘発が今年に入り急増し、百人以上のパレスチナ人が殺害されたとし、犠牲者の数が2015年以来で最多になる可能性があると報じた。

西岸のパレスチナ自治区ナブルスでは10月25日、「ライオンの巣」と称するパレスチナの新興武装組織の指導者(31)ら6人が急襲作戦で殺害された。この2日後に訪れた現場周辺には、指導者の死を悼むポスターが張られていた。

指導者の叔父だという男性(48)は「夜中の1時に銃撃戦が始まり、明け方まで続いた。葬儀には多くの人が参加した。若者の抵抗は続き、犠牲者はさらに増える」と断言した。

パレスチナ自治区ガザで取材に応じたイスラム原理主義組織ハマスのバセム・ナイム政治局長は、「私たちは(抑圧の下で)静かに死ぬことは受け入れない。新たな抵抗組織の登場は、世代を超えて戦い続けるというパレスチナの意志を示している」と強調した。

パレスチナ人らアラブ系は就職など多くの面で制約を受け、若者の間でイスラエルに対する怒りが鬱積している。ハマスがイスラエル軍と大規模な戦闘を展開した昨年5月には、停戦までの11日間にユダヤ人との間で500件以上の衝突が起きたとの報道もある。

当時、最も激しい衝突が起きた町の一つである中部ロッドのアラブ系男性(27)は「ユダヤ人の子供が私たちの家に×印をつけて回り、その後に家の窓や車が破壊された」と話した。一方、ユダヤ人の主婦(36)は「乗っていたバスに石が投げられ、すぐに友人の家に避難した」と振り返った。

どちらも相手の攻撃を受けたと主張して譲らず、「今も緊張が続いている」と口をそろえた。騒ぎが起きた直後、ユダヤ人とアラブ系双方の武装した民兵組織が乗り込んできて衝突に拍車がかかったと証言した人もいた。【11月4日 産経】
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【第2次インティファーダを知らない世代で新たな過激組織 新たなインティファーダの危険性】
パレスチナ側の今後を懸念させる事情としては、アッバス議長・自治政府の求心力が低下し、過去の武力闘争挫折を知らない若者らが上記記事にもある「ライオンの巣」といった新たな過激武装組織を結成していることです。

****パレスチナに生まれた武装組織「ライオンの巣」 武器を取る若者たち****
パレスチナ自治区があるヨルダン川西岸で、10~30代の若者が新たな武装組織を作り、イスラエル軍との戦闘を繰り広げている。

ヨルダン川西岸で起きた衝突による死者は今年、双方で130人以上に達し、第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)が終わった2005年以来の水準となる見込みだ。一体、何が起こっているのか。

高い若者の支持
10月25日、ヨルダン川西岸の都市ナブルス。イスラエル軍に殺害された武装組織の男性(31)の葬儀が営まれ、市中心部に数千人が集まった。「殉教者は神の祝福を受ける」「復讐(ふくしゅう)を!」。市民は遺体とともに街中を練り歩き、大声で叫んだ。

男性は、ナブルス周辺の若者で結成された新たな武装組織「ライオンズ・デン(ライオンの巣)」の幹部の一人だった。同日、弾薬庫として使っていた自宅で、イスラエル軍のミサイル攻撃を受けて殺害された。

ライオンズ・デンは今年8月以降、姿を現した。国際法違反とされるユダヤ人入植地付近で、イスラエル軍兵士を殺害したり、入植者を銃撃したりしてきた。グループに対する若者の支持は高い。

ナブルスに住む内装業、ムハンマドさん(19)は言う。「ライオンズ・デンは、イスラエルの侵略から我々を守ってくれる存在だ。友人は皆、彼らを支持している」。無職のジャワドさん(27)は「こちらが和平を望んでも、イスラエルは拒否するだけだ。勝てなくても、戦うしかないんだ」と強調する。

相次ぐテロ事件
第3次中東戦争があった1967年以降、パレスチナ人が多く住むヨルダン川西岸はイスラエルによる占領が続く。国際社会もパレスチナへの支援を減らしており、西岸では大学を卒業した20代の失業率は36%に達する。未来の見えない若者の閉塞(へいそく)感は強い。

イスラエルでは今年に入り、パレスチナ人らによるテロ事件が相次いだ。3月末には商都テルアビブでヨルダン川西岸ジェニン近郊のパレスチナ人が銃撃事件を起こし、5人が死亡。イスラエル軍はテロ撲滅のため、ジェニンやナブルスで大々的な掃討作戦を開始した。双方の衝突が続く中、ライオンズ・デンなど新たな武装組織が誕生し、戦闘は激化している。

シンクタンク「パレスチナ政策調査研究センター」のハリル・シカキ代表は、ライオンズ・デンを「これまでに例のない組織」と指摘する。

パレスチナには、パレスチナ自治政府の主流派ファタハの傘下にある軍事組織やガザ地区を支配するイスラム組織ハマス、過激派「イスラム聖戦」などの武装組織があるが、ライオンズ・デンは旧来の組織に所属していた若者らが、組織を超えて立ち上げた。

一方で、ハマスやイスラム聖戦も彼らを支援し、武器や資金を提供している。メンバーの中心は10~30代で、00~05年、双方の死者が4000人以上に達した第2次インティファーダをほとんど知らない世代だ。

パレスチナ当局への不信感
ではなぜ今、新たな組織が生まれたのか。殺害されたライオンズ・デン幹部の父、サビフさん(62)はこう語る。「パレスチナの武装組織は互いの方針が異なり、連携ができていない。息子は対イスラエルで団結できる組織を作ろうと思ったようだ」

背景には、和平交渉に消極的で、ヨルダン川西岸でユダヤ人入植地を拡大するイスラエルへの敵意と、状況を改善できないパレスチナ当局への強い不信感がある。

イスラエルは、右派が長い間実権を握っており、14年からパレスチナとの和平交渉を実施していない。パレスチナはヨルダン川西岸を統治する自治政府と、ガザ地区を支配するハマスに分裂し、双方の歩み寄りはみられない。自治政府は06年以降、選挙も実施しておらず、若者たちは政府に民意を反映する機会すら与えられていない。

中高年は、多くの犠牲を出しながら、イスラエルによる占領を変えられなかった第2次インティファーダを経験し、武装闘争に否定的な人も多い。だが当時の記憶が少なく、自治政府に絶望した若者たちは、再び武力に頼ろうとしている。

インティファーダ再びか
イスラエルのシンクタンク「メイル・アミット諜報(ちょうほう)テロリズム情報センター」のシュロモ・モファズ理事長は、戦闘激化の理由について「自治政府の弱体化にも原因がある」と指摘する。

イスラエルはヨルダン川西岸を占領しているが、ナブルスなどの都市部は自治政府の統治下にあり、自治政府がイスラエルと連携して治安を担う。だが、自治政府のアッバス議長(87)は高齢で健康問題を抱え、求心力が著しく低下。治安部隊は一部都市で職務を放棄しているほか、隊員が武装組織側に加わるケースもある。そのため、イスラエル軍がテロを防ぐために都市部に侵入、武装組織が対抗する形になっている。

またモファズ氏は、21年5月の戦闘で被害を受け、復興途上にあるガザを攻撃されるのを嫌うハマスが、西岸での戦闘を「あおっている」とも指摘する。

西岸の治安悪化などを受け、イスラエルでは、今月の総選挙でパレスチナに強硬姿勢を示す右派陣営が勝利した。政権入りが予想される極右政治家はパレスチナ人の「追放」を主張しており、西岸での戦闘がさらに激しくなる可能性がある。

シカキ氏は今後について強い懸念を示す。「未来のない若者が武器を手に取るのは、社会的な現象だ。現在はヨルダン川西岸の(北部にある)ジェニン、ナブルスで戦闘が起きているが、次第に西岸全体、そしてエルサレムにも広がるだろう。新たなインティファーダが起きる可能性も否定できない」【11月22日 毎日】
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新たなインティファーダが起きる可能性・・・イスラエル・パレスチナ双方ともこれまでの経験で得たのは不信と憎悪だけで、新たな時代に向けての教訓は得られていないようです。
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