孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  5月14日に大統領・議会選挙を前倒し実施 内政・外交、全ては選挙に向けて・・・

2023-01-28 23:25:35 | 中東情勢

(「今日(または今度の日曜日に)選挙があればどの党に投票しますか」との問いに対する回答【1月 間 寧氏 JETRO】)

【悪化するスウェーデンNATO加盟をめぐる状況 トルコ・エルドアン大統領は選挙を意識して強硬姿勢】
スウェーデン、フィンランドの北欧2ヶ国のNATO加盟問題はトルコが両国の対クルド人対策をめぐって加盟に同意を示しておらず、停滞しています。

特に、多くのクルド人を抱えるスウェーデンの状況は難しさを増しています。
スウェーデンは1990年代以降、多くのクルド人武装勢力PKK関係者らの政治亡命を受け入れてきており、スウェーデンのクルド人は約10万人とされ、多くがトルコ出身者です。

そのスウェーデンのクルド人社会では、スウェーデンのクルド人への寛容政策に、NATO加盟を承認を見返りとする圧力をかけるトルコ・エルドアン大統領への批判・不安が強まっています。

****クルド人団体がエルドアン氏逆さづり動画 トルコ、スウェーデンに抗議****
スウェーデンに拠点を置くクルド人団体がトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領を逆さづりにする動画を投稿したことを受け、トルコ政府は12日、スウェーデン大使を呼び出して厳重に抗議した。(中略)

クルド人団体は11日、第2次世界大戦中のイタリアの独裁者ベニト・ムソリーニの処刑写真と、エルドアン氏を模した人形が逆さづりになっている場面を映した動画をツイッターに投稿。

「独裁者の末路は歴史で示されている」「エルドアンは今こそ辞任する時だ。(トルコ・イスタンブールの)タクシム広場で逆さづりにならないようこの機に辞任せよ」とキャプションを添えた。【1月13日 AFP】
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一方のエルドアン大統領は、むしろハードルを高くする強硬姿勢を示しています。

****トルコ大統領「テロリスト130人送還必要」、北欧2国NATO加盟へ***
トルコのエルドアン大統領は、同国議会が北欧スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を批准する前に、両国が最大130人の「テロリスト」をトルコに送還もしくは引き渡す必要があるという認識を示した。

フィンランドとスウェーデンは昨年、ロシアのウクライナ侵攻を受け、NATOへの加盟を申請。両国の加盟に当初難色を示していたトルコは、同国がテロ組織と見なすクルド人勢力の身柄引き渡しなどを条件に承認する考えを示していた。(後略)【1月17日 ロイター】
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エルドアン大統領の高圧的態度はスウェーデン国内の極右勢力をも刺激して事態は更に悪化。ストックホルムでは21日、極右政治家がデモを行った際にコーランを燃やし、トルコ側が「完全なヘイトクライムだ」と猛反発しています。

****トルコ大統領、コーラン焚書に怒り スウェーデンのNATO加盟に暗雲****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は23日、スウェーデンの首都ストックホルムにあるトルコ大使館前で聖典コーランが燃やされた「事件」を受け、スウェーデンは北大西洋条約機構への加盟でトルコの支持を「期待すべきではない」と警告した。

今回のエルドアン氏の警告発言で、スウェーデン、フィンランド両国のNATO加盟実現への見通しは一段と不透明になった。

事件は21日、反イスラムを掲げる政治家ラスムス・パルダン氏によって起こされた。同日、トルコ大使館前ではデモが行われていた。トルコ側はデモに反対していたが、スウェーデンの警察当局が許可した経緯がある。

パルダン氏の行動をめぐっては、スウェーデン国内でもこれまでたびたび非難されてきた。その一方で、政治指導者らは広範な表現の自由を擁護している。

スウェーデン、フィンランド両国はロシアのウクライナ侵攻を受け、NATOへの加盟を申請。NATO加盟国ではトルコとハンガリーの承認がまだ得られていない。
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は先に、来月の議会で両国の加盟を批准する予定だと語っている。【1月24日 AFP】AFPBB News
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スウェーデンのクリステション首相は24日に記者会見を開き、ロシアの脅威があるなかで北大西洋条約機構(NATO)に加盟する重要性について「国民全員に深刻さをわかって欲しい」と訴え、事態の鎮静化を求めています。

一方、エルドアン大統領は“23日の閣議で、「8500万人のトルコ国民の精神的な個性に対する攻撃だ」と非難。「(トルコ)大使館の前でこのような恥辱を許した者はNATO加盟において、もはや我々の支持を期待できないのは明らかだ」と怒りをぶちまけた。”【日系メディア】と怒っていますが、“トルコでは今年5月に大統領選が予定されており、敬虔なイスラム教徒の支持者も多いエルドアン氏は選挙に向けて簡単には妥協しない可能性もある。”【同上】というように、トルコ国内の大統領選挙への影響が絡んでいます。

エルドアン大統領が強硬姿勢を崩さないのは、そうした“強い姿勢”を国内向けに示すことが、国内保守層をまとめるのに有利だとの判断があってのことでしょう。

ということは、大統領選挙が終わるまではエルドアン大統領の譲歩は期待できず、スウェーデンのNATO加盟も進まない・・・ということにもなります。

なお、スウェーデンとの同時加盟を目指しているフィンランドでは、こじれるスウェーデン・トルコ関係を受けて、“フィンランドのペッカ・ハービスト外相は24日、同国は北大西洋条約機構に、スウェーデンと共にではなく、単独での加盟を検討すべきだと述べた。”【1月24日 AFP】といった、単独先行加盟の話も出てきています。

【深刻な国内経済情勢悪化 増加する貧困】
エルドアン大統領がことさらに外交的成果を必要としているのは、国内経済の悪化から国民の目をそらしたいという狙いがあってのことです。

トルコではある切ない動画が、現在の国民の経済苦境を物語るものとして話題になったようです。
後日、この動画はそのような貧困を表すものではなかったということが判明していますが、大統領選挙を控えた“政治の季節”の世相を反映した騒動のようにも。

****深刻さを増すトルコの貧困 ‐ 脱却はあるか****
数日前の 1 月 20 日はトルコの学校 (小・中・高) で 1 学期が終了した日で、生徒たちに通知表が配られました。現在、生徒たちは 2 週間の冬休み休暇中。トルコでは通知表が配られる学期末というのは大きなイベントで、多くのトルコ人の子供たちにとっては成績が良かったら親からプレゼントやお小遣いをもらえる日でもあり、家庭によってはちょっと豪華な食事にしたりする日でもあります。

そんな特別な日に、とあるお肉屋さんを舞台にしたある短い動画がトルコのソーシャルメディア上で炎上しました。小学校低学年の可愛い少年がお母さんとお肉を買いに来たところ、「通知表のプレゼントには何をもらうの?」とレポーターに質問され、「通知表のプレゼントにママはお肉 (et) を買った」と答えました。そしてお肉屋さんがこの子供に 3 本のラムチョップをプレゼントするところまでが動画で流されました。

ソーシャルメディア上では、この少年の短い答えはトルコの貧困や窮状を如実に表している、つまりトルコではお肉はもはや特別な日にしか食べれない高級品になってしまって、そうそう食べれない子供が増えている、という嘆きの声がたくさん上がりました。(中略)

野党の政治家たちによってこの少年の言葉が引用されたことで、その動画が Twitter 上でリツイートされ、「トルコはどうなってしまったのか」「トルコの窮状をみよ」という現状への批判の声が大きくなりました。

しかし後に明らかになったのは、実はこの少年の家庭は貧しくなく、父親は大企業に勤めていて月に何度もお肉を買いに来ているという事実です。その後改めてこの少年と母親にインタビューがなされ、この少年は実は父親からタブレットをプレゼントされていたことが分かりました。(中略)

こうした真実が歪曲された報道は、迫る大統領選挙に向けて与野党が攻防を繰り広げている現在のトルコの世相を如実に表しているといえるかもしれません。

しかしトルコの貧困が深刻度を増していることは事実です。約 1 か月前にトルコ労働組合連盟 (Turk Is) が行った調査はそれを物語っています。

この調査で示されているのは、hunger line (飢餓線または空腹線というのでしょうか) と poverty threshold (貧困線)。4 人家族が暮らすうえで最低限必要とされる金額が提示されています。

例えば、4 人家族が飢えずに何とか食べれるとされる最低金額 (飢餓線) は 8130TL。2023 年 1 月現時点の最低賃金は 10,008TL です (手取りは 8506TL)。実はこの最低賃金は今月から上がったものです。昨年 12 月つまりほんの 1 か月ほど前には最低賃金は現在の約半額の 5500TL だったのです。ということは、飢餓線を下回る金額で多くのトルコ人家庭が過ごしていたということです。

最低賃金が値上げされたとはいえ、インフレ率が 170% ともいわれている現状では物価の上昇のスピードのほうがはるかに速く、焼け石に水であることも否定できません。

さらにこの報告によると、4 人家族の貧困線は 1 か月で 26481TL だといわれています。貧困線とは「統計上、生活に必要な物を購入できる最低限の収入を表す指標。それ以下の収入では一家の生活が支えられないことを意味する。貧困線上にある世帯や個人は、娯楽や嗜好品に振り分けられる収入が存在しない」と定義されています。

この 26481TL という金額は、現在の最低賃金の実に 3 倍以上です。実はトルコの人口の約 90% が貧困だともいう報告もあります。これは少し大げさなのではないかと思いますが、それにしてもトルコの貧困率は毎月上がっているといえます。

このすべてがここ 2 年弱で起きているので、このスピードの速さに誰もがついていけていないのが現状です。もちろん一部の富裕層を除いては。(中略)田舎に行けば行くほど貧困率も上がります。

「チーズ危機」も現在大きな問題になっています。昨年 12 月のことですが、チーズの値段が赤身のお肉の値段を越えたと報道されていました。ある記事によると、執筆時点で 700 グラムのチェダーチーズが 115-165 TLで売られていました。対して牛ひき肉は 110-150 リラだったということです。チーズがお肉より高くなるのはトルコの歴史上初めてのこと。

その理由というのが、経済危機で牛に餌をやることができないため。トルコは飼料を輸入に頼っているようで、リラ安ドル高に伴い価格が急騰しています。ここ半年ほどの間に 200 万ほどの乳用牛が殺処分されているそうです。そのためもはや牛乳が手に入りにくくなり、連動してチーズの値段が高騰しているのだということです。(後略)【1月25日 Newsweek】
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【大統領選挙 前倒し実施 エルドアン大統領にもっとも有利なタイミングで】
エルドアン大統領は大統領選挙の前倒しして、5月14日に実施することを発表しています。

****野党の統一候補擁立が焦点=トルコ大統領選、5月14日実施****
トルコ大統領府は22日、エルドアン大統領が今年前半に予定される大統領・議会選挙を5月14日に行う意向であると明らかにした。

20年以上にわたり政権を率い、続投を目指すエルドアン氏に対抗できる統一候補を野党連合が擁立できるかどうかが、当面の焦点となる。(中略)

トルコでは大統領、国会議員とも7月に5年間の任期満了を迎え、選挙を6月18日までに行う必要がある。最大野党の共和人民党(CHP)など6党で構成する野党連合は、統一大統領候補の擁立を視野に政策の擦り合わせを進めており、エルドアン氏が投票日を示唆したことで調整が加速しそうだ。【1月23日 時事】 
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当然ながら、エルドアン再選に最も有利なタイミングでの選挙実施、その時期に合わせたバラマキ政策、対外的なアクションの配置などを考慮しての時期決定です。

****エルドアンの巻き返し――選挙前トルコの政治経済****
(中略)
為替・所得政策
2021年12月にトルコリラ為替相場が1ドル12リラから一時は18リラにまで下落した。エルドアンはそれまで為替相場下落を「リラ切り下げによる輸出拡大」という理屈で正当化していたが、通貨危機の再発を恐れて為替相場維持に転じた。

政府が窮余の策として為替相場下落分が補填されるトルコリラ定期預金(「為替保護預金」)を導入すると為替相場は同月末までに12リラにまで「回復」した。ただしその裏では、中央銀行が国営銀行を仲介として数十億ドルの外貨準備を費やして為替介入していた。

エルドアンはまた、インフレに伴う実質所得低下にも遅ればせながら対応した。最低賃金手取額のドル換算値は、2020年初に420ドルだったが、2021年末の急速なインフレで同年12月に228ドルにまで落ち込んだ。それを2022年1月に50%、7月に30%の、異例の年2回引き上げを実施した1。それでも7月の328ドルという値は、2020年初に比べてまだ92ドル少ない。(中略)

これらの経済措置の実施や発表に加え、夏の外国人観光客回帰による経済活性化も消費者信頼指標の若干の改善に貢献した。すると7月以降、それまで低迷していた与党連合の支持率やエルドアン大統領の業績に対する信任率は若干ながら持ち直してきた。

ただし(中略)経済措置のエルドアン支持押し上げの効果は3カ月程度続くものの、年末に消滅するかに見える。その場合、エルドアンは2023年初めにもう一度、大幅な最低賃金引き上げなどにより支持率浮揚を狙う可能性が高い。

賃金引き上げは製品価格への転嫁を通じてインフレに拍車を掛ける可能性も大きい。ただし、(中略)賃金を大幅に引き上げてもそれが3桁インフレをもたらすまでに若干の時間的猶予がある。(中略)

硬軟両様の対外関係
エルドアンは2022年11月13日にイスタンブルの繁華街で起きた爆弾テロ事件をも利用した。彼は事件をクルディスタン労働者党(PKK)による犯行と断定し、北シリアにおけるPKK系組織の拠点に対して報復の空爆を行ったうえで、地上戦を予告した。

PKKはトルコにおけるテロ組織だが、トルコ軍の攻撃を避けられる北シリアにクルド民主統一党(PYD)という名のPKK系組織を作り、勢力を拡大してきた。そのためPYDへの軍事作戦は国内世論の支持を得やすい。

対外強硬姿勢や仲介外交などによる国威発揚は、支持率を通常3ポイント程度上げるが、その支持率浮揚効果は1カ月くらいしか続かない。北シリアのPYDを目標とした地上戦が実施される場合、繰り上げ選挙前1カ月以内、たとえば3月頃になるのかもしれない。(後略)【1月 間 寧氏 JETRO】
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【ライバルのイスタンブールのイマモール市長への政治迫害 野党側は統一候補選定に苦慮】
エルドアン大統領にとって、より直接的な選挙対策は、有力対立候補を選挙から排除してしまうことです。
また、どの候補が野党統一候補になるかで、選挙結果が変わります。

****エルドアン氏の対抗馬探し混迷、野党有力候補に有罪判決****
トルコの裁判所が14日、最大都市・イスタンブールのイマモール市長(52)に対し公務員を侮辱した罪で禁錮刑と政治活動禁止の判決を言い渡したことで、野党勢力は大統領選を半年後に控えたこの時期に、エルドアン大統領の対抗馬探しで窮地に立たされている。

次期大統領選は、20年近く政界を牛耳ってきたエルドアン氏を追い落とす絶好の機会だ。協和人民党(CHP)など野党6党は、来年の選挙に向けて政策のすり合わせに努めてきた。

ただ、複数の関係筋によると、野党内では候補者について意見が割れたまま。この課題についてオープンな議論さえ始まっておらず、インフレやリラ安、生活水準の急激な低下で落ち込んだ支持を取り戻そうと焦るエルドアン氏に塩を送る形になっている。

14日の判決の確定には上級審の承認が必要だが、そうした野党側の状況下で有力候補の1人とされてきたCHPのイマモール氏は政治生命に黄信号が灯った。

元ビジネスマンのイマモール氏は2019年のイスタンブール市長選で勝利し、世俗派として25年ぶりに与党・公正発展党(AKP)などの親イスラム政党からイスタンブール市長職を奪回した。今回の判決はイマモール氏の注目度を高める面もある。(中略)

エルドアン氏の対抗馬としては、アンカラ市長のヤワシュ氏とCHP党首のクルチダルオール氏の2人が候補に挙がっている。クルチダルオール氏は繰り返し出馬の意向を表明しているが、イマモール氏に比べて選挙戦が不得手との見方もある。

サバジュ大学のBerk Esen准教授(政治学)は「今回の判決でイマモール氏がエルドアン氏の最も苦手なライバルであることが浮き彫りになった」と指摘。「野党勢力と野党支持の有権者は、イマモール氏の立候補を求め圧力をかけ始めるだろう」と述べた。(後略)【2022年12月17日 ロイター】
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イマモール・イスタンブール市長への政治的迫害で、同氏の人気が上昇することはエルドアン大統領も承知していますが、それよりイスタンブール市長をとりあえず(議会承認で)与党が取り戻す事の方が選挙に有利で、うまくいけばライバルを選挙から排除できる・・・という狙いです。(イスタンブール市長職は与党の選挙資金調達や支持基盤の宗教勢力への財源分配などで重要な役割を果たしているとのことです。)

野党からすれば、敢えてイマモール・イスタンブール市長で押すという強行策もあります。
その場合、選挙直前または最中に有罪判決が下る可能性は高い。するとイマモール氏の候補または当選結果が無効となるうえ、代わりの候補を擁立できないという危険はあります。
しかし、エルドアン氏が信任投票で過半数を獲得するのも難しい。そうなると再選挙になって、野党側は新たな候補を擁立できる・・・という戦略です。

なお、一番人気のアンカラ市長のヤワシュ氏はクルド人有権者の支持が多くは見込めない欠点があるとか。

クルド人有権者の動向という点では、(クルド系政党)HDP元党首のデミルタシュ氏(現在は政治的裁判の結果、2016年以来投獄されている)が、獄中からCHP党首クルチダルオール氏への支持を、メディアを通じて2022年9月に暗示しています。

イマモール・イスタンブール市長の裁判の動向をどう見込むか、クルド人有権者の取り込みをどのように図るか・・・等々で、野党側も誰を統一候補にすべきか悩ましいところのようです。
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