孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ最高裁、判断変更で州ごとの中絶規制を容認 ブラジル大統領、11歳少女のレイプ妊娠中絶を非難

2022-06-25 23:25:31 | アメリカ
(24日、ワシントンの連邦最高裁前で、プラカードを掲げる中絶賛成派と反対派の人たち【6月25日 ヨミドクター】
「ショックで、恐ろしい判決だ。まるで女性が人間ではなく、子どもを産む道具だと言われているような気がする」と話し、涙をこぼす東部マサチューセッツ州女性の一方で、「最高裁が正しい判断をしたことをうれしく思う。命は神からの贈り物だから」と喜ぶ南部テキサス州女性も)

【バイデン大統領「悲劇的な過ちだ」 トランプ前大統領は「功績」をアピール】
アメリカで人工中絶に関する最高裁判断がおよそ半世紀ぶりに変更され、州ごとの中絶規制を容認する判断が示されたのは周知のところ。

****バイデン氏、中絶の権利認めぬ判決に「悲劇的な過ちだ」「最終決定であってはならない」****
米連邦最高裁は24日、人口妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の判決を半世紀ぶりに覆す判決を言い渡した。「憲法は中絶の権利を付与していない」と判断した。

米国内で中絶への賛否が割れる中、最高裁が中絶に否定的な保守派の意向に沿った判断を示したことで、リベラル派との分断がさらに深まるのは必至だ。11月の中間選挙にも影響する可能性が高い。

連邦最高裁は1973年の判決で、中絶を女性の憲法上の権利と認め、胎児が子宮外で生存できるようになる妊娠22〜24週目頃までの中絶を事実上容認した。

最高裁は今回、妊娠15週目頃以降の中絶を禁じたミシシッピ州法の合憲性巡る訴訟を審理していた。この日の判決で「憲法は中絶に何ら言及しておらず、73年の判決は誤りだ」と指摘。州ごとの中絶規制を容認し、ミシシッピ州法の規制を合憲と結論付けた。

最高裁は現在、ジョン・ロバーツ長官を含む9人の判事のうち、共和党のトランプ前政権時代に任命された3人とロバーツ長官を含む6人が保守派だ。同州法を合憲とすることには、6人全員が賛成する一方、73年の判決を覆すことに対しては5人が賛成し、ロバーツ長官が反対した。リベラル派3人はいずれも反対した。

中絶を巡っては、南部の保守的な州を中心に厳しく制限する州法の制定が相次ぐ。73年の判決を根拠に裁判所が施行を差し止めるなどしていたが、中絶規制は今後、各州の立法に委ねられる。米紙ニューヨーク・タイムズによると、全米50州のうち、中絶が禁止されるか、厳しく規制される州が少なくとも21州に上る可能性があるという。

米国で中絶は政治問題化している。中絶賛成派は与党・民主党を、反対派は野党・共和党を支持する傾向があり、11月の中間選挙でも主要な争点となるとみられる。

バイデン大統領は24日、ホワイトハウスで演説し、「最高裁は憲法上の権利を米国民から取り上げた。悲劇的な過ちだ。これが最終決定であってはならない」と判決を批判し、中絶賛成派に投票を呼びかけた。【6月25日 読売】
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上記記事にもあるように、最高裁判断が変わった直接の契機はトランプ前政権が実現した保守派判事を送り込むという「政治的成果」にあります。

****トランプ氏が「功績」アピール、最高裁の中絶禁止容認で****
トランプ前米大統領は24日、連邦最高裁が憲法判断を49年ぶりに覆し、州による中絶禁止・制限を容認したことを受けて声明を発表し、「(プロ)ライフ(=中絶反対派)にとって最大の勝利だ。(大統領就任前の)公約を実現し、最高裁判事に3人の強力な立憲主義者を指名したことで可能になった」と自らの“功績”だとアピールした。

トランプ氏は2016年の大統領選で、女性が中絶を選ぶ権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆すことを支持し、中絶反対派を最高裁判事(定員9人)に指名すると公約していた。トランプ氏自身は実業家時代は中絶容認派だったが、共和党が中絶反対派の支援を受けていることもあり、主張を変えた経緯がある。

24日の最高裁判決では、トランプ氏が指名した保守派の判事3人全員が中絶禁止容認を支持した。最高裁判事は、大統領の指名と上院の承認によって選ばれる。近年は超党派の幅広い支持を受けて選ばれるケースが減り、判事の「政治色」が強まっている。【6月25日 毎日】
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民主党の大統領によって指名された3人のリベラル派の判事は対意見のなかで妊娠中絶の権利を認めた判例は「女性を自立した存在として認め、完全な平等を与えた」としたうえで、胎児の権利とのバランスをはかったと指摘。

今回の判決については「そのバランスを捨てる。受精の瞬間から、女性には権利がなく、どのような代償を払ってでも出産を強制させることができるとの立場だ」と強く非難しています。

また、中絶の権利が半世紀にわたって定着し、他の権利にも波及していると主張。「権利が認められて以来、何も変わっていない。法律も事実も態度も、異なる結論に至る理由を示していない。ただ、この裁判所が変わっただけだ」と述べています。

今回の事態は、トランプ前政権時代の判事任命で予想されていたことであり、その判断変更は事前にリークされ、ほぼ確定していたとも言えます。


【国論が割れる問題を誰がどのように判断するのか?】
アメリカでは、今回の人工中絶にしても、あるいは銃規制や医療保険制度にしても、国民を分断する重大な問題が、議会や大統領ではなく、最終的には最高裁判断で決着するという政治システムです。

「三権分立」と言えば聞こえはいいですが、その実態は前述のような「政治的」な判事任命で決まってしまうとも言え、司法のあり方、「三権分立」のあり方に対する疑念も拭えません。形の上で司法に委ねることで、政治的判断でないことを偽装している・・・という感も。

****米連邦最高裁の信頼度 過去最低****
調査会社「ギャラップ」が、今週23日に発表した世論調査の結果によりますと、アメリカで連邦最高裁を信頼する人の割合はこれまでで最も低くなっています。

調査は先月、アメリカの一部メディアで、連邦最高裁が中絶の権利を認めた過去の判断を覆す見通しであることを示す文書が報じられたあとの今月1日から20日にかけて行われました。

それによりますと、連邦最高裁について「非常に信頼している」、または「かなり信頼している」と回答した人は、合わせて全体の25%にとどまりました。これは去年に比べて11ポイント低く、1973年に調査を始めてから最も低くなったということです。

支持政党別で見ると、リベラル層が中心の民主党支持者の間で17ポイントと大きく下がった一方、保守層の多い共和党支持者では2ポイント上がっています。

調査では、連邦最高裁が中絶をめぐる過去の判断を覆した場合、アメリカ国民からの信頼がさらに下がる可能性がある一方、新たな判断の理由について国民が納得すれば、上がる可能性もあると指摘しています。【6月25日 NHK】
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ただ、誰かが、なんらかの方法によってか判断しないといけない・・・それが最高裁なのか、議会か大統領なのかという違いだけで、主張を否定された側にとって「不当な判断だ」と納得できないという点では大差ないかも。

そこをクリアするためには、人間ではない神の判断に委ねるしかなく、神が判断してくれないなら、人間的な思惑に左右されない人工知能(AI)の判断に委ねるという近未来ディストピアもあながち否定できないのかも・・・。

人工中絶に関しては、アメリカ国民世論の大勢は現状どおり容認する方向にあります。

****世論調査 中絶は「合法」が61%****
世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」が、1995年から行っている調査によりますと、アメリカでは人工妊娠中絶を「合法とすべき」だと考える人の割合が、「違法とすべき」だと考える人の割合を一貫して上回っています。

今月発表された最新の世論調査でも、「すべての場合で合法とすべき」と「ほとんどの場合で合法とすべき」を合わせると61%で、「すべての場合で違法とすべき」と「ほとんどの場合で違法とすべき」を合わせた37%を大きく上回りました。

支持政党別で見ると、「合法とすべき」と回答したのは民主党支持者では80%だったのに対し、共和党支持者では38%にとどまり、支持政党による違いがはっきりと表れています。【6月25日 NHK】
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****米民主党、妊娠中絶政策で支持集める=世論調査***
ロイター/イプソスの世論調査によると、米国では人工妊娠中絶について、共和党の政策よりも民主党の政策を支持する有権者が多かった。共和党員の5人の2人は、同党の中絶政策を支持しないと回答した。 調査は今月16─23日に実施した。

連邦最高裁が中絶の権利を認めた1973年のロー対ウェイド判決を覆す可能性が指摘される中、有権者の間で不安が広がっていることが浮き彫りとなった。 

調査対象の成人4409人のうち、34%は民主党の中絶政策を支持すると回答。共和党の中絶政策を支持するとの回答は26%だった。残りの回答者は「どちらも支持しない」もしくは「分からない」と答えた。 

61%の有権者(共和党員の38%、無党派の39%)は、中絶を禁止したり厳格に制限する法案を支持する候補に投票する可能性は低いと回答した。【5月27日 ロイター】
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こうした世論の動向と今回最高裁判断にギャップがあることが問題と言えばそうも思えますが、ただ、「じゃ、世論調査、あるいは国民投票で決めるのがベストか?」と問われれば、様々な要素・影響等がある問題について国民が正しく判断できるのか・・・という疑問も。

国民の意見が割れる問題を、誰がどのように決めるべきか・・・という民主主義の根幹に関わる話でもあり、難しいところ。
敢えて言えば、声が大きい者の意見が通りやすいという点で、現実の民主主義システムには「ゆがみ」もあるようにも。

【全世界での「意図しない妊娠」は全体の妊娠件数のおよそ半数という現実】
中絶の是非をめぐる問題で、その中身に関する部分で言えば、下記のような現実をどのように考えるのか・・・ということがあります。

****世界の「意図しない妊娠」全体の約半数の年間1億2100万件****
国連人口基金は30日、全世界での「意図しない妊娠」の件数は全体の妊娠件数のおよそ半数にあたる年間1億2100万件にのぼることを明らかにしました。

国連人口基金は30日子どもを望んでいなかった時に妊娠したり希望より早く妊娠してしまう「意図しない妊娠」についての報告書を発表しました。

報告書によると、2015年から19年にかけて、「意図しない妊娠」は毎年1億2100万件で全体の妊娠件数の48%を占めるということです。

さらに「意図しない妊娠」のうち61%が中絶に至っているということです。

中絶件数のうち推定で45%が「安全でない中絶」で、発展途上国では年間700万人の女性が入院するなどしていて報告書は「公衆衛生上の緊急事態」だと指摘しています。

また「意図しない妊娠」は全世界の15歳から49歳の女性の6点4%が経験していて、ジェンダーの不平等が大きい国ほどその割合が高くなっているということです。

国連人口基金は「意図せぬ妊娠」の増加は「女性と女児の基本的人権を守るための世界的な失敗を表している」と警鐘を鳴らした上で、ウクライナをはじめとする世界各地の紛争や危機で、避妊ができなくなったり性的暴行が増えたりすることで「意図しない妊娠」がさらに増加することを懸念しています。【3月31日 日テレNEWS24】
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「意図しない妊娠」に対し“受精の瞬間から、女性には権利がなく、どのような代償を払ってでも出産を強制させる”というのが、胎児の権利とのバランスで“正しい選択”と言えるのか?という疑問があります。

【ブラジル 11歳少女のレイプ妊娠 法に反し中絶を妨げた判事 中絶を非難する大統領】
「意図しない妊娠」の最たるものがレイプによる妊娠でしょう。今回最高裁判断によって、州によってはそうした妊娠の中絶も認められないことにもなります。

カトリックの影響が強い中南米では妊娠中絶に厳しい国が少なからずありますが、昨今はアメリカとは逆に規制を緩める傾向にあります。

そうした中で最近話題になっているのがブラジルの案件。

****性暴力で妊娠した11歳の少女に「もう少し我慢を」。中絶を認めなかった判事に波紋 ブラジル****
ブラジルの裁判所の判事が、レイプに遭って妊娠した11歳の少女に対し中絶を認めない判断を下したことをめぐって、波紋が広がっている。

ニューズウィークなどによると、当時10歳だった少女は2022年初めに自宅で性暴力を受けた後、妊娠が判明した。
少女側の代理人弁護士によると、妊娠に気づいた時にはすでに22週を迎えていたという。

少女は母親の付き添いのもと、ブラジル南部のサンタカタリーナ州の病院で診察を受けたが、医師は少女が妊娠22週であることから中絶手術を拒否した。病院の院内規定では、中絶手術は20週までの人にしか行えず、その上裁判所による許可を必要としていたという。

少女の中絶手術の可否は司法判断に委ねられたが、担当の判事は中絶を認めなかったと報じられている。

「産みたくない」と伝えていた
AP通信によると、判事は5月の審理で加害者を「赤ちゃんの父親」と呼んだほか、少女に対して赤ちゃんを救うために「(中絶を)もう少し我慢してみては」と求めたり、名前を決めるよう勧めたりする姿が撮影されていた。少女は「産みたくない」と繰り返し伝えていたという。

少女は女性用シェルターで保護されたが、その間も中絶手術は認められなかった。その後自宅に戻ることを認められたが、現時点での中絶の可否は明らかになっていない。

ブラジルでは、女性の生命の危険が伴うケースや、レイプや近親相姦による場合を除き、妊娠中絶は犯罪とされている。

今回の性暴力事件をめぐり、現地の警察と検察は少女の親戚が容疑者であると主張している。
レイプで妊娠した少女が合法的に中絶するのを妨げた可能性があるなどとして、人権団体などはブラジルの司法評議会に対しこの判事の解任を要求。司法評議会は6月21日、判事の調査を開始したことを発表した。

判事は22日の声明で、「違法にリークされた(少女への)聞き取りの内容について話すことはない」との見解を示した。その上で「子どもへの正当かつ完全な保護を保証するため」、今回の事案に関してコメントをしないとしている。

判事を擁護する意見も
判事の決定に憤りの声が上がる一方で、22週という妊娠週数と母体保護の観点から、中絶を認めなかった判事を擁護する意見もある。中絶反対派の中には、同国の保健省の勧告が中絶を20〜22週までに制限するよう求めていると主張する人もいる。

これに対し、少女の代理人や他の弁護士らは、女性の命の危険がある時やレイプ被害者の場合には法律上、妊娠週数の中絶制限に関して規定がないと訴えている。

世界では多くの国で中絶規制を緩和する動きが進む一方で、中絶の条件を厳格化する国や、無条件で禁止する国も少なくない。(後略)【6月23日 ハフポスト日本版】
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この少女は女児はシェルターで保護されていたが自宅に帰り、22日に中絶手術を受けたとのことですが、“ブラジルのトランプ”とも評されるボルソナロ大統領は、この中絶について「容認できない」としています。

****レイプされた11歳女児の中絶「容認できない」 ブラジル大統領****
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は23日、レイプされて妊娠した11歳の女児が人工妊娠中絶手術を受けたことについて、「容認できない」と非難した。

地元メディアによると、女児は長い法的手続きの末、今週ようやく中絶手術を受けた。
ブラジルでは、レイプによる妊娠、母体に危険が及ぶ場合、または胎児に異常がある場合のみ中絶が認められている。だが、女児が最初に受診した病院は、規定では20週までしか手術が行えないとして、裁判所に決定を委ねていた。

女児の訴えは国内で波紋を呼び、「子どもは母親ではない」というスローガンがSNSで拡散した。

極右のボルソナロ氏は「妊娠7か月の胎児にとっては、どのように妊娠したかとか、(中絶が)合法とかは関係ない。無力な存在の命を奪うのは容認できない」とツイッターに投稿。女児への中絶手術を「虐待」と呼び、調査を命じたと明らかにした。

同氏は、一人で決められるなら中絶を全面的に禁じたいという主張を以前から繰り返してきた。

女児がボルソナロ氏の言うように妊娠7か月だったのか、AFPは現時点では確認できていない。 【6月25日 AFP】*********************
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