孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  中国との経済関係は重視しつつも、安保では強い姿勢も イスラム主義的傾向と過激派

2020-11-29 22:33:33 | 東南アジア

(【1月9日 毎日】)

 

【米中対立のはざまで、日米を利用して中国をけん制】

激しく対立する米中のはざまで、多くの国がその立ち位置に苦慮しているのは周知のところ。

 

多くの国にとって、中国との経済関係は極めて重要なものとなっている一方で、安全保障面で見ると、中国の強引な拡張姿勢は座視できないものがあります。

 

特に、東南アジア諸国の多くは、中国との経済関係は自国経済を左右する重要課題ですが、南シナ海における領有権という具体的問題も抱えていますので、中国との関係の扱いは一筋縄ではいかないものがあります。

 

*****インドネシア、米中の板挟み 訪問のポンペオ氏が中国名指し批判 「駒」扱い警戒****

インドネシアのジョコ大統領は(10月)29日、ジャカルタ郊外でアジア歴訪中のポンペオ米国務長官と会談した。ポンペオ氏はベトナムも訪問する。菅義偉首相も初の外遊先として10月にインドネシアとベトナムを訪問。

 

日米には、インドネシアを含む東南アジア諸国連合(ASEAN、加盟10カ国)と連携を強化し、中国をけん制する狙いがある。一方、ASEAN諸国には、頭越しに議論が進んで、対中政策の駒にされることへの警戒感が生まれている。

 

「自由で開かれたインド太平洋」構想を主導する日米は、オーストラリアとインドを加えた4カ国の結束を強めるのと同時に、ASEANを取り込もうと躍起になっている。シーレーン(海上交通路)である南シナ海での軍事拠点化を進める中国をけん制するのが目的だ。

 

ポンペオ氏はジャカルタでの記者会見で「法を順守する全ての国家は、中国共産党による南シナ海での違法な主張を拒否する」と述べ、中国を名指しで批判。28日にも訪問先のスリランカで「中国共産党は略奪者だ」と発言し、中国側が強く反発していた。

 

火中の栗を拾うような形となったジョコ氏は、ポンペオ氏に対し地域の安定や協力関係を重視するASEANの立場を理解するよう訴えた。

 

インドネシアにとって中国は南シナ海で領有権を争う相手である一方で、最大の貿易相手国でもある。中国の直接投資額は2019年に日本を抜き、欠かせない経済パートナーとなった。どちらか一方に深く肩入れすることは得策ではない。【10月29日 毎日】

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“どちらか一方に深く肩入れすることは得策ではない”ものの、南シナ海の現状は、アメリカとの関係をみせることで中国をけん制する必要がある状況にあります。

 

****米とインドネシア 中国念頭に南シナ海の島開発で協力確認****

インドネシアのルトノ外相とアメリカのポンペイオ国務長官は南シナ海のほぼ全域で権益を主張する中国を念頭に、南シナ海の南部に位置するインドネシアの島の開発を協力して進めることを確認しました。

 

南シナ海南部の海域ではインドネシアが自国の領土であるナトゥナ諸島の沖合に排他的経済水域を設定している一方、中国は南シナ海のほぼ全域の権益を主張していて、両国の間で対立が続いています。

インドネシアのルトノ外相は、29日から現地を訪問しているアメリカのポンペイオ国務長官と会談したあとの会見で、中国を念頭に、「南シナ海の安定と平和が維持されるべきで、国連海洋法条約が尊重され、実行されなければならない」と述べました。

そして「ナトゥナ諸島などの離島開発を含め、アメリカからのさらなる投資を求めたい」と呼びかけました。

これを受けてポンペイオ長官は「インドネシアがナトゥナ諸島周辺の主権を守るために断固とした行動を取ることを歓迎する。海上の安全保障を強化し、世界有数の貿易ルートを保護するために新たな方法で協力していきたい」と応じました。

ナトゥナ諸島をめぐっては、日本も漁港の開発や違法漁船を取り締まる監視船、レーダー施設などの整備を支援しています。【10月29日 NHK】

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日本は、護衛艦輸出で中国包囲網を強化する計画も。

 

****政府、護衛艦の輸出計画 インドネシアに、中国けん制も****

政府が海上自衛隊の護衛艦の輸出を計画していることが4日、関係者への取材で分かった。受け入れ先のインドネシア政府と調整を進めており、実現すれば、難航する防衛装備品の輸出に弾みがつくと期待している。日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現にも資することになりそうだ。
 

インドネシアは、中国が南シナ海などで海洋進出を活発化させていることに警戒感を強めている。安全保障面で日本との協力を強化する姿勢を示すことで、中国をけん制する狙いもある。【11月4日 時事】

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【独自対応で中国への強い姿勢のシグナルも】

アメリカや日本との協力姿勢だけでなく、中国を念頭においたインドネシア独自の対応も。

 

****インドネシア、南シナ海の海軍強化「中国に屈せず」****

インドネシア海軍は11月23日、南シナ海南端に位置するインドネシア領ナトゥナ諸島の海軍基地に新たに海軍即応戦闘分隊の司令部を移駐させる方針を明らかにした。これは南シナ海での中国による一方的な権益拡大、既得権主張に対抗するための極めて強い姿勢を内外に示すものとして注目されている。

 

中国は、南シナ海に一方的に自国の権益が及ぶ範囲として「九段線」を設定して、南沙諸島や西沙諸島の島々の領有権を巡ってマレーシア、ブルネイ、ベトナム、フィリピン、台湾などと争っている。

 

インドネシアは直接的な領土問題を中国との間で抱えている訳ではないが、中国はナトゥナ諸島の北方海域にあるインドネシアの排他的経済水域(EEZ)と中国の「九段線」が一部で重複していると主張している。

 

このためナトゥナ諸島北方海域のインドネシアEEZ内に侵入して不法操業を続ける中国の漁船とインドネシアの海上保安当局や海軍の艦艇との間で摩擦が生じる機会が近年増加している。

 

あろうことか中国は、2020年に入ってからは、中国漁船に中国海警局の武装船舶が漁船に同行して警戒監視するなど対決姿勢を強めている。

 

南シナ海問題では日米と連携強化

(中略)こうした日米の南シナ海などを巡る地域安保への積極的関与は米トランプ政権による一連の「対中強硬策」の一環ととらえられており、トランプ大統領の共和党政権からバイデン前副大統領の民主党政権への移行が確実となる中、その対中スタンスを再確認する意味合いが日米とインドネシア、ベトナムの双方にあったものとみられている。(中略)

 

最近は米新政権の今後の対中姿勢を見極めようとする中国政府の姿勢の表れか、ナトゥナ諸島北方EEZでの中国側との緊張状態はかつてほどではなくなってきている。

 

警戒強化で中国に強硬姿勢のシグナル

インドネシアのジョコ・ウィドド政権は主に経済関係では中国による多額の支援、インフラ投資などへの一定の依存状態が続いており、特に新型コロナウイルスのワクチン開発では中国製薬会社との共同研究・開発に頼っている側面もある。

 

ただ、「経済と安保は別問題」との認識が政権の根底にはあり、特に南シナ海を巡る漁業問題ではジョコ・ウィドド政権1期目の2014年〜2019年から強硬姿勢を貫いている。

 

当時のスシ・プジアステゥティ水産漁業相は、ナトゥナ諸島周辺で不法操業する外国漁船を積極的に拿捕し、その漁船(乗組員は地上施設に拘束)を爆破して沈没させるという派手なパフォーマンスによってインドネシアの漁業権保護を訴えて内外で話題を呼んだ。

 

もっとも、当時から同海域での違法操業で拿捕される外国漁船、そして爆破処分された漁船の大半はベトナム国籍の漁船だったという。

 

これは同様に違法操業する中国漁船は違法が巧みでまた逃げ足も速く、なおかつ軍事教練を受けたかのような漁民の対応などからインドネシア側が「拿捕」するに至らなかったのが主な原因とされている。

 

こうした事態を打開するための今回の海軍即応戦闘部隊のナトゥナ諸島への司令部移転は、中国に対してインドネシアの明確で強い姿勢を示すシグナルを送ることになる。(中略)

 

今後の中国の出方を見守るインドネシア

ジョコ・ウィドド大統領による「経済と安保は別問題である」との対中姿勢の根底にあるのは、インドネシア特有の「支援してもらえるものは遠慮なく受け付けるが、自国の権益に関わる問題では毅然とした態度で臨む」という「硬軟両様」、言い換えるならば「自国権益優先」の考え方が横たわっている。

 

こうした国際社会での処世術に長けたインドネシアに対しては、日本も対応策を見誤ることなく対処することが求められている。

 

先の菅首相のインドネシア訪問で、日本は約500億円の円借款供与を表明するとともにインドネシアの鉄道インフラ整備やコロナ対策、コロナ禍による経済不況への協力などで基本合意した。

 

その一方で日本が打診した「日米豪印」が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想にとりあえず前向きの姿勢を示したジョコ・ウィドド政権だが、「中国や日米といった大国の安保問題に巻き込まれたくない」との警戒感が国内世論では高まっている。

 

新政権となる米国の、南シナ海問題をはじめとするアジア太平洋地域の安保問題、そして対中外交にどのようなスタンスで臨んでくるのか、それに対して中国はどう出てくるのか――日本のみならずインドネシア、そして東南アジア諸国連合(ASEAN)も現在固唾を飲んでそれを見守っている。

 

そのつかの間の静寂の中、海軍の即応戦闘部隊司令部のナトゥナ諸島移転というインドネシアが打った一手は、安保問題でも「中国に対して一歩も退かない」という本気度が表れていると言えるのではないだろうか。【11月27日 大塚 智彦氏 JB press】

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【イスラム過激派のテロは依然として「今そこにある危機」】

インドネシア国内に目を向けると、ジョコ政権が抱える国内問題も多々ありますが、その一つはイスラム過激派の問題。

 

****IS系武装勢力がキリスト教徒の村襲撃、4人死亡 インドネシア****

インドネシア・スラウェシ島で27日、イスラム過激派組織「イスラム国」とつながりのある武装勢力がキリスト教徒らが住む奥地の村を襲撃し、住民4人が死亡した。死者の1人は斬首され、別の1人は焼き殺された。

 

当局が28日、明らかにした。警察によると、刃物と銃で武装した集団は中スラウェシ州の村を襲い、住民らを殺害。祈りや礼拝に使われていた家を含む民家数棟に火を放った。

 

容疑者はまだ拘束されておらず、犯行動機は今のところ不明だが、当局はスラウェシ島を拠点とするイスラム系組織「東インドネシアのムジャヒディン」による犯行とみている。MITはISへの忠誠を表明しているインドネシア過激派の一つ。

 

世界で最もイスラム教徒の人口が多いインドネシアは、イスラム武装勢力やテロ攻撃への対応に長年追われており、中スラウェシ州では数十年にわたり、キリスト教徒とイスラム教徒の間で断続的に暴力事件が発生している。

 

インドネシアのキリスト教徒はこれまでも攻撃の標的にされており、2018年には国内第二の都市スラバヤで、ISとつながりのある過激派組織「ジャマー・アンシャルット・ダウラ」が複数の教会に対して幼い子供らを実行犯にした自爆攻撃を行い、礼拝に参加していた十数人が死亡した。 【11月29日 AFP】

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警察当局はイスラム過激派組織の摘発に取り組んではいますが、過激派の多くが大都市に潜伏する状況にあり、イスラム教育とコロナ禍による経済不況を利用してイスラム主義を広げようとする勢力がその温床ともなっています。

 

****インドネシア、今も「ご近所にテロリスト」の日常****

インドネシアで、テロ対策に関して大きな動きがあった。国家警察の対テロ特殊部隊「デンスス88」を中軸とする対テロ捜査機関は、11月6日から7日にかけてインドネシア国内の複数の場所で2大テロ組織メンバーの自宅などを急襲して、テロリスト7人を逮捕したのだ。

 

最近はテロ事件や爆弾騒ぎが起きていなかったインドネシアだが、イスラム教系テロ組織による活動が今なお水面下で続いていることが改めて明らかになった。今回のテロリスト7人逮捕は地元メディアでも大きく取り上げられ、テロは依然として「今そこにある危機」であることを国民に改めて印象付ける結果となった。(中略)

 

追い込まれた組織の先鋭化に警鐘

インドネシアの民間シンクタンク「紛争政策分析研究所(IPAC)」のシドニー・ジョーンズ代表は地元メディアに対し、組織解体の危機にあるJIが「シリア帰還者などの強硬派を中心にして今後分派として活動を始めてより過激な行動、テロに出る危険もある」と指摘している。

 

さらにJIは依然として中部ジャワなどの「イスラム寄宿学校(プサントレン)」に同調者や支持者が多く残っているとされ、「若者の教育機関を通じた新規メンバーのリクルート活動にも注意が必要だ」と警鐘を鳴らす。

 

プサントレンはかつてJIの精神的指導者とされたアブ・バカル・バシール師が過激思想を伝播、普及させた教育機関として知られ、そうした影響が現在も中部ジャワ地方に色濃く残っている。

 

ただ、プサントレンはイスラム教の正式教育機関だけに、その教育内容への介入や検閲、宗教指導者の監視や調査には政府も治安当局もついつい及び腰になる傾向がある。そのことがテロの温床が根絶やしにできない理由のひとつとの指摘もある。

 

さらにインドネシアでは、コロナ禍によって失業者や生活困窮者が急増しており、政府に対する不満が高まっている。そうした背景を巧みに利用しつつ、「生活支援」「経済援助」「社会的サービスの提供」などを名目にした過激思想、テロ思想の拡大をテロ組織が行っているとの指摘もある。

 

ジョコ・ウィドド大統領はテロとの戦いを敢然として進める方針を事あるたびに表明しており、国民の圧倒的多数を占めるイスラム教徒の動向に配慮もしている。一方で、収まる気配を見せないコロナ禍への取り組みはなによりも優先すべき課題としてのしかかってきている。

 

テロ組織の根絶に向けて努力はしている。だが、イスラム教育とコロナ禍による経済不況を利用しようとするテロ組織の動きに対して、致命的な一撃を加えるまでには至っていない。【11月13日 大塚 智彦氏 JB press】

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【イスラム主義傾向を強める社会的風潮がより重要課題】

一部のテロリスト・過激派の背後には、それを生む温床があり、そのことがテロそのものよりインドネシア社会にとって重要課題でしょう。

 

近年、インドネシアはイスラム主義的傾向が強まっていることは、これまでも何回か取り上げてきました。2019年4月の大統領選挙もイスラム穏健派や非イスラム教徒が支持したジョコ氏とイスラム急進派、保守派の支持を得たプラボウォ氏の争いという構図でした。

 

下記のような話題も、そうしたイスラム主義的傾向のひとつを示すものでしょう。

 

****イスラム急進派のカリスマ帰還で大混乱インドネシア****

インドネシアのイスラム急進派として知られる「イスラム擁護戦線(FPI)」の指導者でカリスマ的人気を誇るハビブ・リジック・シハブ氏が11月10日、事実上の亡命先だったサウジアラビアから3年7カ月ぶりに母国インドネシアに帰国した。

 

リジック氏は国家警察から名誉棄損罪やわいせつ罪など複数の容疑で手配されていた2017年4月にサウジアラビアに突然出国して、現地で事実上の亡命生活を送っていた。

 

この間に治安当局者や政治家などがサウジアラビアを訪問してリジック氏と会談する様子がインドネシアのマスコミで何度も報じられたものの、誰一人として「容疑者」であるリジック氏の帰国を促すことはなかった。

 

このためリジック氏と治安当局の間で何らかの暗黙の了解があるとの見方が強まっていた。(中略)

 

リジック氏はその主張や論調はイスラム急進派として突出している。亡命中のサウジアラビアでは「インドネシアで革命を企図している」として取り調べを受けたこともある。

 

これに対してリジック氏は「私が支持者らイスラム教徒に呼びかけているのは革命ではなくイスラムのモラルである」と反論している。

 

宗教界と政界に太いネットワーク

1998年8月にリジック氏が創設したFPIは、イスラム教徒の重要宗教行事である「断食月」に営業しているカラオケ店やバーなどに白装束を着こんだメンバーが押しかけて営業停止を強要するなど過激な組織として知られるようになった。

 

2017年にはFPIがジャカルタ州のバスキ・チャハヤ・プルナマ(別名アホック)知事の発言に関しイスラム教を侮辱したとして厳しく非難。アホック知事は「宗教冒涜罪」に問われ、禁固刑に追い込まれたこともある。

 

その後も各種社会問題や宗教問題で過激なデモや集会を主導する一方で平和的なデモへの襲撃、攻撃も行うなど「危険な組織」として認識されるようになった。

 

一方で、リジック氏の主張はイスラム教徒として広く共感と支持を得る内容が多く、「インドネシア・ウラマー協会(MUI)」との関係も深いことから、今回の帰国にはMUI最高顧問の1人であるマアルフ・アミン副大統領が関係しているのではないかとの見方もある。

 

さらには、サウジアラビア亡命中に現地でリジック氏と会談したこともあるプラボウォ・スビアント国防相、さらに帰国後にすぐにリジック氏の自宅を訪問したジャカルタのアニス州知事などの人脈が裏で動いた可能性も指摘されている。

 

このように副大統領、国防相、首都知事などの大物と親密な関係にあるリジック氏だけに、一部の政治家や治安当局は、こうした多彩なネットワークが今回の帰国容認に作用したことは間違いないと見ている。

 

コロナ禍で苦悩するジョコ・ウィドド大統領は、リジック氏という「要注意人物」の帰国で、さらなる頭痛の種を抱え込んでしまったようだ。【11月25日 大塚 智彦氏 JB press】

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イスラム急進派、保守派の支持を得たプラボウォ氏を国防相として政権内部に取り込まなければならないあたりが、イスラム急進派、保守派を無視できないジョコ大統領の難しい立場です。

 

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