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生きてさえいればどうにかなる ~101件目の奇跡~

前回の話はこちら↓

 

人間がやるべき仕事。人間じゃなくても出来る仕事。

 

リサイクル業の仕事というのは、ビジネスの本質を肌で感じられるという意味では、非常に価値のある仕事でした。

 

朝から日が暮れるまで、1件1件家を訪問して、「不要品はありませんか?」と聞いて回る。最初は気が遠くなる作業でした。

 

私の営業マンとしての能力が未熟だったせいもあるでしょうが、何かしらの不要品が出る確率は5~10%くらいでした。

 

最初のうちは数件回って出ないと自信が無くなってきて、「もし1日で何も得られなかったらどうしよう・・」と不安になったものですが、何日もやっているとその確率に気付くようになりました。

 

そのうち「10件回ればフライパンの1つくらいは出るだろう」などと考えられるようになり、だんだん心が折れなくなっていきました。

 

 

もちろん、基本ゴミを頂くわけですから、そうそう価値のある物は出てきません。出てきても100円分にも満たないことはザラにあります。しかし、100円の価値のある物を1時間で10個手に入れれば、時給は1000円になるのです。そう考えると決して難しいことではありません。

 

そうして一人で回っていたある日、倉庫にゴミが山積みだというご家庭に出会うことができ、「この中にある物で、無料で持って行ける物は全て持って行ってくれ」と言われました。

 

この時、私は血が騒ぎました。

 

社長に基礎知識として教わったことを思い出し、持ち帰ったら処分に費用が掛かってしまうものを避け、これは何処に出せば買い取ってもらえるか?ネットオークションに出せるか?・・・そんなことを考えながら引き取れる不要品を選別しました。

 

その日、他の訪問先では大した物は出なかったのですが、この家で出た物だけで1トントラックの荷台が半分くらい埋まりました。

 

その大半がスクラップ金属で、スクラップとしてはせいぜい4000~5000円程度でしたが、ネットオークションに出品出来そうなアイテムがいくつかありました。

 

その中の1つに、昔のスカイラインGTRという車のレースカーがどこかのサーキットでレースをしているA2サイズくらいの古い写真があり、額縁に収められた状態の物がありました。

 

ひどく砂埃を被っていてとても売れそうに見えませんでしたが、売れなければ自分が貰おうと思って頂いてきたものです。

 

それがなんと、オークションで12000円もの値を付けました。

 

その他オークションで売れた物、スクラップ買い取りも合わせると、その1件で23000円もの売上げを出すことが出来ていたことが分かりました。

 

しかも仕入れ値は0円ですから、トラックの燃料費等の細かい経費はあれど、23000円が丸々利益になるのです。

 

 

この時、私はこの仕事にロマンを感じるようになりました。

 

 

20件回って100円分しか出ない時もあるし、100件回っても500円分くらいしか出ない日だってあるかもしれない。

 

でも、もし101件目で20000円分の不要品が出たら、その日の日給は20500円だったということなのです。逆に、1件目で20000円分の物が出てくることもあるかもしれません。

 

 

以前の記事でも書きましたが、社長は私に「この仕事で一番大事なのはドアを叩き続ける力や。」と教えてくれました。

 

 

私は自分の力で多額の不要品を回収してくることが出来たこの時、初めてその言葉の重みを感じることが出来ました。

 

それ以来、疲れて「そろそろ終わりにしようかな・・・」と思った時、「いや、もしかしたら次の家でとんでもない物が出るかもしれない!」と、常に自分を奮い立たせることが出来るようになりました。

 

そして同時に、大量の不要品を出してくれた人ほど、このご縁に感謝してくれるということにも気付きました。お客さんにとっては捨てるに捨てられなかった物ですから、大量に出せば出すほど家が片付いて、喜んでくれたのです。

 

社長はそんなレベルに留まらず、会話の中で出会ったお客さんの商売まで聞き出し、それが経営者だったりすれば事業所の不要品を丸ごと任せてもらえるようになったりして、大口の仕事をどんどん取っていました。

 

トラック1台に5万円の利益を載せるのに30分・・・そんな仕事を手伝うことも沢山ありました。

 

 

自分の努力次第で結果がいくらでも出せる。その喜びはJRで運転士をしていた頃には絶対に味わえないものでした。

 

そして自分の仕事の価値と収入の関係が明確になるわけですから、ろくに働いてもいないのに収入ばかり求めるということも当然しなくなります。自営業であれば、そもそも給料が安いと文句を言う相手がいないのです。

 

 

会社員時代は言われたこと以外のことは一切せず、会社の収入アップのためになどと思って働いたことは入社直後を除いて一切無かったし、周りの社員もそんなことを考えている人間は少なくとも現場には居なかったように思います。

 

にもかかわらず、給料が安い、休みが出ない、雇用を守れだの、会社に対して不平不満や要求ばかりは威勢良く主張している人間が多く見受けられました。

 

自分の収入を増やそうと思えば、お客様の満足度を高めたり会社を儲けさせようと考えるのではなく、同僚を裏切り、上司に胡麻を擦って気に入られ、昇進することしか考えられない。ビジネスにおける仕事の価値と報酬の本質とはかけ離れた実態でした。

 

しかし当時の自分も含めて、そんな不満タラタラの会社にしがみつかなければいけない程度の人間だったのだと思います。ここを辞めたら他は無いと、本気で思っていましたから。

 

とはいえ、現場で頑張っている社員の多くがそのような考えに陥るのは無理もないかもしれません。

 

JR貨物の現場にいる社員はみんな新入社員研修直後から労働組合に加入させられて、何も分からないまま「会社と戦うぞ!」「団結頑張ろう!」などと合唱させられ、会社は敵であるという意識を植え付けられているのですから。

 

高卒で鉄道という他で潰しの利かない業界に入り、そんな考え方で生きてきた自分が、いまさら他所の業界で生きていけるわけがない・・・現場の社員たちは心の奥ではそう思っているから、だから身動きが取れないのかもしれません。

 

 

 

その考え方は一見最もらしく見えますし、転職活動は決して楽ではありませんが、実は潰しが利かないなんてことはないのです。

 

 

 

私は会社を辞め、リサイクル業で働き、逮捕されて、故郷を離れて、しばらく引きこもってから気付いたことがあります。

 

 

それは、「人間、生きてさえいれば結局どうにかなる」ということです。

 

 

たかが今の仕事を失ったところで、人生は終わりません。

 

たかが金を失ったくらいで、人生は終わりません。

 

たかが友達(だと思っていた人たち)を全員失ったくらいで、人生は終わりません。

 

たかが犯罪者と実名報道されたくらいで、人生は終わりません。

 

たかが前科持ちになったくらいで、人生は終わりません。

 

 

この世のどこかに、必ず今の自分に見合った居場所があります。

 

そこで周りに価値を提供し続ければ、その価値に見合う報酬が現れ、自分の生活が豊かになります。

 

周りの人が喜んでくれるような価値を提供し続ければ、自分の過去がどうであれ、味方になってくれる人と沢山出会えます。

 

 

犯罪者になったからこそ、自分を成長させられた部分も大いにあります。

 

悪いことをしてしまった過去は変えられないけれど。

それは反省しなければいけないけれど。

 

それでもその経験を未来の人生のために活かすことは出来ます。それはどんな犯罪を犯した人間であってもやっていいことだし、それこそが本当の意味での「更生」だと思います。

 

 

このブログは、様々な背景があって犯罪者になってしまった方々もご覧下さっているようです。

 

同じ一人の犯罪者として私が言いたいこと。

 

 

それは、「犯罪者になったからこそ出来る生き方がある」ということです。

 

 

自分の名前が表に出れば、赤の他人やネットの住人に「死ね」「反省しろ」「犯罪者に幸せになる権利は無い」「被害者のことを考えろ」などと、言いたい放題叩かれるかもしれません。

 

私も散々叩かれたし、周知の通りJR関係者から嫌がらせの手紙も届きました。

 

今年も嫌がらせをされるのか?~地域の文化展~

 

でも別にいいじゃないですか。彼らに私刑を下す法的権利は無いし、そういうことをしていれば、そのうち当人が犯罪者としてこちらの立場に来ることになって、私たち犯罪者の気持ちが分かるかもしれませんからね。

 

 

私は犯罪者になった結果、2つの点において成長出来たと思っています。

 

 

1つは、人の苦しみを理解出来る人間になったこと。

 

2つめは、本当に自分の友達であるべき人間を見極められるようになったこと。

 

 

それは、今後の人生を生きる上でとても大切な要素だと思います。良い仲間に恵まれるかどうかも、この部分が伸ばせたかどうかで大きく変わってくるように思います。

 

 

犯罪の加害者になった以上、その事件に関わる被害者には一生許されることは無いと思って間違いありません。

 

被害者にとって、加害者はどのような形であれ、二度と関わらないで欲しいと思っているのが普通です。

 

謝りに来られるのも迷惑、手紙を送られるのも迷惑、加害者の親族が謝りに来るのも迷惑。とりつく島がありませんし、客観的に被害者感情を慮れば当然のことだと思います。

 

だから加害者が被害者に対して直接償うことは出来ないし、されない方が被害者も有難いと思います。被害者に対して唯一出来ることは、弁護士を通じてお金を払うか、加害者が刑事責任を負うことだと思います。これ以外にありません。

 

 

ですが批判を恐れずに言えば、被害者に許されないから自分は幸せに生きてはいけないということは絶対にないと思います。問われた民事・刑事責任を全うすれば、その後の人生をどう生きるかは自分が決めていいはずです。

 

全ての責任を取った後でも「罪悪感」という気持ちに苛まれている心の綺麗な人は、このようにしてみるといいと、尊敬する人から聞きました。

 

 

人から価値のある物を奪ったのであれば、奪った価値以上の価値を世の中に返しなさい。

 

人から時間を奪ったのであれば、奪った時間以上の自分の時間を世の中のために使いなさい。

 

人を悲しませたのであれば、悲しませた人数以上の人たちを喜ばせなさい。

 

覚醒剤をやったのであれば、自分以外の人間が覚醒剤に手を出さないように手助けしなさい。

 

1人の命を奪ったのであれば、刑期を終えた後、残りの人生で1人以上の命を救いなさい。

 

 

どんな犯罪を犯した人であっても、このような信条をもって別の形で償うことで、罪悪感は薄くなっていくと教えられました。

 

 

私はJR貨物から価値のある物を奪いました。その事件から4年、ようやく奪った価値以上の社会貢献が出来るようになって、とても気持ちが楽になったように思います。

 

 

そして、どんなに時間が掛かってもいつか世の中に与え続けた価値が大きく報われ、この人生で良かったと思えるようになりたいです。

 

「101件目で大当たりが出るかもしれない」と教えてくれた社長の教訓を胸に・・・

 

 

 

 

この話の続きはこちら。

元職場からのオファー。~勘違いの始まり~

 

会社を辞めるまでの話を最初から読まれる場合はこちらからどうぞ。

一生働くつもりで入った会社を辞めるまで① ~時限爆弾が爆発する~

 

ストーリーを最初から読まれる場合はこちらからどうぞ。

鉄道会社で働くことへの憧れ ~将来の夢にどんな絵を描いたか?~

 

生きてさえいればどうにかなる ~101件目の奇跡~」に7件のコメントがあります

    1. >西日本さん

      いつもありがとうございます。

      自分1人上手くいけば生きていけると思っていた時期が私にもありましたから、こうして立場が変わってみると、過去の自分はいかに世間知らずだったかを痛感します。今は自分の味方で居てくれる人を、心から大切にしたいと思って暮らしております。

  1. >たどり着いたさん

    コメント頂きありがとうございます。

    このブログを通じてのご縁がきっかけで、あなたにとって良い答えが出せたのでしたらとても嬉しいです。

    また時々お越しになってください。RT30さんもありがとうございました。

  2. 半年ほど前に犯罪の相談コメントさせていただいた者です。
    自分がしてしまったこと以上に何か良いことをする、という考え方に少しずつですが目を向けることができてきました。多分、それは他人に対してだけではなく自分に対しても必要で、バランスが大切になると思います。

    諸事情により、今は被害者の方に謝ることや刑を受けられない状況です。このどっちつかずで償いを公にできず自罰をするしかないというのは正直つらいです。前を向くのも憚られ、落ち込むだけでは何にもなりません。

    精神に関わることは段々と人々の認識が穏やかになってきたと思います。加害をしてしまうこと、被害を被ってしまうこと、両方に脳という臓器が絡んでいるのは間違いないと思います。
    ただ、まだ脳については不明なことは多く、わからないことに人間は善悪で身を守ることをしてきました。しかしきっと、悪(被害者や加害者)に対して攻撃的や保守的になる人々は減っていくだろうと信じます。

    1. >。さん

      ご無沙汰しております。更新頻度が落ちているにもかかわらず、ずっとお読みくださりありがとうございます。

      ご自身の中で、少しずつ過去にとらわれず未来を見る方へ目線が移っていかれたのでしたら、本当によかったです。あとは感じたことを行動に移すことさえできれば、人生は大きく動き始めると確信しております。

      被害者に誠意を伝えることすら拒否されている状態というのは、心苦しいものです。しかし相手の考え方を変えるということは、他の何よりも難しいことです。その不可能なことに悶々とし続けるエネルギーを、今後人のために何が出来るか?という目線で注ぐようにしたら、これから出来ることは無限に存在するはずです。

      周りの人の反応も、結局はこれからの自分がどうあるべきかで変わってくるのだと思います。いつまでも怯えて縮こまっていたら、面白がって嫌がらせをする人間は余計に調子に乗るでしょう。でもそれは怯えて縮こまっているという自分の行動が引き起こした結果なのです。

      。さんが今後より良い人生へ向かわれるよう、心より祈っております。お互い頑張って生きていきましょう。

  3. 初めて訪問しました。
    このニュース、なんかリアルタイムでネットで見た気がします。
    正直面白ニュースレベルに感じてましたが、同僚の裏切りや逮捕後の精神ダメージは人によってはこんなに大きくなるんだと感じました。

    私は先日酒に酔って見知らぬ人と肩がぶつかり暴行を働いたようで、逮捕、勾留2日、在宅起訴、罰金10万円の処分になりました。

    雇われではないし繊細な精神の持ち主でもないので、被害者には悪い事をしたと思いつつ、前科がつこうが痛くも痒くもないとも感じていました。

    ただ、コレが実名報道なら精神はともかく取引先は何軒か失うのは確実だったなと思い、いろいろ検索してここにたどり着きました。

    私の場合、普段から適当な人間と認識されていたからか、それまでの友人が離れることはありませんでしたし、正直悪い事はしたけど2度と上向いて歩けないほどの事ではないと開き直ってもいました。

    電車のパーツをいいもんだと思って持ち去ったのも大した妻ではないと思います。
    よくよく事情を考慮すればこの程度で実名報道する連中の方がイかれてるし、それなら酔っ払って完全に自分に非がある私が実名報道もされず罰金で済んだのがおかしいんじゃないかとすら思える。

    多分、メンタルは元々それほど強くない方だったんじゃないかなと思いますがブログを実名で立ち上げた勇気とその事により強くなった事に敬意を評します。
    メンタルが強いと自分で思ってる私ですが同じ立場で実名ブログ立ち上げられたかどうかは疑問です。

    嫌がらせなどもう蚊に刺されたほどに感じているかもしれませんが今後の活躍も祈っています。

    あ、日本が犯罪者の立ち直りに厳しいという意見なんですが…それはどの国も大差なく、ただ本人の捉え方、強さでいくらでも変わると私は思います。
    今のあなたに私が敬意を抱いているのはその勇気に対してですよ。

    1. >匿名さん

      初めまして、ご丁寧なコメントを下さり本当にありがとうございます。

      おっしゃる通り、前科が付くことよりも逮捕されただけで犯罪者として日本中に報道されてしまうことの方が精神的に辛いのは間違いありません。

      これがどこかの中小企業の、ゴミ捨て場の金属ゴミだったらこういう報道にはならなかったのは確実で、JRという名前のある会社で、元社員が、金属ゴミという認識ではあっても鉄道車両の部品を盗ったという、マニアの犯行としてバリューのある報道が出来るからという理由で実名まで出されたのだと確信しております。

      あなた様のような強いメンタルを持っていれば留置場生活でもそこまで憔悴することは無かったのでしょうし、それはとても羨ましく思います。

      ですが否が応でも苦難の環境に置かれたことによって、過去の自分よりも成長する機会を得られたことも事実だと感じています。確かに日本に限らず、先進国ならどの国でも犯罪者に厳しいことは事実なのでしょうね。お言葉を頂けて、日本ばかりがダメだと思わないよう気を付けなければと思いました。

      あの状況の中で自分の力で変えられることと言ったら、目の前に起こっている現実をどう受け止め、今後の自分がどうするかくらいしか無かったと思います。ですから今後の人生はおっしゃる通り、自分の捉え方次第だと思っております。

      こんな人間に敬意を抱いて頂けるなんて、心から恐縮してしまいます。

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