鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「キックの鬼」1

なんだかバカバカしくてスカッとした話が読みたいと思い、全巻大人買い。十数年前にコンビニ本として出た時にも買っているのだが、思ったより長い話だ。コンビニ本はダイジェストだったのかな。

実在の沢村忠の半生を描いたもの。実在の人物を主人公とし、実話と思わせて虚実ないまぜの話を描くというのは、のちんに「空手バカ一代」で結実された手法だが、その先駆けを見ることができる。同時期の作品「ジャイアント台風」も恐らくそうであろうが、こちらは未読。

沢村は(極真空手の)大山倍達とは直接の親交はなく、流派も違うが、「空手の先輩」としてちょいちょい大山倍達のエピソードをはさんでいるのが笑える。著名な人物であれば引き合いに出す意味もあろうが、この作品が発表された時点(1969~1971年)では、沢村忠を知らない人はいないが、大山倍達は無名の人だったのだから、無意味な紹介である。漫画作品にかこつけて、なんとか大山空手を宣伝したいとおもったのだろう。編集部もよく通したものだ。

沢村がサマン・ソーアジソンに負けて、本格的にタイ式をやる決意をし、山籠もりをしたとか、その時に眉を片方ずつ剃ったとか、これらはのちに「空手バカ一代」や「カラテ地獄変」で大山倍達(やそれをモデルとした大東徹源)が行なったとされて有名になったやり方である(大山倍達がやったこと自体、眉唾であるが)。

技の練習は練習生に囲まれてスパーリングなどを重ねた方が身に付く。山での不自由な生活で力がつくとは思えないが、「山籠もり」をして自分を追い込むことで普通の生活では得られない「力」が身に付くという神話に一役買ったのだろう。

復帰戦でタイ式ライト級チャンピオンであるモンコントーン・スイートクンをKOして東洋チャンピオンになるところで一巻終了。戦績はさすがにごまかせまいが、いくら沢村が空手の学生チャンピオンでも、プロ転向後わずか3戦で(1、2戦はただの対抗戦だから、厳密にはデビュー戦で)タイのチャンピオンに勝てるはずがない。そもそもタイ式のチャンピオンは、藤原敏男に負けるまで、外国人に負けたことはなかったと、梶原一騎が(「四角いジャングル」で)書いていたのではなかったか。



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