日常小噺5

  先日、帰りに某スーパーに寄った。夕食は何にしようかと店内を回っていると、鮮魚コーナーで大量の刺身の盛り合わせセットを見かけた。営業時間も終盤に入ってきて、売り切ってしまいたいという意図からか、少し値下げもしている。刺身を買うことなどあまりないが、たまにはいいかということで、その日の夕食は刺身に決まった(盛り合わせに好きなタコが入っていた事もある)。

  帰宅し、夕食の準備をし、刺身を食する事となった。まず、右下にあるメバチマグロからという事で、摘まもうと刺身に触れると刺身の動きで、一瞬本体と箸の間に隙間ができ、その時糸を引いたように見えた。まさかそんな事は無いだろうと、そのまま口に運び味わってみると、いつもの予想される味と香りで特に違和感はない。

  しかし、メバチだけ偶然解凍後の保存状態が悪く、傷んでいたのかもしれず、メバチはやめた方がいいかな などと思いつつ、次は左にある(おそらく養殖の)タイを食することにした。刺身に触れ少し離してみると、なんと糸を引くではないか、2、3度繰り返してみても同じである。という事は、この刺し盛りセットは全部傷んでいるということか、 何ということだ などと、その時、総毛立った事を覚えている。

  昔からボツリヌスについては結構注意しているが、刺身ならさしずめ腸炎ビブリオであろうし、自分は比較的胃腸が丈夫なので、悪くても一日トイレのお世話になるだけだろうなどと思い、興味もあり、タイの刺身も口に入れてみた。メバチと同様で、味や香りに特に違和感があるものではなかった。

  購入した店は地元でも名の通ったスーパーであり、昨今、こういう事があると店の痛手も大きいので、生鮮食品に関してはとりわけ厳しく管理しているはずである。しかし糸を引くほど傷んでいるというのはどういうことだ、傷みや腐敗で糸を引く現象というのは、自分の周囲ではあまり聞いたことがない。箸を休め、しばし冷静に考えてみた。

 

そこではたと思いあたることがあった。その日の夕食は納豆も出しており、薬味や卵と混ぜ合わせる前に、パックから陶器の器に納豆を移しており、その時に使用した箸を、そのまま食事に使用していることに気づいたのである。

ということで、刺身の糸は納豆の糸であった。

その後、何ともなかった事はいうまでもない。