徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

初訪問を含む阪神間4美術館を回ってから、尾高/大フィルのメンチク完結編は「讃歌」

今日はまず美術館を駆けずり回る

 翌朝は8時に起床したが、体が動かない。しばしそのままボーっとすることに。ようやく気力が少し湧いてきたところでシャワーで体を温める。結局はチェックアウトの11時手前までグダグダ過ごすことに。本当は近くの喫茶に朝食でもと思っていたのだが、そんな気力が全くない。

 ホテルをチェックアウトすると、この日の最初の目的地に向かうことにする。目指すのは逸翁美術館今日は車でないと行きにくい美術館を回る予定。そのために車で来たのである。

 阪神高速を通って池田を目指す。この頃には既に昼前。朝食を摂っていないので腹が寂しい。美術館に行く前に若干早めの昼食を先にすることにする。「かごのや」に立ち寄る。

 注文したのは「上撰牛すき焼定食(1815円)」。普通になかなか美味い。昼からいささか贅沢かと思ったが、今日は朝食とドッキングなので良しとしておこう。

贅沢な昼食

〆はうどんで

 昼食を終えると美術館に向かう。目的とする逸翁美術館は山の手の急斜面の住宅地の中にある。ここに来るのも数年ぶりのように思われる。

 

 

「The コレクター逸翁 ~その収集に理由アリ~」逸翁美術館で3/17まで

住宅地の中の逸翁美術館

 同館の所蔵品は逸翁こと小林一三のコレクションであるが、それらのコレクションには当然ながらすべてその由来があるということで、そのような由来も含めて展示すると言うことのようである。

 展示品は逸翁が美術品収集を始めるきっかけとなった作品など様々であるが、正直なところ小林一三その人に興味のない私にはそんなことはどうでも良いことであるとも言える。

 展示品については書簡なども多かったが、これは私の興味外。後は茶人でもあった逸翁の趣味を反映して茶道具などが多い。器に関しては志野などは私の好み。また面白かったのはセーヴル窯による辰砂の赤が眩しい花瓶。和洋折衷な感覚が興味深い。

 絵画に関しては呉春の絵画が数点展示されておりなかなか面白かったが、池田蕉園・輝方の掛け軸があったのがもっとも興味深かったところ。


 逸翁美術館の見学を終えると、次の美術館へ。ここは私も初訪問の美術館であるアガペ大鶴美術館。西宮の山の中に最近出来たという美術館である。アガペグループが所蔵する美術品を展示するとのことだが、アガペグループはどうやら宗教系の医療法人の模様。現地は隣接して病院なども設置されている。なおアガペがキリスト教系の言葉だと思ったが不明だったんだが、どうやら神の無償の愛の「アガペー」から来ていると推測される。

 現地に到着した途端に、それまでパラパラだった雨が突然に豪雨に転じて車から出るのも躊躇う状況になる。とりあえず入口に近いところに車を止めて駆け込む。私の到着時は電気が切られている状態で、どうやら観客は私だけの貸切状態。撮影禁止の表示があるが「撮影OKです」と言われる。

 

 

アガペ大鶴美術館

出てきたときには雨は止んでいた

 とりあえず4階から見学を始めるが、4階は巨大な象牙細工ばかりである。とにかく作品が精緻なのと大きいのとに驚く。今は象牙の取引が禁止されているから、今後はこの手の作品は出てこないだろうということを考えると貴重か。

象牙細工の塔

細工が圧巻の「牡丹に鳳凰」

親子鷲

 

 

これも圧巻の細工の天女像

象牙彫刻の「ピエタ」

「最後の晩餐」

今となっては貴重な巨大な象牙

 

 

 3階にはいきなり「日本一大きなアメジスト」なる意味不明なものがあるが、基本的には青銅器や兵馬俑など中国絡み。異様にデカい鼎に圧倒される。「鼎の軽重を問う」などと言うが、こんな鼎は問うまでもなく相当重そう。そう言えば力自慢の挙げ句に、鼎を持ち上げようとして押しつぶされて死んだアホな皇帝もいたな・・・。

日本一大きなアメジスト

木彫りのインド象

青銅器の数々

呆れるほど巨大な大克鼎

 

 

象牙細工の万里の長城

翡翠の彫刻

兵馬俑の複製品

紫檀の飾り棚

これはマンモスの牙

 

 

 なおこの階には陶器なんかも展示されており、唐三彩なんかは結構私の好み。

チベット産の壺

唐三彩の馬

景徳鎮 の壺

 

 

 2階にはシャガールのリトグラフが大量に展示されている。

シャガールのリトグラフ「アブラハムとサラ」

「モーセ」

「ソロモン」

 

 

 これ以外にも日本の陶磁器などが展示されてあり、織部とか志野は結構私好み。また唐突に若冲の鶏なんかもあったりして驚く。

織部と志野

織部の大鉢

若冲のニワトリ

これは応挙

 

 

 1階にはまたも象牙細工。象牙の日本丸とか呆れるような展示があるが、圧倒されるのは象牙の姫路城。こんなものどうやって作ったんだ? ただ日本の城なのに、どことなく中国っぽい感覚があるのは何だろうか?

象牙のだんじり

宝船は定番だが巨大すぎる

そして象牙の姫路城

圧倒されるばかり

象牙の日本丸

 

 

 これ以外にもカメラコレクションがあったり、かなりごった煮の印象。

カメラコレクションなどまで

 好事家が適当に集めたコレクションの展示って雰囲気もある。なお現在隣にシャガール館を建設中とのことで、2024年春にオープン予定とか、今回展示されたリトグラフやら他のシャガールコレクションを展示するとか。

奥で新館が建設中

 まあ魑魅魍魎とした感はあったが、意外に楽しめた。どうしてもB級感が漂うが、キッチリ見ていったら意外と楽しめる。

 初めての美術館を楽しんだところで、次の目的地を目指して山を降りる。次は何度も訪問している美術館である。

 

 

「日本画ことはじめ」西宮市立大谷記念美術館で2/18まで

大谷美術館も久しぶりか

 同館が所蔵する日本画のコレクションを展示する展覧会。

 第一章は江戸時代の作品で、狩野派の勝部如春斎や幕末の田能村直入の作品が展示されている。これらはいわゆる日本画というジャンルが確立する以前の、伝統的な日本の絵になる。田能村直入などは独得の力強さがあって面白い。

 第二章以降が明治以降のいわゆる「日本画」というジャンルの画家たちの作品。東京美術学校出身の精鋭、横山大観、菱田春草、橋本雅邦らに川合玉堂にその弟子の児玉希望、京都画壇で有名な上村松園に、その師である鈴木松年、また京都画壇の重鎮の竹内栖鳳、山本春挙ら同門や師弟関係の蒼々たる面々の作品が展示されている。

 第三章は画題に沿っての分類で、伝統的な絵画である福田眉仙、山本春挙、美人画における上村松園、伊東深水、寺島紫明、そして「日本」を描いた横山大観、堂本印象らなどが展示される。

 第四章はそこから突き抜けて新しい表現に挑んだ画家たちとして、フォーヴやキュビズムに影響を受けた山下摩起、装飾的な簡略画法の福田平八郎、紙粘土を使う下村良之介などのかなり独自性の高い面々が登場する。山下摩紀の「女三態之図」などはピカソの「アヴィニョンの娘たち」まんまな印象で面白いところ。なお福田平八郎については、近々中之島美術館で大規模な回顧展が行われる。

 予想以上に秀品が多くて、この美術館ってこんなにすごいコレクション持っていたのかと驚いた。よくよく考えてみると、この美術館を来訪するときは企画展がほとんどで、コレクション展の類いを今まで見た記憶がない。少し舐めていたか。

 

 

 美術館一回りしたところでかなり疲労が溜まってきた。そこでこの美術館内の喫茶コーナーでワッフルのセットを頂いて一服する。

庭園を眺めながらしばし喫茶で一服

 温かいワッフルと冷たいアイスの取り合わせが良い。ただコーヒーは私の感覚からしてもやや薄い感がある。


 さて時間も時間になってきたのでそろそろ大阪に戻るべき頃だが、ホールに直行だとまだ時間がかなりあまりそうである。そこで最後にもう一館だけ立ち寄ることにする。ここも数年ぶりの訪問の気がする。

 

 

「河東碧梧桐と石川九楊―筆蝕の冒険」「牡丹靖佳展 月にのぼり、地にもぐる」市立伊丹ミュージアムで2/25まで

昨年改装した市立伊丹ミュージアム

 異端の俳人である河東碧梧桐の書と彼の俳句を石川九楊が揮毫した「河東碧梧桐一〇九句選」を併せて展示。

 書に関しては完全に興味外である私だが、河東碧梧桐の書はかなり独得というか、まるで図案のようであって目を惹く。そしてそれをさらに追求して拡大したのが石川九楊の作品。ここまで行くともう既に文字ではなくて記号のように見える。中には家の間取り図のようにしか見えないようなものまであり、読もうとすればまるで絵解きである。

 かなりの独自ワールドである。時間が無いためにザッと見ることしか出来なかったのであるが、一句一句じっくり追いかけていけばそれなりに面白そうではある。

 一方の牡丹靖佳の方は現代絵画とのことであるが、展示作は絵本原画が多く、独得の感性を感じさせる作品が多い。静かであるが怪しげで幻想的な世界が展開している。見た目はむしろほのぼのしているのだが、なぜかその後に一種のグロテスクが垣間見えることもあるという印象深さのある作品群である。

 地下展示室には大作「兎月夜」が展示されているが、これがまた鮮やかでインパクトの強い、現実と虚構が入り交じったような独特な世界。なぜかこちらに突き刺さってくるような作品である。

この美術館内にはかつての商家も展示されている

 西宮から伊丹への移動が渋滞などで予想よりも時間がかかってしまい、次の制限時間が迫ってきていてやや駆け足に近い見学になってきたのが計算違いだった。どちらも結構こちらの心に突き刺さってくるような作品が多く、もう少しじっくりと見学する必要があったなとやや反省である。

 

 

 とりあえずそろそろ時間が気になるのでホールに急ぐことにする。しかし懸念した通りに夕方にさしかかってきて道路は混雑し始め、阪神高速池田線も名神との交差である豊中ICから先は大渋滞。数キロの区間をトロトロ走行を余儀なくされることに。

 何とか渋滞をくぐり抜けて大阪に戻ってくる。今日はこれから大阪フィルのメンコンの最終回である。駐車場に車を置くとまずは夕食へ。昼食にかなりガッツリ食ったから、夕食は軽めにそばか。と言うわけでおきまりの「福島やまがそば」に出向いて「親子丼のセット(900円)」を頂く。

毎度のやまがそば

毎度の親子丼セット

 

 

 夕食を終えると開場時刻が近いのでホールへ。

小雨の中をホールへ

 ホールに入るとまたも堕落の象徴である喫茶に直行。ただコーヒーは先程飲んでいるのでこれ以上飲んだら胃が荒れそうなので、今回はオレンジジュースにしておく。しばし時間をつぶしてから座席に向かうが、今日はかなり入っている。ザッと見ても9割以上の入りである。

コーヒー連荘はキツいのでオレンジジュース

 

 

メンデルスゾーン・チクルスⅣ~メンデルスゾーンへの旅~

合唱用のひな壇もスタンバっている

[指揮]尾高忠明
[ソプラノ]盛田麻央、隠岐彩夏
[テノール]吉田浩之
[合唱]大阪フィルハーモニー合唱団
[管弦楽]大阪フィルハーモニー交響楽団

メンデルスゾーン:
序曲「ルイ・ブラス」op.95
交響曲 第2番 変ロ長調 op.52「讃歌」

 一曲目はメンデルスゾーンのかなり華々しい曲。尾高の演奏はやや早めのテンポでグイグイと行くロマンティックなもの。大フィル金管陣が結構の冴え。

 本公演ではこのルイ・ブラス終了後に休憩なので、開演後10分ぐらいで20分の休憩が入るというやや変則構成となる。流石に通常の休憩よりもそのままホール内に留まる人数が多い。再開5分前ぐらいから合唱団がゾロゾロと入場を開始して、それが揃った頃にオケメンが入場、間もなく再開となる。

 本日のメインはメンデルスゾーンの異色の交響曲。演奏機会は多いとは言えないが、最近になって注目されつつある曲である。第一部はオケだけで単編の交響曲のような曲があり、第二部が合唱陣が加わっての壮大な讃歌となる。第一部で登場した主題が第二部にも繰り返し登場することによって曲全体のまとまりを作っているという構造。

 煌びやかで華やかな曲調はいかにもメンデルスゾーンらしいところ。尾高は例によってのロマンティック会社路線なので音楽自体がなかなかに盛上がる。大フィルの演奏もまとまりが良い。

 第二部になると合唱が大活躍。華々しい旋律で神を讃える歌である。まあ歌の内容自体は定型的な讃歌なので面白味はないが、教会音楽的でありながらロマンティック要素も十分に含んでいるメンデルスゾーンの旋律は美しい。もっとも曲の内容的に影の部分が少ないので音楽としてメリハリが薄い感はなきにしもあらず。

 大フィル合唱団はかなり頑張っていると思うし、ソリスト陣も安定感は相当にある。第二部では裏に回ったオケがそれを支えるという様子。劇的な盛り上げなどもピタリと決まっていてマズマズの演奏。そしてラストはお約束の壮大なアーメンである。

 メンデルスゾーンの中では珍しい曲になるこの曲で、尾高のメンチクも締めである。まさにその一大プロジェクト完結に対する讃歌という趣のなかなかに荘厳さを感じさせる演奏であった。以前にこの曲を聴いたときにはいささか冗長な感を受けたが、今回はそのような退屈をする局面もなく純粋に音楽に浸ることが出来た。その辺りはなかなかのものであった。

 演奏終了後は場内もなかなかの盛り上がり。大フィルの名演に対して観客が満場の拍手で応えるという展開となった。今回の演奏は私にも満足のいくものであった。

 これで2023年度のメンチクは終了、なお2024年度はモーツァルトとブルックナーとのこと。モーツァルトは39,40,41で、ブルックナーは0,1,2らしい。しかしモーツァルトの3曲は尾高が就任した頃の定期演奏会で聴いてあまり面白いという印象はなかったし、ブルックナーはあまり得意でない上に初期交響曲(しかも所詮は習作と言われているヌルテ込み)というのは私にはいささかしんどい。今年はいよいよ予算も切迫していることであり、今年度の企画はパスかなというところである。

 

 

この遠征の前日の記事

www.ksagi.work