教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/10 BSプレミアム ヒューマニエンス「"免疫"変異ウイルスを迎え撃て」

2種類の免疫システム

 今回はコロナ流行で注目されている免疫。体を守る防衛システムである。

 まず免疫システムだが、そのシステムは2種類のグループがあるという。1つは自然免疫と呼ばれる白血球など。ウイルスなどが入ってくると血管から飛び出してそれらを体内に取り込んでしまう。もう1つは獲得免疫と呼ばれるもので、ヘルパーT細胞がB細胞に命令して抗体を作らせることでウイルスが細胞内に入り込むのをブロックするのである。

 自然免疫が初動で動き、その次に獲得免疫が働くことになる。獲得免疫は高い攻撃力が特徴だが、作動するまでに1週間ほどかかるという弱点がある。それは自然免疫がウイルスを食べて情報を取ってから、その情報がT細胞に伝わって攻撃態勢を整えるために時間ロスが生じるのだという。この時間ロスをカバーするのがワクチンで、これは無害化したウイルスの一部を事前に体に接種し、免疫に学習させておくのである。

 

 

ウイルスだけでなく、抗体も変異していた

 コロナウイルスは次々と変異を繰り返して新型株を生み出している。季節性インフルエンザの変異が100年間に3~4回なのに対し、新型コロナは既に3年間で5回も変異を繰り返している。これらの変化に対して免疫は全く無力なのだろうか。しかし驚きの報告がなされている。京都大学の濱崎洋子氏の研究によると、ワクチン接種者の血液検査の結果、3回接種者にオミクロン株に対する抗体がわずかだが現れていたのだという。これは抗体の構造自体も様々に変異したものが生まれているのだという。ウイルスだけでなく、抗体の方も変異を持っているのである。

 しかし獲得免疫にはリスクもあるという。感染を抑えるはずの抗体だが、ウイルスのスパイクへの結合時に、結合した部位によっては逆に感染力を高めてしまう事例もあるという例が見つかったという。というわけで様々生まれた抗体の中にはリスクを持つものも存在し得るとのこと。免疫系はこれらのリスクも覚悟の上で変異を行っているのだという。

 B細胞は骨髄で作られるが、これに対してT細胞は胸腺で製造される。しかしその胸腺は成長と共に縮小して大人ではほとんど存在しないという。だからT細胞は数が限られることになるのだという。これは成長してから劇的な環境変化による全く新たなウイルスなどが登場した時に対応できない危険性をも意味する。そこでiPS細胞で胸腺を作るという研究もなされているという。

 

 

免疫を強化する方法

 では免疫を強化するにはどうするかだが、やはり免疫も体と同様に鍛えられるという。新型コロナの被害が医療が遅れているアフリカで爆発することが懸念されていたのだが、予想に反して被害は先進国の方が多かったという。これについて、コロナは免疫細胞を暴走させるが、アフリカはこの免疫の暴走が少ないのではないかと考えられる。これは寄生虫感染が多いことで免疫の暴走が抑えられているのではという。実際に免疫の暴走が原因となる1型糖尿病を患っているマウスに寄生虫に感染させると糖尿病の悪化が防がれたという。つまりは日々の暮らしの中での免疫の鍛錬も必要なのではという。これが衛生仮説だという。

 たまたま免疫が鍛えられていたためにコロナの重症化が阻止されたと考えられる事例が日本でもあるという。ワクチン未接種者1413人の血液を調べたところ、838人からコロナを攻撃するT細胞が発見されたという。このT細胞は歯周病を起こすセレノモナス・ノクシアに対する攻撃性を持っていたという。セレノモナス・ノクシアとコロナでは性状から大きさまで全く異なるのだが、アミノ酸配列を比較したところ全く同じ配列が見つかったという。そのために軽症化したのではという。

 このように免疫系は実に複雑であり、未だにすべてが分かっているわけではない。そんな中でBCGワクチンを接種した人の92%がコロナに感染しなかったという報告もある。これについてはBCGワクチンがマクロファージに作用しているという研究報告がある。そのことからBCGワクチンを使用したコロナワクチンなども研究されているという。

 

 

 結局のところ、コロナについてはまだ確定的なことは全く分かっていないというのが真実のところのようである。今回の内容についても「ホンマかいな?」というような真偽がまだ怪しい情報も含まれていた。あまり目の前の胡散臭い情報に振り回されすぎない方が無難だろう。

 今のところ間違いないと言えるのは、バランスの良い栄養を摂って、規則正しい健康的な生活によって体の状態を良好に保つのが最も病気に強い状態って話になってしまうような気がする。どうも免疫系の相性の話はくじ運みたいな感があるので、ベースになる部分をできるだけ底上げしとくしかないような・・・。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・人間の免疫には白血球などの自然免疫と、リンパ球による獲得免疫がある。
・獲得免疫の方が強力であるが、自然免疫がウイルスなどのサンプルを分析してからT細胞に伝え、さらにB細胞に命令が行って抗体が作られるという過程をたどるので、起動するのに1週間ぐらい要するという弱点がある。それを埋めるのがワクチンである。
・コロナウイルスは次々と変異をするが、実は人間の抗体についても変異が存在し、ウイルスの変異を先回りすることもある。ただし逆に感染力を高めてしまうような事例も存在する諸刃の剣ではある。
・T細胞は胸腺で作られるが、成長すると胸腺は消滅する。そこで胸腺の細胞をiPS細胞から製造することで、T細胞を意図的に増やすという研究もなされている。
・またたまたまコロナに対するT細胞を有していた事例が存在するという。歯周病を起こすセレノモナス・ノクシアがたまたま部分的にコロナウイルスと同じタンパク配列を有することから、これに対するT細胞がコロナを軽症化するのに働いたという報告がある。
・またBCGワクチンがマクロファージに作用してコロナ感染を防ぐという報告もあり、これを利用したワクチンも研究されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・結局のところ「何が本当やねん」と言いたくなったのが今回。私の印象としては、思っている以上に免疫系は個体差が大きく、これがコロナに対しての重症度の違いとしてもっとも大きく影響している印象を受ける。

次回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work

前回のヒューマニエンス

 tv.ksagi.work