2021/11/17

Stevie Wonder / Where I'm Coming From ('71)

A1Look AroundB1I Wanna Talk to You
A2Do Yourself a FavorB2Take Up a Course in Happiness
A3Think of Me As Your SoldierB3Never Dreamed You'd Leave in Summer
A4Something Out of the BlueB4Sunshine in Their Eyes
A5If You Really Love Me
 リトル・スティーヴィー、などと周囲に愛玩された少年も、やがて声変わりを経て、チン毛が生えたりもして、大人のオトコへと成長していきました。
 もはやリトルではない、才気みなぎるスティーヴィーは、箸の上げ下ろしまでコントロールしようとするモータウンの支配から逃れ、自由に創作したいと渇望するようになります。

 モータウンの桎梏から脱し、完全自由になったスティーヴィーが名作『トーキング・ブック』を編み出し、そこからスーパースターとしての黄金期が始まった…というのが世間一般の通説でしょう。これ、あながち間違っていません。ほとんど正解。
 ただし実際にはいきなり自由になったわけではなくて、『トーキング・ブック』以前に、段階的に自由を勝ち取っていく過渡期とおぼしきアルバムが存在します。『心の詩』と、本作がそれ。

 セシルとマーゴレフが助さん格さんのように付き従った『心の詩』は、おそらくかなり自由に、好き勝手に制作できたアルバムでしょう。聴いてみれば、それは明らか。

 しかし『心の詩』の前作にあたる本作は、まだまだ旧態依然たるモータウンっぽさが濃厚です。

 プロデュースの権限を委ねられ、どうぞご自由に、とモータウンから突き放されたものの、どうしてよいかわからないスティーヴィーは右往左往して「あのーオレどうしたらいいんですかね」とモータウンに相談してしまう体たらく。
 そんなスティーヴィーの依存体質の結果、従来とあまり変わらない、モータウンのアルバム製造工程に乗っかって制作されることにあいなりました。

 それでもなおスティーヴィーの創作意欲はきわめて旺盛で、新妻シリータとセックスしながら共作した(であろう)曲たちが、ズラリと並びます。スタンダード・ナンバーやカバー曲、職業作曲家による提供曲などはことごとく遮断して、夫婦の作品がリストを占拠しました。

 アルバム制作に関するあらゆる諸事を、いきなり好き勝手のやりたい放題にすることを潔く諦めたスティーヴィーは、とりあえず今作については曲目の決定権だけでもガッチリ踏み固めておこう、そう考えたのではないかなあ。
 そして次回こそ、サウンド・プロダクションの面でも全てを掌握してやろう、そんな未来を描いて『心の詩』へと突き進んでいったのでしょうきっと。
 未完の天才が、しくじったり、けつまずいたり、何とも青臭いことしとるわけです。まさにその真っ只中なのです。青春の軌跡とは言い得て妙ですね。

 私はこのアルバム、嫌いではありません。スティーヴィーの先進性と、モータウンの定石がほどよい塩梅でブレンドされ、良質のポップスに実を結んでいるからです。

 後年の名作群にありがちな、「オレって天才じゃん」という無敵ムードが希薄なので、そのへんを物足りなく感じるファンもいるでしょうね。その気持ちもわかりますよ。全盛期の作品と比べると、単体での費用対効果が低いのは否めないところです。
★★★★

Producer: Stevie Wonder

Arrangers:
Stevie Wonder
Paul Riser
Jerry Long
David Van DePitte

Art Direction: Curtis McNair
Graphic Supervision: Tom Schlesinger

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