https://images.nasa.gov/details-9802668
あまり時事ネタはやらないのですが、浮かんでしまったのでまとめました。
2022年4月30日、以前より、国際宇宙ステーション(ISS)の撤退を表明していたロシアの国営宇宙機関のROSCOSMOS(ロスコスモス)のCEOであるドミトリー・オレゴヴィチ・ロゴージン(ロシアの元副首相)がロシアの国営テレビ(日本でいうNHK)で、1年間の契約義務を果たしたのちに撤退することを話しました。
本当に撤退するかはロシア政府の決定が必要になるため、まだどう転ぶかはわかりません。
この国際宇宙ステーションは、2020年まで運用されることとなっていたのですが、アメリカの宇宙機関であるNASAの計画で、2030年まで運用することが計画され、各国に呼び掛けておりロシアも検討中でありました。
NASAでは民間の宇宙ステーションの計画も進めていたのですが、まだ先になる見通しから延期したという背景があります。
国際宇宙ステーションは政府間協定( International Space Station Intergovernmental Agreement)により、国際宇宙ステーションの設計、開発運用、および利用における各機関の役割と責任を明確にしています。
ロシアは国際宇宙ステーションに燃料を供給することで軌道を維持することで衛星の寿命を延ばすスペースデブリを回避する推進系の機器をはじめ、インフラや研究設備、収納設備を担当しています。
さらには国際宇宙ステーションを構成するところ以外では、地上と軌道上での通信を行う地上局なども担っています。
またこの政府間協定には、各国の法律に反しておらず、合意が取れれば移管することが可能で迅速に対応することが求められています。
特に安全を求められる対象に関しては基本は制限がないものとしています。
この前提でロシアの撤退を考えてみます。
ロシアの所有設備をどうするか
正直、撤退側のロシアがやるべきことを単純に書き出すと3つになります。
撤退ということですので最低限にとどめておくこれぐらいになります。
残った側で考えなければいけない方がいくつかあります。
ロシアの設備をどうするのか?が大きな課題になります。
一つはロシアが管轄していた設備(モジュール)である「ズヴェズダ」をどうするのか考えなければなりません。
それぞれ推進機能やロシアの居住スペースを担っています。
このロシアの所有設備を廃棄するのか、買い取るのか、残った側が選択することになります。
買い取るにしても、老朽化が激しいことから買い取り手がいるのか、そもそも売りに出されない可能性もわずかにあります。
代替機を用意するまでの間、それが期限の1年を超えてしまう場合は、残った側の交渉で引き延ばしを発生させるか、一時的な設備レンタルという形で進めていく可能性があります。
代替機は結合場所から課題はありますが、アメリカのシグナス補給船の実験を始め、商用有人宇宙船スターラーナーなどで実験も行われています。
交渉の引き延ばしの場合は、ロシアの設備はISSの寿命に大きくかかわってきており、前述の政府間協定に記載のあるISSを維持するため、安全目的のためにお互いに協力していく必要があることから、ロシア側が権利を放棄するか可能な限り協力体制をしていくことにはなると思います。
一時的なレンタルの場合では、ロシア側での特有の作業に対しての引継ぎが行われることになります。しかし、多くの事業撤退企業がそうであるように簡単なマニュアルを提供するのみで有効なマニュアルの引継ぎが行われないこともあり、難しいところです。
マニュアルなどの引継ぎを考えるのであれば、早々に新しくロシアの設備の機能を補うことのできる宇宙機を打ち上げることが早くて、資金もかからないように思えます。
ISSのロシア撤退はISSの運用計画(更新計画)が公開されるたびに話されており、最近では2021年の春ごろにも話題に上がりました。
このことからロシア特有の作業に対しても共有の準備がされているといいなとは思います。
残った側からすると、新たな実験設備を接続できる空間ができたと考えれば、現在宇宙業界で広まっている新興企業(new space)が購入する可能性が高いかもしれないですね。
国家間の取り組みであるため責任の所在を考えると、アメリカがロシア側の設備の所有権を購入して、国家や企業に対して一部を売り出すという可能性の方がありそうな気がします。
民間での次世代宇宙ステーションの話も上がっていることから、宇宙空間での試験設備提供することを権利として販売し、new spaceが購入して、次世代宇宙ステーションが完成するまでの実験場にする可能性の方が高い気がします。
もちろん、ロシアの設備は廃棄して、新たに自社製の設備を結合することが目的とはなります。
残った側の手間を考えると、ロシアが撤退する前に廃棄を行ってもらい残されたところに対して権利を販売するというのが楽ですが、経験値的には廃棄もすべて購入した側で実施してしまった方が良いと考えてしまいますね。
運用資金やリソースをどうするか
ロシア所有の設備をどのように扱うかという問題もありますが、運用資金の分担も考えなければなりません。
推進系の推薬補充のほかに、現在はいくつか他の居住スペースの予備機能となっていた部分の維持など当配分していくのかもしれないです。
前のデータではありますが、2014年時点で、NASA約4,300億円、ESA約490億円、日本約357億円となっていました。
日本の2020年のデータを見ると約349億円とオーダーが変わっていないことから、他の組織も同等と考えてもオーダーは大きく変わらないと思います。
日本としては負担額が増えるかという点と、おおよそ350億円規模で日本企業(運用、実験、製造など雇用も含めて)にも損失が発生する可能性があることも考えておかなければなりません。
ISS内部のリソースや推進系などからESAよりは多いとは思いますが、NASAよりは少ないという見通しは立ちます。
この負担がどのようにISSの運用に関わるか注意が必要です。
あまりに負担額が多い場合、国家間で維持できる財布事情がなければ、ロシア撤退とともに国際宇宙ステーションの廃棄も進めなければならないことも考えていかなければなりません。
新たに代替機を開発して打ち上げるコストと、現状維持とするか、どちらにせよ残っている組織に負担がかかるのか、選択しなければなりません。
まとめ
まとめてみると、次のような感じです。
- ロシアの撤退は口頭レベルでロシア政府の決定はされていない。
- ロシア所有の推進系モジュールが使用困難になることからISS自体の寿命の問題が発生する。
- ISSに滞在している宇宙飛行士の安全の観点から急にロシアの設備が廃棄されることは政府間の取り決めにより可能性がかなり低い。
- 計画を維持するには、ロシア所有の設備をどのように維持するか廃棄するか、廃棄の場合は代替機能を持つモジュールが必要になる。
- 代替機としてアメリカのシグナス補給船や商用有人宇宙船スターライナーがあるが、結合場所の問題でロシアの推進モジュールよりもスムーズではない。
- 想像ですがロシア側の設備部分の権利が売り出されるかもしれない。
- ロシアが担ってきた運用資金を考える必要がある。
参照文献
Russia set to end collaboration on International Space Station
International Space Station legal
International Space Station Intergovernmental Agreement
国際宇宙ステーション開発に必要な経費
https://judgit.net/projects/2796
各極の役割分担