後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔559〕「瀬戸内人権映画祭」を開催した高校生(邑久高校の「地域学」について)-矢部顕さんからの特別報告です。

2023年01月24日 | メール・便り・ミニコミ
このブログではお馴染みの矢部顕さんからメールが届きました。
岡山県立邑久高校の人権教育が素晴らしいです。そこに講師として深く関わっている矢部さんのメールと報告を読んでください。ビデオには矢部さんも登場します。

◆福田三津夫様

岡山市の東隣の瀬戸内市に県立邑久高校がありまして、そこの高校では
地域学の取り組みを行っています。
今年度の地域学のまとめの発表会である実践報告会が1月19日にありました。
私は5年ほど前から、この地域学の講師をしていますので、招待されて報告会に
参加してきました。全校生徒300人に向かって、それぞれのグループが発表を行う
全てを見てきました。

地域学は、いろいろな分野の取り組みグループがあるのですが、ここにお送りするのは
私の関っているハンセン病グループの報告のドキュメンタリーです。
この映像は、映画「NAGASHIMA~“かくり”の証言~」の監督の宮崎賢氏が取材し編集してYouTubeに掲載したものです。

下記をクリックすれば見ることができます。
2023.1.19「瀬戸内人権映画祭」実践報告会ドキュメント 岡山県立邑久高等学校(映像ジャーナリスト 宮﨑 賢) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=LriCk-sGBrs

また、地域学について私の書いたものを添付します。
                               矢部 顕


   ◆「瀬戸内人権映画祭」を開催した高校生
            邑久高校の「地域学」について
                矢部 顕

岡山県立邑久(おく)高校の「地域学」の取り組みについて紹介をします。
この邑久高校にはかつて新良田教室という分校が長島愛生園にあったのです。
13か所の国立ハンセン病療養所で唯一の高校でした。当時、全国の療養所に入所していた若者が受験して、この高校を目指したのです。高校での勉学と、その先の進学と社会復帰を可能にする希望の唯一の高校だったのです。
しかし、かつてそのような分校があったことを邑久高校の教師も生徒もほとんどが知りませんでした。5年前までは。

●地域で学ぶ、地域から学ぶ
「地域の魅力と課題を学び、地域の活性化に貢献するリーダーの育成」を目標に「地域学」の取り組みが始まったのが5年前でした。瀬戸内市(岡山市の東隣の市)にある唯一の高校として、瀬戸内市をフィールドに「地域で学ぶ、地域から学ぶ」をテーマに、地域の歴史・教育、自然・環境、文化・観光、医療・福祉、自然・科学などの分野別にグループを編成しての研究活動が始まったのでした。
「地域学」はここでは「セトリー」(Be a SETOUCHI Leader!)と名づけられています。
次に、この4年間のセトリー実践報告会でのハンセン病問題に取り組んだグループの研究テーマを記します。
①「後世に伝えよう、邑久高校の誇りと瀬戸内市の歴史」―実際に療養所や新良田教室を訪ねるなどのフィールドワークとともに、実際に新良田教室で学んだ元生徒の方や元教師の方々へのインタビューや、何十年も前からハンセン病問題に取り組んでいらっしゃる方からお話を伺うことによって、文献調査では得られない経験を積んできました。(令和元年・2019年)
②「ハンセン病の歴史とから我々が学ぶべきこと」―ハンセン病による差別、ハンセン病による裁判、ハンセン病と新型コロナウイルス。(令和2年・2020年)
③「長島愛生園が生んだ芸術たち」―長島愛生園の芸術について研究。この研究発表をきっかけに、芸術を通して、多くの方々にハンセン病問題を知っていただきたい。(令和3年・2021年)
(以上は、「令和1・2・3年度地域学“セトリー”研究成果集」より)
④今年度令和4年(2022年)の活動については今号で小西先生に原稿をいただいています。(○頁)

これらの研究は、何度も長島愛生園や邑久光明園を訪問して学芸員や自治会長の話をお聴きしてハンセン病の歴史と現状を学ぶことに合わせて、外部講師として学校に招聘したのは以下のような講師陣です。
愛生園・光明園の学芸員、新良田教室の元教師、新良田教室の卒業生、療養所世界遺産推進協議会事務局長、ハンセン病家族訴訟原告団副団長、地元放送局取材記者、ハンセン病問題長期連載の地元新聞記者、療養所園歌の研究している歌手などなど、年度によって違いはありますが延べにするとたくさんの講師による講義を受けてきました。わたくしも講師のひとりとして呼ばれています。
今年度は、40年にわたる愛生園の取材経験をもっている映像ジャーナリスト・宮崎賢さんのお話と完成したドキュメンタリー映画鑑賞がきっかけで、今回の映画祭主催につながったのでした。

●邑久高校の地域学のはじまり
邑久高校の地域学は平成29年度(2017年)から始まりました。
――ハンセン病療養所のことを調べている時に、偶然そこに邑久高校の名前を見つけたのです。「岡山県立邑久高等学校 新良田教室」です。隔離されたハンセン病患者に対し、邑久高校が全国で唯一、希望の光を与えていた事実を発見したのです。と同時に、今まで長いこと岡山県で教員をやっていたにもかかわらず、そういったことに全く無知でいた自分にあきれました。そこで、ぜひともこのことを契機に、ハンセン病を私も学び、生徒に考えさせたいと思うようになったのです。――
<元邑久高校教諭・田辺大蔵氏>(「むすび便り」2019年12月14日発行第45号より)
田辺先生には、「むすび便り」に「邑久高校のハンセン病問題の学習」と題して11頁にわたる寄稿をいただいています。

平成30年(2018年)には瀬戸内市で「邑久長島大橋架橋30周年記念シンポジウム」が開催されました。<基調講演は徳永進さん(FIWC関西)>
邑久高校生がボランティアで運営に関わり、受付、誘導のみならず、ステージ上での総合司会や、パネルディスカッションのパネラーとして登壇しました。
パネラー佐藤朱里さんは「今まで学んだことや療養所を訪問して、肌で感じたことを若い世代に伝えていきたいと思い
ます」と締めくくりました。

この先輩たち以降、それまでの積み重ねを継承するなかで、今回の上映会はお手伝いではなく、まさに主催者としての役割を持つまでに至ったのです。
ドキュメンタリー映画製作は次の世代への継承という意味も大きいわけですが、この「地域学」の学びも、若い世代への継承という意味ではとても重要なものだと感じました。

●勉強と学問
いま、あちこちの高校で「地域学」の取り組みが行われているようですが、なかなか良い試みだと思います。教師もテキストだけを教えていればそれで済むということではありませんので、生徒と共に学ぶという姿勢も問われてきます。
私たちの世代の高校時代は、地域のことから学び地域に貢献する人材の育成などの考えは全く無くて、ともかくいい大学に入ることだけが目的の高校教育でした。当時はおしなべてそんな時代でした。
高度経済成長の時代とあいまって、都会への一極集中をもたらし、その結果がいま日本中で地方・地域の衰退という現実となっていったことは明らかであります。
学校での「勉強」という言葉は「強」いられた「勉」めという感がありますが、「学」んで「問」う、「問」うて「学」ぶ「地域学」は「学問」の始まりといえましょう。試験で正解がひとつ、と答えることだけを訓練される勉強ではない、大切な本質的な学びがあると思います。

「瀬戸内人権映画祭」では上映だけでなく、公式パンフレットと名づけたA4で12頁の研究成果を冊子にして参加者に配られました。
目次を引用します。
1. はじめに
2. 映画「NAGASHIMA~“かくり”の証言~」紹介
3. ハンセン病について
4. ハンセン病Q&A
5. 私たちの出会い~ハンセン病問題に関わった人々~
6. 長島愛生園訪問レポート
7. その他―ハンセン病を扱った映画紹介①「もののけ姫」②「あん」
このように、生徒たちのたいへん詳しい研究内容を分かりやすく編集していることに感心しました。映画を観に来てくださった方々への貴重なお土産でした。

ハンセン病問題は、この高校の若者たちの学びによって確実に継承されていくことでしょう。
                        (やべあきら NPO法人むすびの家理事)

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