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モラしま太郎 後編

「ねえママ? 途中まで聞いてて思ったけどこのお話、桃太郎と浦島太郎の2つのストーリーが混ざっているわ」

 

「そうかしら?」 

 

「え?」

 

「よーく思い出してみて? ほら! モケポンも混ざっているわよ」

 

「あーーーーそういえばーーーーーーカメエエエエエエエエエエックゥゥゥスゥ!!!!」

 

「ふふふwまだまだねアリサ」

 

「精進します……ママはすごいよ。洞察力が尋常じゃないわ……流石現役の刑事ね! じゃあ続き読んでー」

私は思うんです。尋常じゃないのは、アリサちゃんの語彙力の様な気がします。 この子は若干3歳だそうです。ですが、沢山の言葉を知っています。一体どんな学習をすればこんなに喋れる子供が育つのでしょうか?

 

「はいはい」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「皆さんしっかり掴ってくれカメー」

 

「うん!」

 

「青い海! 綺麗だワン」

 

「初めて泳いだ海の底。とっても気持ちがいいもんキー」

 

「水がいっぱい! 不思議な感覚だケーン。羽が濡れてしまうケーン

カメは竜宮城があると言われている海底に泳いでいきます。水深400メートルくらいでしょうか? 徐々に上がる水圧に耐えながら皆しっかりと亀の甲羅にしがみつきます。そして……

 

「竜宮城に着きましたカメ!」

大きなお城の前に一人と4匹は立ちます。もう水圧や空気も地上と変わりません。

 

「大きい城だね。私がこんな所に入っていいのかなあ」

 

「大丈夫です。あなたはおじいさんとおばあさんから救ってくれた恩人です。胸を張って下さいカメ」

 

「え?」

 

「私はずっと耐えてきました。そしてあなたに連れて行っていただいた事で、逃げる事が出来たカメ」

 

「そうだったのかい? 優しい方々だと思っていたのだが……」

 

「根は優しい筈です。ですが、皆ストレスで疲れているから誰かにぶつけないといけなかったのです。では中に入るカメ」

門に差し掛かると蛸の番兵が声をかけてきます。

 

「ん? あなたはまさか! 進化したみたいですけど面影はあります……おかえりタコ!!」

 

「覚えていてくれたのか? かつて私がここにいた時はまだ小さい小さいコバンガメだった。なのに最終進化のカメXの姿でも覚えてくれていたなんて……嬉しいカメ……」

 

「忘れませんよ。ささ、乙姫様👸も喜ぶでしょう! 早く顔を見せてあげて下さいタコ! お連れの方もどうぞタコ!!」

カメX一同は快く通されます。

 

「ただいま戻りましたカメ!」

 

「あらあら? 姿はカメXですが、その輝いた目、そしてその声、そしてその生臭さ……分かりますわ!! あなた、コバンガメでしょう? あんな小さかったのにこんなに成長して……お帰りなさい」

 

「はい! ただいまですカメ!」

 

「積もる話をしたいけれども、後ろの方々が気になりますわ」

 

「彼はモラしま太郎さんです。鬼を退治するため向かっていますが、兵糧が尽き、一旦ここを中継地点として使わせて頂く事になりましたカメ」

 

「あの鬼達を退治してくれるというのですか?」

 

「お任せ下さい! この心のモラルが燃え上がってます!」

 

「あら頼もしい! では前祝いで御馳走を作らせましょう」

 

「軽い物で結構です。戦の前ですから」

 

「そんな……結構良いマグロ🐟が手に入ったのですよ?」

 

「いえいえ、すぐに発ちますので」

 

「そうですか? お名前の通りモラルの塊のようなお方ですね……分かりました。料理長! 軽めの御馳走をお願いね」

 

「はい!」

 

「料理が出来るまでお話ししましょう?」

 

「はい」

 

「鬼はとても強いですよ? どうやって戦うつもりでしょう?」

 

「はい! カメXを盾にして、その後ろから攻撃します!」

 

「え……モラル……」

乙姫様が少し引いた顔になります。

 

「ハッ!!」 モラしま太郎はこの時気付いたのです。カメXを囮にして防御の低さをカバーするこの戦い方、これも戦術として割り切っていたけれど、考えてみれば結構卑怯な行為だ! と、言う事に……しかもこの竜宮城の住人のカメを利用してです。それをハッキリ盾にすると言ってしまいました。これには乙姫様も絶句してしまいます。かなり恥ずかしい事では無いでしょうか?

 

「し、しまった!」

 

「……」

うつむく乙姫様。

 

「お待たせしました!」

新たに生まれた悩みを解決する議論に移る前に、料理長直々にいくつかのお皿が運ばれてきました。 これは海藻のスープですね。

 

「さあ召し上がれ!」

 

「い、いただきます」

 

「いただきますワン」

 

「いただキーますキー」

 

「いただきますケーン

ズズッ

 

「う! 旨い! おばあさんの手料理よりも!? 力が湧いてきます! これならカメXを盾にしなくてもいける気がしてきました」

旨い料理はその人を元気にする効果があるのでしょうか? さっきまでの悩みまでもが吹っ飛んでしまったみたいですね。これで準備は万端ではないでしょうか?

 

「本当ですか?」 「はい! 乙姫様! 御馳走様! 私はこれで行きます」

 

「そうですか……ではこれを」

 

「何でしょうか? これは」

 

「玉手箱📦です」

 

「玉手箱……ですか? この私に? 料理までいただいた上にこんな綺麗な箱までよろしいのでしょうか?」

 

「はい。ですが、決して開けてはいけませんよ?」

 

「は、はい? 開けてはいけな……?(どういう事だろう? 何か怪しい……)」

 

「ルールなのです」

 

「そうですかルール……モラルと似ている美しい響きですね。そういう事ならば仕方ないですね」

似ていますかねえ?

 

「では、勝利した暁にはまた来て下さい!」

そういいつつもどこか寂しそうな顔をした乙姫様。

 

「ではあなたに一番に勝利を報告致します!」

 

「まあまあ……嬉しいわ! じゃあまた!」

 

「はい! では行こうカメX!」

 

「はい! では私の背にお乗り下さいカメ!」

 

「いくぞ! みんな!」

 

「ワン」

 

「キー」

 

ケーン

皆、気合十分です! 竜宮城を出ると、カメXは物凄いスピードで鬼ヶ島を目指します。

 

「うわ、早すぎる……うっぷ」

折角頂いた海藻スープが逆流しそうになり、慌てて口を抑えるモラしま太郎。頑張って下さい? あなたがワカメ1枚でも吐いた時点で、このお話のモラルは全て消え失せてしまいます!

 

「もうすぐ夜になります。今日中に片付けましょうカメ」

 

「そうだね。うっぷ……あっあれが鬼ヶ島!」

 

「上陸しますカメ」

 

「行くワン」

 

「気合い入れるキー」

 

「羽が濡れていて飛べないんだ……乾くまで待ってケーン

ズコー(T_T)

 

ああっ!? いい所で勢いが落ちてしまいました。ですがこれは仕方ありません……雉の羽が乾くまで暫く待ちましょう。

 

「岩がある。この陰で隠れて待とう」

 

「申しわケーン

雉も流れを止めてしまい反省しているようです。

 

「ん? くんくん……何か変な臭いがするオニ👹」

あっ! 偵察の鬼でしょうか? 岩場の傍のモラしま太郎達の臭いを感じ取ってしまったのでしょうか? 今見つかっては危険です! 雉が飛べなければこのチームは機能しません。

 

「にゃーん😸」

 

「なんだ、猫かオニ」

カメの機転により鬼は去っていきました。しかし、一つ疑問が湧いてきます。それは鬼ヶ島にも猫は居るのでしょうか? と言う事ですね。もし居るとすれば鬼が島に住む猫ですから……品種はさしずめャットと言ったところでしょうか? 分かりませんけれども……

 

「猫の鳴き声上手だね」

 

「いつも乗せて走り回っていましたからね。ずっと聞いている内に癖を掴んだカメw」

 

「そうなんだ」

 

「フッ……昔の話ですよ……」

 

「雉! そろそろ乾いたかい? 君の空中殺法は心強い」

 

「もう少しです。もう少しです……もう少しであの華麗なる空中殺法が出来るまでになります!」

 

「わかった! じゃあ暇だし乾くまで準備体操していようね」

 

「1,2,1,2」

 

「カメ、X、カメ、X」

 

「ワン、ワン、ワン、ワン」

 

「モン、キー、モン、キー」

皆入念にアキレス腱を伸ばしています。

 

「乾いてきました」

 

「よし、みんな準備はいいかい?」

 

「おう!」

そして、モラしま太郎は隠れていた岩場をよじ登り、刀を空に掲げつつ叫びます。

「我は桃から生まれたモラしま太郎也! 都の領主から奪った財宝を取り戻しに来た! いざ尋常に勝負せよ!」

 

「何故オニ?」

 

「え?」

え? 意外ですね。噂では乱暴者で通っていた鬼は、突然の侵入者に襲い掛かる訳でもなく優しく聞いてきます。

 

「何故桃から生まれたお前が都の領主の財宝を取り返す必要があるのかを聞いているんだオニ」

 

「そ、それは」

これは一本取られてしまいましたね……確かにオニからすればモラしま太郎に縁もゆかりもない都の領主の為に命を張って鬼ヶ島に来る理由は分かりません。一体どうするのでしょうか?

 

「理由がないなら帰るオニ。争う理由は無い筈オニ。俺は何も見なかった。文句はあるオニ?」

 

「モラル!!!」

 

「え?」

え?

 

「私はおじいさんからこのモラルと言う言葉の頭文字を名前に戴いた。この名前に誇りもある。都での話を聞いた時、心の底から怒りが湧いたんだ。だから自分のモラルに則る行為を! 自分に嘘を突きたくない行為をやるしかないのだ! 例え自分に直接関係あろうがなかろうが悪事は悪事。絶対に許す訳にはいかない! 覚悟しろ!」

モラしま太郎は真っ直ぐオニを見据え、魂の籠った言葉を放ちます。

 

「やるのかオニ?」

 

「もはや語る事など無い!」

刀を正面に構えます。

 

「いざ勝負!」

 

「勝負オニ!!」

ダダダダダ 

 

「人間よ、力の差を思い知るオニ」

ダダダダダ キィン

最大限に振りかぶり、全身全霊を込め振り下ろした刀と、オニの拳とが金属音を響かせぶつかり合います。鬼の皮膚は鋼の様に堅固なようです。傷一つも付いていません。

 

「うっ腕が……なんて力……でも」

 

「無理するなオニ。力の差は歴然だオニ」

 

「桃花流奥義……根九多流ネクタル斬」

ザザザン

 

「無駄オニ」

真剣白刃取りで返され、刀は遥か遠くに飛ばされてしまいます。そして大きく腕を振りかぶって殴りかかってきます。

 

ケーン

 

「ぐわあ」

何と! 雉の攻撃が鬼に効いています! 雉は鬼の眼球を足の鉤爪で引っ搔いたようです

 

「モラしま太郎さん! 早く刀を!」

 

「くそ! 皮膚は固いが眼球は人間並みだと言う事がばれてしまったオニ」

何と! オニは自分の弱点をうっかり滑らせてしまいましたね。とことんまで優しいんですね。それに、ゴーグル👓やサングラス🕶で弱点を守らない所にも鬼らしからぬ武士道精神を感じます。

 

「桃花流秘義……桃文字斬り!!!」

ザザザザザーン 刀を拾い、神速で飛び掛かり鬼の眼球に狙いをすました10連切りを放ちます。

 

「クッ早い……捌き切れないオニ……」

10回中7回がオニの眼球をかすめ、慌てて身の守りを固めます。

 

「そうはいかないキー」

しかしすかさずサルは、わキーの下をくすぐり、防御体制を崩します。

 

「このサルめがオニ!!」

ドカッ

 

「ウキー……バタッ」

 

「猿よ! 身を挺してよくやってくれた! 今しかない……桃花流究極秘奥義! 一桃……両! 断!!!!」

 

「ぐふっ」

オニは目を押さえて倒れました。

 

「勝利モラ!!」

ん? モラしま太郎がモラと言う語尾を急に使い始めましたよ? 感極まってしまったのでしょう。後で恥ずかしくなる感じでしょうが、若気の至りと言う事で見逃してあげて下さいね。

 

「しかし一匹倒すのにこれだけ苦労するのかワン?」

 

「さキーが思いやられるキー」

 

「でも負ケーン

 

「ああそうだね。だがMPモモポイントを大量消費する究極秘奥義は使うべきではなかった……」

 

「俺もだワン。いつの間にかMPが半分になっているワン」

 

「おいらもだキー」

え? 猿は確か鬼のわキーの下を擽っていただけですけど……

 

「弱点が分かれば通常攻撃でも行けると思うケーン。そうだ! キビダンゴ僕一羽では食べきれなくて羽の間に半分残しておいたんだケーン

 

「え? そうか! あの時沢山の蜂が来たのは君のキビダンゴの匂いに釣られて来たんだね? じゃあここで食べなよ」

 

「ですが、この隊の最高戦力であるモラしま太郎さんのMP回復こそが最重要だと思うケーン

雉の言う事にも一理あります。

 

「待ってくれ。私はキビダンゴ【1つ】で君と主従契約を締結したんだ。もし私が君のキビダンゴを半分食べてしまえば、1つで契約した他のお供達と差別になってしまう」

彼はどこまでもモラルの塊なのですね。

 

「いいんです。僕の空中殺法の消費MPはそれほど多くありません。その代わりにモラしま太郎さんの剣技よりも威力は劣りますケーン。ですから!」

 

「いや、雉は高病原性鳥インフルエンザウイルスを発症する危険性がある。君の食べかけは非常に危険だ。だから君自身で食べるんだ!」

ああ、優しさではなくこれが本音だったようですね……結構慎重派ですね。この過度な慎重さ加減……私の妹の事を思い出してしまいます……忌々しい……

 

「良く分からないけど分かったケーン

ついばみついばみ ごっくん 

雉のMPが999回復!  すごい! 半分でもこの効果です! 凄まじいですね。おばあさんのキビダンゴ! そう考えると序盤で犬やサルもすぐに食べてしまった事が悔やまれます。本当ならばここまで温存するべきでしたね。

 

「美味しいケーン!」

そうしている間に鬼の群れに囲まれてしまいます。

 

「怯むな! これをくらえー」

 

「うりゃーワン」

 

「サルキーック」

 

「急降下鬼ドリル嘴ぃぃいぃ!」

それぞれの通常攻撃で数々の鬼の眼球を攻撃します。かなりの精度を要求されますが、慣れれば意外といけるようです。雉はMPを回復したばかりでかっこいい空中殺法を多用しています。絶好調ですね。ですが調子に乗って一番に枯渇しなければよいですが……そして、彼らの通った跡には、目を押さえもがき苦しむ鬼達が転がっています。そして、島の中央の屋敷を目指します。

 

「ここが鬼の親玉の屋敷だな?」

一際大きな建物。しかし物怖じすることなく内部に進みます。

 

「頼もおおおおおお!」

屋敷内にモラしま太郎の声が響き渡ります。

 

「ん? 何だボスオニ?」

え? ボスオニ? 何ですかこれ? …………恐らくこれは語尾です! 語尾に【ボスオニ】と言うワードを付けている登場人物がいますね? わかりました! この声の主こそ、この島のボスの鬼です!! 「我は桃から生まれたモラしま太郎也! 鬼よ! この屋敷に運び込まれた都の領主様の財宝を返してもらう!」

 

「駄目だボスオニ」

言葉数は少ないけれど物凄い威圧感です。

 

「我のモラルに懸けて、必ず取り返す!」

 

「モラルとは何だ? そんなものの為に命を捨てに来たボスオニ?」

そう言いながら立ち上がります。

 

「うわ! なんて巨大な!!」

鬼は身の丈17メートルはあります! そしてボスオニから物凄い気力が漂っています。来ます!!! ブオン!!!!!! ボスオニは引き絞り放たれた矢の様なスピードで拳を振り下ろしてきます。

「うわああああ」

ドドドドン

 

紙一重かわしますが、風圧で壁に吹き飛ばされます。

 

「恐ろしい力だワン」

 

「こんな奴に勝てるのキー?」

 

「諦めないでケーン

お供の3匹は、恐怖のあまり動けず応援するのみです。

 

「こんな豆粒のような動物3匹とちっぽけな人間一人でオイラを倒そうだなんて馬鹿だボスオニ!!」

あれれ? このボスオニ意外とかわいい一人称でしたね。

 

「うう……」

ぽたぽた……ぽたぽた…… 

 

「んボスオニ?」

 

「み、見るな!!」

なんと! モラしま太郎はおしっこを漏らしています!! 巨大なボスオニの強烈な攻撃に尿道が緩んでしまったのでしょうか? そして悲しいお知らせが……この瞬間、このお話のモラルは崩壊しました……皮肉にも主人公の失態によりね……

 

「ガハハハハボスオニw お漏らしをしてしまったボスオニwwモラしま太郎のモラはモラルのモラではなくお漏らしのもらだったかもしれないボスオニィww」

歯に……いいえ。牙に衣着せぬ容赦ない暴言。流石ボスオニです。心もオニそのもの……

 

「……ハッ……そうだったのか……私は物心ついた頃からずっと疑問に思っていた。ちょっとした事で出てしまうこのおもらし……これをおじいさんは知っていて私にこの名前を付けたんだ。本当のこの名前の由来は、モラルのある人間と言う意味ではなく、漏らしたことをカムフラージュするために付けた名前だったのか……おじいさん……信じていたのに……酷い……酷い……」

おじいさんへ抱いていた微かな疑念が確信に変わった瞬間です。

 

「もう帰れボスオニ! そんな汚い衣装でオイラと戦うのはそれこそモラルに反するボスオニw」

 

「だ、黙れ! 知った風にモラルを軽々しく語るなぁ!」

そう言いつつなりふり構わず刀を振り回し突っ込みます。型もへったくれもあった物ではありません。そして当然……

 

「フンボスオニ!!」

鼻息一つで吹き飛ばされる始末……

 

うわあああ」

ドン!!

 

「モラしま太郎さん……もう諦めるワン」

 

「ク、クソ……犬よ! こんな所で諦めたくない……ここまで惨めな様を晒して逃げるなんて……」

再び立ち上がり走ります

 

「モラしま太郎さん……」

 

「はあ!!」

ボスオニは手刀で起こした真空派をモラしま太郎に飛ばします。

 

「うわあ」

コロンコロン 

あっ! 倒れた拍子にモラしま太郎の脇に抱えていた何かが落ちてしまいます。

 

「ん? なんだこれはボスオニ?」

それは乙姫様から貰った玉手箱でした。ボスオニはそれを興味津々で拾い上げます。

 

「しまった!!!」

そうです。アニメであれば一目瞭然ではありますが、これは小説です。なので今まで気付かれる方は少ないとは思いますが、彼は今まで片手をこれで封じられた状態で戦っていた訳です。それでは動きも鈍くなるというものです。 しかし、なぜ律義に持っていたのですかね? 本気の戦いにそんなハンデを背負うのは敵に失礼だと思うのです。もしかしてこれを置いて戦う事でモラルに反すると判断したから手に持って戦っていたのでしょうか? そこまでは分かりません。

 

「綺麗な箱だボスオニ……」

オニでも芸術が分かるのでしょうか? 一つの芸術作品を見る様なうっとりとした眼差して見つめています。

「止めてくれ! それを開けてはいけない!! 乙姫様が悲しまれる!!(くそ! 落としてしまったばかりに気付かれてしまった……)」

 

「開けてはいけないと言われると気になるボスオニィ

シュルシュル パッカ  太い指で器用に箱の封印を解きます。

 

「ああ、なんて事だ」

がっくりと肩を落とすモラしま太郎。しかし……!

 

「中身は……ん? 何もないボスオニ……!」

モクモク モクモク 箱の中は空っぽだったようです。しかし中から不思議な煙がボスオニの顔を包み始めます。 モクモク モクモック

 

「な、何が起こっているんだ?」

モラしま太郎も現状を理解できません。2分程経過したでしょうか? 煙が晴れてきました。そこに現れた物は……

 

「ヨボヨボヨボボスオニ……」

何とボスオニが、おじいさんボスオニに変わってしまいました!!!

 

「え? こ、これは一体? な、何で? 乙姫様? そ、そんなのモラルに反する行為ですよ……」

絶望するモラしま太郎。それもその筈です。帰ったらモラルに反しコッソリ絶対開けようと思っていたその箱の中身が、老化するガスを噴出する罠の仕掛けられた箱だと言う事を知ってしまったからですね。 これを知ったモラしま太郎は訳も分からず怒りが込み上げてきました。 本来その怒りは乙姫様に向けられる筈ですが、当人は居ません。近く居ると言えばヨボヨボのボスオニとお供しかその怒りをぶつけられる相手は居ないのです。お供に当たる訳にもいかないし……とはいえこんな老衰した敵に手をかけていいのか悪いのか? そんなジレンマを振り払い、刀を構えます。

 

ピコーン💡 そのやるせなさで悲しみの感情が最大に達したのがきっかけなのか? モラしま太郎は閃いてしまいました。彼の出せる中で最強の技を……神の領域に到達出来る可能性までをも秘めた神技……をッッ……!! 神獣さえも屈服させることすら可能な禁技を……放つ!!

 

「桃花流神技!! 李も桃も桃の打ち!!!!」

打打打打打!!!!  目にも止まらぬ連続攻撃。およそ1兆回は叩いているでしょう。何故そんな事が分かるのか? ですか……? 分かりました! お教えしましょう!! それは意外と簡単な事なのです。 思い出して下さい。漢字の桃と言う字を。その漢字から偏の木を抜いていただければ何か見えてきませんか? そうです! 数字の【兆】が出てきますよね? そういう事です!

 

「ヨボボヨボボスオニィ……」

バッターン。凄まじい連打を食らい、気絶してしまいました。

 

「最強の技を……神の技を……こんな老衰したオニに……モラルに……モラルに……」

いいえ。モラルに反してはいません。これもボスオニの強欲さが原因です。気にしてはいけません!

 

「モラしまさん……気を落とさずにカメ……」

いつの間にか屋敷に入っていたカメX

 

「やった! 流石ですキー! じゃあお宝を探すキー!!」

 

「探すケーン

 

「ここ掘れワンワン」

犬は地面を探そうとしていますが、流石に埋まっていないと思いますよ? 屋敷の奥が怪しいですね。

 

「あっこれが宝💎👑💰🥇か。かなりの量だ。でも全部運び出さなくちゃ」

当然どれが領主様の財宝かは分かりません。なので片っ端からカメXに乗せます。

 

「参ったヨボボスオニ。ワシも行くヨボボスオニ」

ボスオニは目を覚ましたようです。しっかし長い語尾ですね。セリフよりも長い語尾は珍しいのではないでしょうか? え? どうやらボスオニは仲間に入ってしまいました!

 

「どうするワン?」

 

「本キーか?」

 

「不安だケーン

 

「大丈夫。連れて行こう。では家に帰るぞ!」

どうやら竜宮城へは寄らないようですね。まあボスオニがやったとは言え、玉手箱を開けてしまった事がバレてしまうとお互いに気まずいでしょうから……しかし乙姫の目的は一体……

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「ただいま戻りました!」

 

「モラしま太郎? おお、よくぞ戻った! 無事であったようで何よりじゃ。では財宝は領主様の元に一緒に返しに行くぞ!」

 

「おじいさん。その前に一つ聞きたい事があります」

 

「(。´・ω・)ん? なんじゃ?」

 

「私のこの名前。本当は漏らし魔と言う不名誉な言葉とモラルとのダブルミーニングなのですか?」

 

「な、何故それを……?」

モラしま太郎は黙って後ろを指差します。

 

「うん? な、何と大きな鬼じゃ」

 

「この者と戦い、その最中、私の不手際で発覚しました!!」

涙を堪え、顔面を真っ赤にしつつ話すモラしま太郎……

 

「漏らして……しまったんじゃな? 我こそはモラルある男! モラしま太郎だ! と言う事を奴に伝えた後に」

 

「はい……」

 

「申し訳なかったヨボボスオニ……」

何故か泣いているボスオニ。

 

「すまぬ……モラしま太郎と名付けたのはワシの若気の至りじゃった……」

いいえ。若い時に命名してはいません。名付けた当時もしっかりおじいさんでしたよ?

 

「いえおじいさん。私の欠点がいけないのです。これからはどんなことがあっても漏らさないよう我が膀胱に、そして、尿道に言い聞かせます!」

「そうか……頑張れよ」

 

「なあ、人間のおじいさんよ……同じ年より同士、ゲートボールでもしようヨボボスオニ!」 

 

「ヨボこんで!(よろこんで)」

そして、鬼と人間は少しだけ仲良うなったそうな。めでたしめでたし

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「はいおしまい♪」 ママもかなりの文字の量の絵本を読んでくれました。お疲れさまでした! 乾いたのどを潤すために2リットルのコーヒー牛乳も空っぽになっていました。

 

「なかなか面白かったわ。88888888私はね、BBBBBBBBBBの所が良かった」

 

「そうね……でも自画自賛は叩かれるわよ?」

 

「え? 自画自賛? 私はこの絵本を褒めたんだよ? 確かに私が書いた物なら自画自賛だけど……変なママwwwwwww」

 

「あっそうか!」

 

「私に似てドジっ子なんだからw」

 

「あんたが私に似たの! でもなんであんな絵本があったのかしら?」

 

「いいじゃないの? 面白ければ」

 

「そもそもこんな本棚あったかしら?」

 

「そういえば無かったわ。オヤジが買ったのかなあ」

 

「そうかしら? パパは何かあれば必ず私に報告してくれる筈なのに……変ねえ……」

 

「びっくりさせようとしたのかな? ……あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「横に張り紙がある! 何々? 『この本棚は不思議な本棚。ヒントは中央部分にセットせよ』だってさ」

 

「どういう事かしら?」

 

「この本棚さ、3段になってるでしょ? で、真ん中にモラしま太郎があったのよね?」

 

「ええ」

 

「でね? 上の段の丁度モラしま太郎のあった位置に、ももたろうがあるのよ」

 

「うん」

 

「で、一番下の段の中央には浦島太郎があるの」

 

「あるわね。それがどうしたの?」

 

「ここまでくれば分からない?」

 

「何も分からないわ」

 

「もう! じゃあ説明すると、モラしま太郎があった場所は真ん中の段の中央でしょ? で、上と下の段にある物語が混ぜ合わさった話が真ん中の本棚で生まれたっていう事! 中央にセットせよっていうのはこういう事なのかしら? で、でもこんな事ってあるのかしら?」

 

「ま、まさか?」

 

「そう、中央の空間から上と下の本によって色々なストーリーに変わる本が出てくる不思議な本棚なのよ! で、今回の場合は、ももたろうと浦島太郎でモラしま太郎になったって事だから、上の本の題名と、下の段の題名が合体したって訳よ!! で、モラしま太郎!!」

ちょ? この娘は本当に3才なのでしょうか? 言葉遣いや卓越した推理力、分析力、判断力揃いも揃って大人顔負けじゃないでしょうか? しかし、そんな本棚がこの世に存在するのでしょうか? 不思議な本棚もあるものですね。

 

「確かに! アリサ! すごいじゃない!」

 

「うん! ってことはだよ?」

 

「ん?」

 

「上の段に金太郎を置いて、下の段に浦島太郎だと☆きんた☆……」

ああっ! 危ない!!

 

「おい!! アリサテメエコノクソガキャ!!!!」

ガッ!!

 

ムームー」

しかし、寸での所でママがアリサちゃんの口を塞ぎます。これはナイスディフェンスです! しかしとても不愉快な響きがママの口から放たれたような気がしましたが、まあいいでしょう。

 

「なんで塞ぐの? ハアハア……」

 

「アリサは恐れを知らなすぎるわ。それをはっきり言ってしまえば、どれだけのクレームが来ると思っているのよ」

 

「そうなのー?」

 

「そう! でもよく考えてみて? モラしま太郎ってさ、ももたろうのも、と、浦島太郎のらしま太郎が合わさったタイトルよ? 金太郎と浦島太郎の場合、この法則から言えば金太郎の1文字目だけを使って【きらしま太郎】ってなると思うわ?」

 

「え? でもきらしまって言葉では意味が通じないわ! でも☆きんた☆」

 

「分かった分かった。じゃあその話、一体どういう展開になるの? さぞ面白いんでしょうね?」

 

「そ、それは……村一番の大きい☆きんた☆」

 

「もういいわ。10秒でオチが予想出来るうっすい内容。ハアツマンネwwwww子供じゃあるまいしそんな幼稚なネタを考えているんじゃない!! はあ……あんたに期待していた私が馬鹿だったわ……来世に期待ね」

がっつり子供なんすよねえ……

「ひー😢」

ママは怒らせるととっても怖いようですね。その怖さは若かりし頃のボスオニに匹敵します。決して怒らせないようにしないといけませんよアリサちゃん?

「でも色々な本を混ぜて別の物語が出来るなんてすごい本棚ね!」

 

「次はどの話とどの話を組み合わせようかしら? 楽しみー」

 

そだねー

 

==続く==