既にご承知のとおり、ロシアのプーチン大統領がウクライナに対し、まったく理不尽な侵略戦争を仕掛け、毎日のように罪なき多くの人命が奪われています。たった一人の独裁者がもたらした凶悪な破壊行為にただただ激しい怒りを覚えさせられます。この戦争についての所感は別のブログで述べさせていただきました。

 

欧米を中心にロシアに対し、「金融の核兵器」というべきかなり強力かつ厳しい金融・経済制裁をはじめました。ロシアの銀行が国際的な銀行間の送金や決済に利用される国際銀行間通信協会(SWIFT)から閉め出され、さらにロシア中央銀行に対し外貨建て資産の差し押さえも行われました。これによってルーブルの価値が一気に暴落し、ロシア市中のインフレが加速しています。ロシアの銀行ATMに自分の財産を守るために外貨を手に入れようとする人が殺到しました。またこれを受けてロシア中銀は政策金利も20%と大きく引き上げたのですが、こんなことをやってしまったら企業投資や雇用が凍くでしょう。ロシアは恐慌とハイパーインフレの同時多発を招こうとしています。ハイパーインフレならぬハイパースタグフレーションと呼ぶべきでしょうか。ロシアは完全に経済麻痺に陥ります。

 

このブログは「経済基礎知識編」と位置付けていますが、今回ロシアで起きていることは貨幣の価値とは何か?ハイパーインフレがどのようなかたちで起きるのかを考える上で教材となりますので、その観点で記事を書いていくことにしました。

 

ロシアは経常収支が黒字でかつ対外純資産・外貨準備をかなり持っていたにも関わらずデフォルト(債務不履行)に陥りかけていますが、今回の場合そうした資産が金融制裁やロシア通貨ルーブルの暴落で差し押さえられたり、吹き飛んでしまったために起きています。よく国家の財政赤字膨張やマネーのばら撒きが通貨価値の暴落を招き、ハイパーインフレを引き起こすなどと云われますが、それだけの理解ですと今回のロシアの状況を説明できません。

 

まずロシア通貨ルーブルの暴落についてから入っていきましょう。

その前にお金とは何か?お金はどうしてお金であるのかという点を考えていく必要があります。

お金とは何かをずっと研究され続けた経済学者・岩井克人さんは「貨幣とは貨幣であるから貨幣である」という自己循環論法を唱えていらっしゃいます。

 

 

ロシアへの金融制裁のひとつとして行ったSWIFT排除やロシア中央銀行に対し外貨建て資産の差し押さえはロシア以外の他国がルーブルを貨幣だと認めないとするも同然の措置です。これが実施されるという予想や期待が生じると他国からみてルーブルは紙切れ同然になります。貨幣の信認が一気に崩れてしまいました。人々の予想や期待によって生ずるハイパーインフレとその収束については駒澤大学の矢野浩一さんが合理的期待仮説でノーベル経済学賞をとったトーマス・サージェントを引き合いにして書かれた論説も参考になります。

 

 

トーマス・サージェントは若き日に「四大インフレーションの終焉」という論文を書き、「ハイパーインフレーションの終焉には政策レジームの変化(政策ゲームのルール変更)が必要であり、それに伴うインフレ期待の低下が重要な役割を果たした」ことを指摘しました。やはり今回のロシアのルーブル暴落や市中の高インフレを抑制するにもロシアがウクライナへの侵略戦争をやめるという政策ゲームのルール変更をしなければなりません。今の「無敵の人」状態で完全に理性を失っているプーチンはこれをすることを期待できないでしょう。ロシア経済は完全に崩壊していくことになる公算が高いです。

 

もちろん極端な需要と供給のアンバランスさもハイパーインフレの発生原因となります。金融・経済制裁でロシアは原油や天然ガスを輸出して稼ぐことができなくなる以上に、ルーブルの暴落で他国から工業製品や食糧品などを輸入できず、深刻なモノ不足状態になることが予想されます。ロシア在住の人はインフレが深刻化する前にクルマなどのモノを買っておくなどの行動をとりはじめています。ロシアに進出していた他国企業がどんどん撤退を進め、商品の輸出も打ち切ります。この国は旧ソ連時代とその崩壊直後に戻ってしまうのではないでしょうか。

誰もがお金をお金だと認めなくなる状態、そして圧倒的なモノ不足の二つがひどいインフレにつながるということを今回のロシアが物語ることになるでしょう。

 

(下からは3月14日18:20追記)

なお、ロシアのルーブル暴落の動きを受けて、一部がロシアが金本位制に戻るのではないかという噂を流しています。これは非常に馬鹿げた話で、仮に金本位制に戻してしまうと金の保有量以上の貨幣を発行することができなくなります。ロシアが現在保有している金は2300トン(18兆4000億円相当)しかありません。信用創造ができないために経済規模がそれ以上大きくできなくなります。当然ウクライナ戦争で膨張する軍事費も賄えないでしょう。どちらにしても著しい信用収縮と超緊縮財政でロシアの破綻は免れません。このような話は信用に値しないでしょう。

 

 

 

 

「新・暮らしの経済手帖」は国内外の経済情勢や政治の動きに関する論評を書いた「新・暮らしの経済」~時評編~も設置しています。

 

画像をクリックすると時評編ブログが開きます。

 

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

 

人気ブログランキングへ

 

バーチャルアイドル・友坂えるの紹介です