由乃に誘われて私は遊園地にやってきたのだが、なぜかばったり神津刑事と出くわした。
「本物の刑事さんなんですか? わーかっこいー」
由乃は大はしゃぎだ。
神津刑事は私たちを園内のカフェに誘い、先ほど園内で起こった殺人事件について話し始めた。
内容はこうだ。
園内のお城の中で死体が発見された。人の出入りやらなんやかやで、警察は被害者の死亡推定時刻を午後十二時の前後五分に絞った。
被害者は遊園地関係者で、ご丁寧にも今朝スタッフの一人ともめていた。そのスタッフを容疑者候補として現在警察は任意同行を求めているが、相手は渋っているそうだ。
「さっさと捕まえればいいじゃない」
私は言った。
いいじゃんいいじゃん、と遊園地にきたせいか本物の刑事を見たせいか、テンションが上がっている由乃は合いの手を入れた。とても被害者の遺族には見せられない光景だ。
「アリバイがあるんだ」
神津刑事はそう言うと、スマホを取り出して画像を見せた。
熊の着ぐるみ――この遊園地のマスコットキャラと二人の子どもが映っていた。背後のアナログ時計は十二時を示していた。辺りは明るいから午後十二時で間違いない。そして、この場所には見覚えがあった。そこからお城までは走っても十分はかかるだろう。確かに犯行は無理そうだ。
「この二人のどっち? 小さい方でしょ?」
「まだ子どもじゃないか!」
私の当て推量に、神津刑事が慌てた。
「子ども二人は関係ない。容疑者は着ぐるみの方だよ」
「アリバイがあるって言ってたよね?」
「言った」
「共犯者に着ぐるみを着てもらったに決まってるよ! バカなのっ?」
私は思わずい声を荒げてしまった。珍しいことだ。遊園地に来ているせいで少々テンションが上がっているのかもしれない。私もまだまだ子どもということだ。
「誰かが身代わりに着ぐるみに入っている間に、犯人が被害者を殺した。その後、また入れ替わった。これでアリバイは崩れるよ」
「だけど、それを証明する手段がないんだ」
「警察お得意の尋問でなんとかなるでしょ」
「今はそういうのに厳しい時代なんだよ!」
「わかった。この熊、右手を高く上げてるよね?」
「ああ……それが?」
「容疑者の右腕を折って、その腕でこの画像のように手を挙げることは不可能だ。よって別の人間が入っていた。お前にアリバイはない! ってやったら?」
「それじゃあ冤罪だ!」
「しょうがないなあ……」
私は立ち上がると、絶叫系マシーンにやってきた。恐くておしっこを漏らす人が続出するため、シートがいつもおしっこ臭いと評判のアトラクションだ。すると、目当ての人物が順番待ちしているのが目に入った。
「あの子は――」
神津刑事もその存在に気づいたようだ。画像を見たときに気づかなかったというのは観察力がなさ過ぎる。
神津刑事は急遽、スタッフルームに容疑者と事件当時アリバイのない関係者全員を集めた。その数五人だ。
「この中に熊の中に入ってた人いる?」
「あの人」
私が聞くと、その子は容疑者ではない人間を指さした。
その瞬間、アリバイの崩れた容疑者は泣き崩れ、指を指された共犯者も壁に手をやりうなだれた。
アリバイ証明の画像に映っていた子どもの年少の方、絶叫マシーンの列に並んでいたその子は、東山博弓だった。あの、奇行が目立つため母親が一緒にいるときは常にサングラスにマスクをして顔を隠しているという、あの博弓だ。
「でもなんであの娘が知ってるとわかったんだ?」
今回もまた博弓に噛まれた腕をいたわるようにふーふー息をかけながら神津刑事は私に聞いた。
「博弓はひねくれてるからね。絶対にキャストの着替えを覗いていると思ったよ。ばれないようにずっと後をつけてたんだろうね。そうでない可能性もあったけど、その可能性を検証してみるのもありかなってね」
説明を終えるとスタッフルームから飛び出し、私と由乃は走り出した。また事件が起こる前にひとつでも多くアトラクションを楽しむためだ。
名探偵コナツ 第14話
江戸川乱歩類別トリック集成⑭
【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
(A)一人二役
(7)替玉(二人一役と双生児トリック)他人を自分の替え玉にしてアリバイを作り嫌疑を免れる。
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