「ない、ないよ!」
鞄の中身をひっくり返しながら小野田大樹が叫んだ。
その様子にクラスメイトが注目した。
私と佐藤由乃もだ。
そんな中、由乃がお節介にも近寄っていった。
「一体何がなくなったの?」
「それは……秘密です」
由乃が聞くと、小野田が言いにくそうに答えた。
私は二人のやりとりを黙って見ていた。
しばらくしてから不思議そうに由乃が私の方を向いた。
「どうしたの?」
「なにが?」
「じっとしてるから。何か事件が起こったら真っ先に解決に動くのに珍しいと思って」
おっとそうきたか、と私は思った。
私は長く息を吐くと、答えた。
「もう解決したからね」
「うそっ? すごーいっ!」
小野田も驚いて私を見た。どこか不安そうな表情だ。
「何をなくしたかまではわからないけど、鞄から見つからない理由はわかる。家に忘れてきたのよ」
「なんでそう断言できるの?」
「今は昼休み。そして、午前中に体育も移動教室もなかった。となると、誰かが盗んだって線は消える。それに家から出るときバッグのファスナーは閉めてるよね?」
私が聞くと、小野田は頷いた。
「だったら家に忘れてきたって考えるのが自然よ」
「さすがなっちゃん! よっ、名探偵っ!」
由乃は喜んだが、すぐに難しそうな顔になった。
「でももうひとつの可能性があると思うんだよね」
「もうひとつ?」
「移動教室はなくても小野田君、トイレに行ったよね?」
由乃が聞くと、小野田は頷いた。
「その間に盗むことは不可能じゃないと思うんだよね。小野田君の席ってこの通り、教室の最後尾で窓際の席だから。ここから教室全体の様子をうかがって、誰もこちらを見ていないときにこっそり盗むっていうのも不可能じゃないと思うの」
見事な推理だ。
ほとんど完璧と言っていい。
だからこそ迷惑だった。
「なにがなくなったの?」
「それは――」
由乃の質問に小野田は言い淀んだ。
「――帰ったら家の中を探してみます」
と言っただけで由乃の追求を避けるように、たぶん何の用もないだろうに教室を出ていった。
えー、と由乃は不服顔だ。
「なっちゃん、気にならない?」
「気にならない」
なぜなら私は盗まれたものを知っていたからだ。
犯人も知っていた。
放課後になり家に帰った私は、封筒を取り出すと机の上に置いた。恐らくラブレター。これが小野田の盗まれたものであり、犯人は私だった。
持ち前の推理力で前日から小野田が私にラブレターを渡すつもりであることは察知していた。
そんなもの受け取りたくなかったので盗んだというわけだ。
中身は一応確認しておくべきだろう。封を開けると、折り畳まれていた紙を開き、そこに書かれている文面に目を通した。
盗んでよかった。
もしこれを公式に受け取っていたら私は自分の名誉を守るため小野田を殺すしかなかっただろう。殺す、というのは大げさでも暴力に訴えるべきだった。
『突然のお手紙失礼します。僕はあなたのことが好きです。本当は佐藤由乃さんが大好きなのですが、僕には高嶺の花だと気づきました。だから僕にはもう小夏さんしか選択肢がありません。小夏さんで手を打ちます。もう少し愛想がよければとかもう少し胸があればとか要望はありますが我慢します。僕と付き合ってください。真剣です。小野田大樹』
名探偵コナツ 第16話
江戸川乱歩類名探偵別トリック集成⑯
【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
(B)一人二役の他の意外な犯人トリック
(1)探偵が犯人
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