病院のSEとして10年以上働いている白狐(しろぎつね)です。
2021年9月にデジタル庁が発足してから、政府のDX(デジタル・トランスフォーメーション)政策を報道でたびたび目にするようになりました。
新型コロナウイルスを原因とした不況を受け、全国民を対象とした「特別定額給付金」の給付においては、行政手続きの遅れからデジタル化の遅れが世間から指摘されたことは、記憶に新しいところです。
民間主導と違って、官公庁がデジタル化を進めるということは、法のしがらみがあれば法改正で撤廃していくことを意味しますので、病院にとってもその動向は注目に値します。
この記事では、2022年5月の報道の中から、政府のDX化政策も含め、私が医療情報技師として注目する医療関連のニュースを紹介します。
目次
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マイナ保険証対応の義務化・健康保険証の廃止が検討される
マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせる、通称「マイナ保険証」が2021年10月から本格運用されています。
国民のマイナンバーカード発行率と、病院のマイナ保険証対応率はともに低い状況にありますが、厚生労働省は2023年3月までに「ほぼすべて」の医療機関でマイナ保険証の導入を目標としており、現状とのギャップが課題となっています。
これを受け、国は医療機関に対しマイナ保険証対応を義務付け、マイナ保険証対応によって得られる診療報酬の点数を撤廃するとともに、健康保険証の廃止を検討しているとの報道がありました。
そもそも医療機関でのマイナ保険証導入が遅れているのは、①費用がかかる、②患者の負担額が増す、という理由が大きいと思われます。
システムの導入にかかる費用には補助金が給付されましたが、維持費には給付されないため、自腹を切って運用しなければなりません。また、ニュースでたびたび報道されたように、マイナ保険証を利用した場合は医療機関側に診療報酬が発生するため、窓口の患者負担額が増えます。
患者としては便利だからマイナンバーカードを使うのに、かえって費用がかかるようでは、わざわざ利用しようとは思わないでしょう。
メリットとデメリットを天秤にかければ、病院にとっても患者にとっても、デメリットのほうが大きいと言わざるを得ません。
保険証を廃止するって・・・相当インパクトが大きいけど、そんなことできるの?
マイナ保険証の普及率が高ければ現実的でしょうが、現状では時期尚早ではないでしょうか・・・。患者と病院の両方から責められそうな気がします。
▼マイナ保険証の普及率をこちらの記事で取り上げています。詳しく知りたい方は、併せて読んでみてください。
▼マイナ保険証に対応するシステム「オンライン資格確認システム」を導入している医療機関を、厚労省のWebサイトから調べることが出来ます。興味のある方は、こちらの記事をご覧ください。
▼マイナ保険証の対応ってどうすればいいの?という方は、こちらの記事を読んでみてください。
「全国医療情報プラットフォーム」の創設
マイナ保険証に関連するニュース。全国の自治体や協会けんぽ、医療機関が一体となって、医療情報を一元管理する「全国医療情報プラットフォーム」が創設されるとの報道です。
マイナ保険証に対応する医療機関側のシステムを、正式には「オンライン資格確認システム」といいます。このプラットフォームはオンライン資格確認ステムを基軸として、自治体が持つ予防接種歴や協会けんぽ等が持つレセプト情報、そして医療機関が持つカルテ情報などを融合させ、患者が最適な医療を受けられるための環境づくりを整える、というもの。
3者(自治体、健保、医療機関)が別々に管理していたデータを一元管理する構想であり、実現すれば全国をまたぐ大規模な医療情報ネットワークが出来上がります。
壮大な計画ですが、難題の一つは電子カルテのデータをどう結びつけるかでしょう。メーカーごとに電子カルテの仕様が異なるため、容易に接続することはできません。報道では規格を標準化するとありましたが、長い道のりになることは必至と言えます。
電子カルテを別のメーカーに乗り換えることすら、大掛かりなのにね。
システムを管理する立場の人間からすれば、夢みたいな構想に思えます。
これを推進するには、基軸となるオンライン資格確認システムの普及が先決。マイナ保険証が当たり前のように使われるようになったら、現実味が出てくるのではないでしょうか。
2022年に医療機関が受けたランサムウェア被害は過去最悪を記録
医療機関が2022年に受けたランサムウェアの被害件数は6件と、過去最悪になっていることが分かりました。2022年はまだ半年残っていますから、件数はさらに伸びるでしょう。
2021年に徳島県のつるぎ町立半田病院がランサムウェアの攻撃を受け、2ヶ月ほどカルテの閲覧ができなかった事例は多くの人の耳に届いたでしょうが、この記事を読むと、過去に一定数の攻撃が病院に対して行われたということです。
ランサムウェアの脅威はもはや他人事ではないということか・・・。
じわじわと増えてきているのが怖いですね。自分のところは大丈夫なのか、あらためて考えてみたほうがよさそうです。
半田病院の例ではVPN機器の脆弱性を突かれて侵入されたようですから、まずは外部からの接続ルートの安全性を見直すことが大切。電子カルテ周りのネットワーク機器については、最新のファームウェアがないか定期的に確認すべきです。
▼ちなみに、YAMAHAのルータは国産メーカーでありながら安価で調達でき、耐熱性も高くオススメです。
またこれに対策するため、国は令和4年度の診療報酬改定で、医療機関へ一定のセキュリティ対策を義務付けました。
【診療録管理体制加算】
[施設基準]
許可病床数が400床以上の保険医療機関については、以下の要件を加える。
- 専任の医療情報システム安全管理責任者を配置すること
- 当該責任者は、職員を対象として、少なくとも年1回程度、定期的に必要な情報セキュリティ研修を実施していること
[施設基準]
許可病床数が400床以上の保険医療機関については、非常時に備えた医療情報システムのバックアップ体制を確保することが望ましい。
毎年7月において、医療情報システムのバックアップ体制等について、別添様式により届け出ること。
届出内容(例)
・バックアップ対象のシステム
・バックアップの頻度、保管方式
▼令和4年度診療報酬改定については、こちらの記事で私なりに噛み砕いて説明してみましたので、よろしければ併せてご覧ください。
「医療情報システム安全管理責任者」の設置やセキュリティ研修の実施、バックアップ体制の報告義務など、システムの安全性確保について要件が加えられています。
システム管理の領域に関しては、これまで診療報酬の要件になることは少なかったのですが、今後は増えていくのではないかと予想されます。
理由は、医療界のデジタル化を強く前進させるため。
例えば前述のオンライン資格確認システムは、現段階では義務ではなくデメリットも多いため、導入を見合わせる医療機関が多数。このままでは、厚労省が目標とする「2023年3月までの全国普及」には到達できません。
補助金を出しても普及が進まないのであれば、奥の手として、診療報酬の算定要件に組み入れることが考えられます。そうなると、医療機関は応じなければ減収となりますから着手せざるを得なくなります。重い腰を動かすはずです。
これまでは各々の努力義務と考えられてきたセキュリティ対策が診療報酬に組み込まれれば、これがトリガーとなって医療界のデジタル化が一挙に推し進む可能性があります。
医療情報技師としては、診療報酬の行方にも注目したいところです。
以上、2022年5月の報道の中から、私が医療情報技師として注目する医療関連のニュースを紹介しました。
医療情報技師は障害対応やヘルプデスクが主な仕事ですが、診療報酬や法改正は収益にかかわる、病院経営を大きく左右する要因ですので、日々の関連ニュースにはアンテナを張っておきたいものです。
最後に
当ブログでは、病院に勤務するシステムエンジニアの私が、関係法令の改正やパソコンのトラブルシューティングなどをSE目線から紹介しています。
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