第131回 吉祥寺の街なかに、なぜ「空き店舗」が!?その背景に迫る(3)


















ドラッグストア

今回のBlog de 吉祥寺の特集は「吉祥寺の空き店舗」をフォーカスしています。前回は、その理由を、売上・コストの2つに分解して考えてみました。お店で売上が上がらない理由として「通販サイト(EC)の台頭」があり、特に影響を受けやすいのが「ファッション・アパレル」。そして吉祥寺は、その店舗数構成比が大きく影響があった、というのが、ここまでの流れです。

そして今回、注目したいのが「ドラッグストア」です。最近では、吉祥寺の目抜き通りの「元町通り」にあったTAKA-Q(タカキュー)が退店して、その後にドラッグストアの「スギ・ドラッグ」が開店したのは記憶に新しいところ。

今回は、この「ドラッグストア」をキーワードに、吉祥寺の空き店舗問題に迫ります。




通販サイト(EC)の台頭の影響


ファッション・アパレルは通販サイト(EC)の台頭による影響を受けやすい業種でした。しかしその一方で、その影響を受けにくい業種・業態もあります。その業種・業態は「インテリア・寝具」「家電」「サービス・アミューズメント」「理美容」「メガネ店」、そして今回のキーワードの「ドラッグストア」「ディスカウントストア」など、です。

では、なぜ影響を受けにくいのでしょうか。

まず「インテリア・寝具」「家電」の場合、お店でデザインや寸法・機能性を見定めて買いたい、という人も多いでしょう。ヨドバシカメラ、ヤマダ電機が吉祥寺に出店しています。「サービス・アミューズメント」に目を移すと、吉祥寺には「ラウンド・ワン」があります。ラウンド・ワンが開店したのは2017年9月で最近のこと。バウスシアターの跡地だったこともあり、話題になりました。しかし、サービス・アミューズメント市場は、少子高齢化による市場の縮小、データ通信量などランニングコスト負担の増加もあって厳しい市場環境が続いています。そこで、プライズと呼ばれるクレーンゲームなど「店舗だからこそ」楽しめるゲームを揃えて集客しています。


















「ドラッグストア」「ディスカウントストア」は台風の目


そして今回のキーワードである「ドラッグストア」「ディスカウントストア」は、小売業界の台風の目と言われています。

吉祥寺駅界隈のドラッグストアを見てみると、

スギ薬局 吉祥寺南町店
トモズ アトレ吉祥寺店
OSドラッグ 吉祥寺店
ココカラファイン 吉祥寺サンロード店
サンドラッグ 吉祥寺ダイヤ街店
サンドラッグサンロード店
三千里薬品 吉祥寺店
マツモトキヨシ 吉祥寺サンロード店
マツモトキヨシ 吉祥寺ダイヤ街店










写真出典:GoogleMap

が出店しています。上空からそれらを見ると、あたかも東・西・北の通勤・通学・帰宅導線の上を将棋の駒を張るようにお店が散らばっていることがわかります。なお、駅の南口では「ココカラファイン 吉祥寺南口店」が超一等地でがっちり集客しています。

その一方で「ディスカウントストア」、つまり安売り専門店はどうでしょうか。たとえば、吉祥寺ダイヤ街で昔から店を構えており、日本初のディスカウントストアと言われる「ロヂャース」の吉祥寺店や、2013年に万を期して吉祥寺にオープンした「ドン・キホーテ吉祥寺駅前店」がお店を出しています。

さて、ドラッグストアに話を戻します。最近の動きで記憶に新しいのは、TAKA-Q(タカキュー)が退店した後に出店した「スギ・ドラッグ」のこと。ファッション・アパレルとドラッグストアの入れ替わりを象徴する出来事です。

それでは、なぜドラッグストアが、吉祥寺に数多く出店しているのでしょうか。それは「店舗で売上が上がるから」に他なりません。



なぜ、ドラッグストアは儲かるのか


それでは、なぜドラッグストアは店舗で売上が上がり、儲かるのかについて考えてみます。その理由の1つは、主な取扱い商品の医薬品の利益率の高さ、つまり売れば売るほど儲かる商品であるから、です。

たとえば、ドラッグストアの主力商品である第一三共ヘルスケアさんの解熱鎮痛剤「ロキソニンSプラス」を例にとって考えてみましょう。

この商品のメーカー希望小売価格は12錠で税抜698円です。しかし、病院で処方してもらうときのロキソニンの公定薬価は1錠13.8円です。12錠だと165円となります。その差は、なんと533円。無論、メーカーの広告宣伝コストも加算されますので、ドラックストアの店頭販売品を公定薬価で仕入れられるとは限りません。ただそれでも儲かる商品であることが伺えます。

そして、もう一つのドラッグストアの利益の柱が化粧品です。特に最近では、中・下位のブランドが、不振の百貨店からドラッグストアに主戦場を移しています。そして、その原価率は15〜20%にもなります。これらも儲かる商品といえるでしょう。

ドラッグストアは業界再編の真っ只中

さて現在、ドラッグストアの業界再編の只中にあります。その動向が、吉祥寺の街にも影響を及ぼしています。

その前にまず、ドラッグストアと一口に言っても、チェーンそれぞれが得意な商品群があります。そのタイプは大きく「化粧品特化型」「食品・ディスカウント型」「医薬特化型」の3つに分類できます。まず最初に「化粧品特化型」です。この代表的なチェーンはマツモトキヨシとココカラファインです。両社ともに、化粧品の売上が全体3〜4割を占めています。そして2番目が「食品・ディスカウント型」です。代表格はサン・ドラッグです。サンドラッグ・サンロード店のダイヤ街側の壁面を思い出してください。トイレタリー商品がディスカウントストアさながらのプライスタグでズラッと並べられています。






そして、マツモトキヨシ 吉祥寺ダイヤ街店とサンドラッグ 吉祥寺ダイヤ街店が、ダイヤ街を挟んで向かい合って出店しています。実は、これを可能にしているのが、このタイプの違いです。つまり、同じドラッグストアでも得意商品が違っているため、市場を分け合うことができるのです。

写真出典:サンドラックHPより

そして最後が「医薬特化型」です。その代表格はスギ薬局です。

スギ薬局は、マツモトキヨシとの統合を巡って、ココカラファインと争っていました。しかし結果として、マツモトキヨシは、同じ「化粧品特化型」のココカラファインを選びます。その業務提携が発表されたのは2019年8月のこと。そして発表余波も覚めやらぬ直後の10月、スギ薬局は、マツモトキヨシの吉祥寺北口2店舗とココカラファイン吉祥寺サンロード店から近い「TAKA-Q吉祥寺店跡地」に大型店をスピード開店します。これはまさに業界競争の激しさを物語るエピソードというべきでしょう。

あと、忘れてはならないのが「理美容」店。当たり前の話ですが、通販サイト(EC)の影響を受けにくい業種です。しっかりとリピーターがついている1人美容室、2人美容室のお店であれば、家賃+人件費+家賃経費のミニマムコストで回せます。

そしてメガネ店。吉祥寺にもJINSやZoffコピス、OWNDAYSが出店していますが、この原価率も20〜30%前後。つまり、儲かる業種です。

空き店舗は埋まっても、問題あり

ということで、ドラッグストアは「店舗で儲かる」業種です。したがって、ドラッグストアが吉祥寺の街なかに増えていくことになります。それらの出店で空き店舗も埋まるので「めでたし、めでたし」となれば良いのですが、話はそう簡単ではありません。最後に、その理由を考えてみたいと思います。

その前に、あらためて今回の内容を振り返ってみましょう。

近年、ドラッグストアが、吉祥寺駅北口の徒歩商圏に数多く出店しています。吉祥寺駅北口の駅前から200m半径の小さな徒歩商圏に、大型・小型店合わせて7チェーン9店舗(2020年3月現在)が出店しています。それぞれのチェーンが特化するタイプや生活導線の違いもあり、それらは、今のところ吉祥寺の市場を住み分けています。

ただし考えてみてください。

いくらチェーンごとに特化するタイプが違っていても、来街者からすれば「ドラッグストア」であることには変わりありません。つまり、来街者が吉祥寺の徒歩で周回すると「どこに行ってもドラッグストア」が目に入る状態になっています。

そして、その状態は、吉祥寺に「来街する魅力」、つまりそれは雑多な界隈性、たとえば堀り出しものを見つけるために街歩きを楽しむような街の魅力を損ねることに繋がります。ドラッグストアは生活者を相手にした日用品や医薬品販売で儲かります。ただその一方で、街の魅力を損ねてしまえば、ファッション・アパレルなど、吉祥寺がもつ広域集客力をテコに商売をしていたお店の売上が厳しくなります。結果として、退店を後押ししてしまうことになりかねません。


儲かる店舗しか出店できない理由とは?

では、ドラッグストア以外のお店、たとえばファッション・アパレルのお店や飲食店が、もっと頑張って出店すればいいのでは?という意見もあるでしょう。しかし残念ながら、そういったお店が、吉祥寺の街なかでの出店すること自体が難しくなりつつあります。少なくとも、儲かるためには、かなり高いリスクを見込まなければならない街になりつつあります。逆に言えば、ドラッグストアのような「利益率の高い」業種しか出店しにくい状況になりつつあります。

それでは、その原因はどこにあるのでしょうか。その1つはお店の「家賃」にあります。
ということで、次回は、この問題をもう少し探ってみることにしましょう。

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