NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2021年9月8日水曜日

M&Aバリュエーション基礎1 売り手自身によるバリュエーション実施の必要性

バリュエーションとは一般的に「企業価値算定」のことを意味しており、さらに言うと多くの場合、「株主価値(株式価値や時価総額とも言います)を算出すること」を意味します。

このシリーズでは、中小M&A(未上場株式である前提です)でのバリュエーションを「売り手自身」で(ある程度まで)行えるようになることを目指します。第一回の今回は「売り手自身によるバリュエーション実施の必要性」をご紹介します。ここでの売り手とは、M&Aの対象となる会社の株主等のオーナー(場合によっては経営者も含みます)を意味します。なお、新規上場や、ベンチャーキャピタル(VC)等からの資金調達の際のバリュエーションはこのシリーズでは範囲外としていますのでご注意ください。

多くのM&Aの実務では公認会計士、監査法人やバリュエーションの専門会社が行いますし、中小M&Aの場合ですとファイナンシャルアドバイザー(FA)、仲介会社が行うことも少なくありません。ですので、売り手自身が行う必要性はないのでは?とお考えの方もいらっしゃると思います。確かに精緻なバリュエーションはそれらの専門家に任せた方が良いですが、それでも以下のとおり売り手自身がバリュエーションを実施する必要性や、実施した方が良い理由があります。

1.「自社(対象会社)の実態」を知ることができる

バリュエーションの過程では、
  • 自社(対象会社)の資産や負債を精査してその実態を数値化する
  • 売上や原価・費用を修正してその実態を数値化する
といったことを行います(理由は別記事で解説予定です)。
そして、実態値や修正後の値は売り手が把握・想定していた数値と乖離があることが普通です。売り手はその乖離の理由や金額が見えるようになることを通じて自社(対象会社)の実態を知ることができるのです。
実態を知ることができれば、自社の企業価値を向上させる方法を検討したり、急に経営判断を求められた際により適切に判断ができたりする可能性が高まります。

2.M&Aのプロセスにおいて早い段階から、根拠がある「自社(対象会社)の価額」の目線を持つことができる

多くの中小M&Aの場合、売り手側は、
  1. 自分たちの手元に必要な金額をそのまま売却希望額の根拠にしてしまう
  2. 「できるだけ高く売りたい」といったような曖昧な目線のまま話を進めてしまう
  3. 自社(対象会社)の価値を過大に評価してしまう(そのことによってM&Aプロセスがとん挫してしまう)
  4. 自社(対象会社)の価値を過少に評価してしまう(そのことによってM&Aが成約した場合でも、後日後悔をしてしまう)
といったトラブルや失敗をしてしまうことがあります。しかし、売り手が自分自身でバリュエーションを実施していると、(一定の)根拠がある「自社(対象会社)の価値」の目線を持つことができるため、それらのトラブルや失敗を回避できる可能性が高まります。

3.専門家とバリュエーションのプロセスや結果について議論できるようになる

今後、「M&Aバリュエーション基礎」シリーズで詳細を解説していきますが、未上場株式のバリュエーションの具体的計算方法にはいろいろな方法があり、かつ同じ方法でも計算の前提をどう考えるかによって計算結果が大きく変わってくることがあります。もちろん、信頼できる専門家は詳細を説明してくれたり、分かりやすい報告書を用意してくれたりするでしょう。しかし、当事者自身がバリュエーションを行っていないと、専門家の実施したバリュエーションのプロセスや結果について適切な質問を投げかけたり議論したりすることは難しいと考えられます。売り手自身がバリュエーションを実施していると、そういった議論等の過程を踏むことができ、理解が深まったり、場合によっては専門家がバリュエーションの修正を行ったりすることで、売り手の納得感も高まります。

上記の「1~3」を通じて、より良いM&Aの実現可能性が高まるのです。

次回は、M&Aのバリュエーションを学ぶ前提となる用語の解説を行います。