【架空日記】 奈々子さんの話し | 身寄りのないわたしの老後

身寄りのないわたしの老後

どんな未来が待っているのか
ゆっくりじっくり綴っていきます

あなたには初めて話すわね。
璃子が乳幼児突然死症候群で亡くなったのは夕方だったの。
あとちょうど一ヶ月で一歳、という日だった。
午後3時頃に遊んで、おやつを食べて
それから一眠りして、起きたら晩ご飯、というのが
その頃のスケジュールだったの。
だから、その日も歌を歌って、歌にあわせてぴょんぴょんして。
お白湯とウエハースを食べて、それからベビーベッドで眠ったの。
自分から布団に潜り込んだのよ。
よほど眠かったんでしょうね。
うつ伏せで眠ってしまったから
仰向けにして、タオルケットを半分にしてかけて。

それからちょっとしてから、私は晩ご飯の支度に取りかかったの。
そのときにも璃子を見たけれど、異常はなかった。

ご飯支度の途中でも一度見に行ったわ。
もちろん、呼吸していた。

でも、いつもなら起きてくる時間になっても
起きてこないからまた見に行ったの。

璃子は、まだすーすー寝息をたてて眠っていた。
あまり眠ると夜に眠れなくなるから
起こしたんだけれど、
よほど眠いのか、なかなか目が覚めなくて。
泣き顔になるんだけれど、またそのまま眠ってしまうの。

それから30分くらい経って、見に行ったら
……もう、息をしていなかった。
びっくりして、起こしてゆすって。
手も顔も温かいの。熱いくらいなの。
でも、目を開かないの。呼吸をしていないの。
すぐに心臓マッサージをしたら、ぐう、って言ったの。
あ、声が出た大丈夫だって思った。
でも、違ったみたいで、胸を押すとぐうって言うのだけれど、
それは気道の空気が鳴ってるだけで、
よく聞いたら、声じゃなくて音が鳴ってるだけで。
急いで119番に通報してから、私はずっと心臓マッサージをしていたの。
嘘だ、嘘だ、って思った。
床が、私の立っている床だけが崩れていくような気がした。
そのときに、あの歌、本当のこと歌ってたんだって思った。
大変なときなのに、変なこと思い出すものよね。
  空がくずれ落ちて 大地がこわれても
ていう歌。
そんなことあるわけないって思っていたけれど
本当にそういうことってあるんだ、って思った。
それから、救急車が来て、
お母さん離れて下さいって言われて、
触らないでって言われて、
どうしていいかわからなくて、私、飛び退いて
気がついたら玄関に立っていた。
玄関から璃子を見つめていた。
救急の人も心臓マッサージをして、ぐうっていう音を聞いて
あ、大丈夫かな、って言ったけど、
私が違うんです、て言って。
すぐに、声じゃないってわかったみたい。

それから救急車に乗って病院に行ったの。
ずっと心臓マッサージをして。
救急車のなかでも病院でも
同じ事を繰り返し聞かれたの。

食事は何時に何を食べましたか、
お嬢さんは何時に眠りましたか、
仰向けですか、うつ伏せですか、
いま何ヶ月ですか、
母乳で育てられましたか、
ご家族に喫煙者はいますか、
お母さんの3時以降の行動を聞かせて下さい。

特に、最後の30分については根掘り葉掘り聞かれた。
何をしていましたか、部屋のどこにいましたか、
本当に30分でしたか、もっと時間が経っていたということは
ありませんか、
最後に見たとき、お嬢さんはうつ伏せで眠ってはいませんでしたか。

お母さん、あなたが殺したんじゃないんですか、って聞かれているようだった。






 
 
 
   これらはすべてフィクションです。
 
 

 

 

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