ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

ある街頭演説 横浜・夏

 昨日(6月26日)横浜で麻生太郎自民党副総裁が街頭演説に立ち、若い人々へ向けて「自分の国を自分で守るという意識がない国はあっという間に終わる。……自分の国を守るために戦う……という意識が抑止力になる」ことを「頭に入れ」ておくように、と述べたということです。
 6月26日付朝日新聞の記事に発言が掲載されています。

「殴ったら殴り返されるという意識が抑止力になる」 自民・麻生氏 [自民] [参院選2022]:朝日新聞デジタル

 アフガニスタンは米国が撤収したら1週間で首都が陥落。自分の国を自分で守るという意識がない国はあっという間に終わる。自分たちの国は自分たちで守る、それが基本です。それを明確にしているのがあのウクライナ。我々はあの悲劇から多くを学んでいる。
 「打ったら打ち返す」「殴ったら殴り返される」。そういう意識が相手に無ければいいように殴られるだけでしょうが。自分たちの周りでも見てごらんなさい。いじめられたらいじめられっぱなしですか。違うでしょうが。戦う意思が抑止力になる。武器なんかたくさん持ってたってダメ。それを使って自分の国を守るために戦う。そういう意識が抑止力になる。若い人たちは頭に入れといてもらいたい。

 6月8日付「PRESIDENT Online」の本川裕氏の記事に「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という問いに対する各国の調査結果のグラフがあり、これは本ブログでも引用しました。
「国のために戦いますか?」日本人の「はい」率は世界最低13%…50歳以上の国防意識ガタ落ちの意外な理由 他国はリーマンショック後の世界金融危機直後に「国防意識」上昇 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

 この調査結果にはアフガニスタンがないので、アフガニスタンが「自分の国を自分で守るという意識」(「国防意識」)が「ない国」かどうかは判然としません。麻生氏はどこでアフガニスタンの人に「国防意識」がないことを知ったのかわかりませんが、ウクライナの方はグラフにあります。それによれば、ウクライナの人びとの場合、「国のために戦うか」と問われ、「はい」が56.9%、「いいえ」が25.5%、「わからない」が16.6%です。日本の場合は「はい」が13.2%で「いいえ」が48.6%、「わからない」が38.1%です。さらにこの40年、概して、若年層の方が「はい」と答える人が少ない傾向があります。ひょとしたら、麻生氏はこの結果を見て、ウクライナや他の多くの国の人びとのように半数以上「はい」と答えない、こんな国じゃまずいぞ、若者たちよ、と思っているのかもしれません。
 しかし、本川氏の記事の中では、若い人が云々というよりも、50歳以上の中高年層に国を守る気概が低下していることが指摘されています。小生などは若い頃から武器を持って戦うという意識自体が乏しいのですが、年をとるにしたがい、いっそうそうした「国防意識」は下がっています。麻生氏の期待に沿うような国民でなくてまったくスンマセン……とは思いませんが、麻生氏自身はどうなのでしょうか? 「殴ったら殴り返」す意思を国民に求めておいて、自分が安全なところにいたのでは示しがつきません。総理経験者であり前副総理として、陣頭指揮でもとって戦う気満々なのでしょうか? もし、そういうことでしたら、ご高齢に鞭打つようでまことに恐縮ではあります。

 しかし、「国家のために国民が戦う」当たり前の実例として、ウクライナに言及するのは適当ではないかもしれません。ウクライナはロシアの侵攻後、18歳から60歳までの男性の出国が禁じられました。国のために戦え、逃げるんじゃない、と強制力を働かせたわけです。

 国際政治学者の六辻彰二さんが4月4日付の記事で、ロシアでは若者が経済危機や徴兵を嫌って大挙出国し、兵員不足を外国人傭兵でまかなっている実情に触れたあと、ウクライナについてこう記しています。

「国家のため国民が戦う」が当たり前でなくなる日――ウクライナ侵攻の歴史的意味(六辻彰二) - 個人 - Yahoo!ニュース

……「国家のため国民が戦う」が当たり前でないことは、侵攻された側のウクライナでも大きな差はないとみられる。
 ロシアによる侵攻をきっかけにウクライナ政府は国民に抵抗を呼びかけ、これに呼応する動きもある。海外メディアには「レジスタンス」を賞賛する論調も珍しくない。
 もちろん、祖国のための献身は尊いが、国民の多くが自発的に協力しているかは別問題だ。
 ウクライナからはすでに300万人以上が難民として国外に逃れているが、そのほとんどは女性や子ども、高齢者で、成人男性はほとんどいない。ロシアの侵攻を受け、ウクライナ政府は18-60歳の男性が国外に出るのを禁じ、軍事作戦に協力することを命じているからだ。
 つまり、成人男性は望むと望まざるとにかかわらず、ロシア軍に立ち向かわざるを得ないのだ。そのため、国境まで逃れながら国外に脱出できなかったウクライナ人男性の嘆きはSNSに溢れている。
 裏を返せば、成人男性が無理にでも止められなければ、難民はもっと多かったことになる(戦時下とはいえ強制的に軍務につかせることは国際法違反である可能性もある)。

「どこに行けば安全か」
 予備役を含む職業軍人はともかく、ウクライナ人の多くがもともと戦う意志をもっていたとはいえない。
 昨年末に行われたキエフ社会学国際研究所の世論調査によると、「ロシアの軍事侵攻があった場合にどうするか」という質問に対して、個別の回答では「武器を手にとる」が33.3%と最も多かった。
 しかし、戦う意志を持つ人は必ずしも多数派ではなかった。同じ調査では「国内の安全な場所に逃れる(14.8%)」、「海外に逃れる(9.3%)」、「何もしない(18.6%)」の合計が42.7%だったからだ。
 とりわけ若い世代ほどこの傾向は顕著で、18-29歳のうち「海外へ逃れる」は22.5%、「国内の安全な場所に逃れる」は28.0%だった。ウクライナ侵攻直前の2月初旬、アルジャズィーラの取材に18歳の若者は「僕らの…半分は、どこに行けば安全かを話し合っている」と応えていた。
 こうした男性の多くは現在、望まないままに軍務に就かざるを得ないとみられる。少なくとも、多くのウクライナ人が「国家のために戦う」ことを当たり前と考えているわけではない。……
 その一方で、ウクライナ政府は海外に「義勇兵」を呼びかけている。外国人で戦力を補うという意味で、ウクライナとロシアに大きな違いはない。

<以下略>

 要するに、常日頃から国家のために命を捧げ、事が起こったら戦おうと思っている人はいざ知らず、もし戦争になったら…と尋ねられて、国のために戦うと答えている人でも、実際に戦闘に加わるか(加われる)どうかは別問題で、それは日本だろうが、ロシアだろうが、そして、今回「手本」のように見立てられたウクライナだろうが、変わりがないということです。武器の使い方、戦い方も知らない素人が最前線に立っても役に立たないことは、玄人でなくとも想像がつきます。為政者にしても、正直なところ、実際の実働兵力として一般国民をあてにしているわけではないでしょう。

 「いじめられたらいじめられっぱなしですか。違うでしょうが」という麻生氏の発言(認識)もよくわかりませんが、いじめの被害を受けている側の状況をまったく理解していない、無知のかたまりだということだけはわかります。こういう為政者が、若者に対して、戦う意思が抑止力になることを、(よーく)頭に入れとくように! と偉そうに言うわけです。みんなで後ろから無言で「膝かっくん」でもしてあげた方がいいと思います。




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